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第5章 2
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「……そんな」
佐保子の小さな小屋は、殆ど燃え尽き下火になりかけていた。
魂が、抜け落ちた。
へなへなと崩れ落ちるように、雪の上へ膝をつく。
熱風に乗って、小さな紙片が幾片か雪に混じり、目の前に舞い落ちた。
以前佐保子にあげた、一緒に燃えてしまった本の紙片だった。
――たいせつによみます
――ありがたうね
そう言ってにっこりと微笑んだ佐保子の顔が浮かんだ。
燃え縮れていく紙片に、辛うじて小さな活字が読み取れた。
「大」
忘れもしない。
大せつなものなのでせう
──大切なものなのでしょう?
一度も聞いたことのない佐保子の声が聞こえた。
――すきだから
そう言って私の胸に顔を埋めた佐保子の温もりが蘇った。
炎の熱で溶けかけた雪の上は、大勢の足跡で踏みにじられていた。
呆然としたまま、その蹂躙の痕跡を眺めていた。
それらの無数の足跡の他に、未だ僅かに炎を上げ続ける小屋の裏手から、一組の小さな足跡が伸びていた。
その、必死に走り抜けるような逃走の痕跡は、真っ直ぐ北東の方角へ続いていた。
ふらつく身体を起こし、立ち上がる。
その先には、未だ血を流し続ける、あの山が聳えていた。
佐保子の小さな小屋は、殆ど燃え尽き下火になりかけていた。
魂が、抜け落ちた。
へなへなと崩れ落ちるように、雪の上へ膝をつく。
熱風に乗って、小さな紙片が幾片か雪に混じり、目の前に舞い落ちた。
以前佐保子にあげた、一緒に燃えてしまった本の紙片だった。
――たいせつによみます
――ありがたうね
そう言ってにっこりと微笑んだ佐保子の顔が浮かんだ。
燃え縮れていく紙片に、辛うじて小さな活字が読み取れた。
「大」
忘れもしない。
大せつなものなのでせう
──大切なものなのでしょう?
一度も聞いたことのない佐保子の声が聞こえた。
――すきだから
そう言って私の胸に顔を埋めた佐保子の温もりが蘇った。
炎の熱で溶けかけた雪の上は、大勢の足跡で踏みにじられていた。
呆然としたまま、その蹂躙の痕跡を眺めていた。
それらの無数の足跡の他に、未だ僅かに炎を上げ続ける小屋の裏手から、一組の小さな足跡が伸びていた。
その、必死に走り抜けるような逃走の痕跡は、真っ直ぐ北東の方角へ続いていた。
ふらつく身体を起こし、立ち上がる。
その先には、未だ血を流し続ける、あの山が聳えていた。
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