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 彼は三人の中で一番ぼろぼろで、僕は心配になって全力で飛んだ。左腕の裂傷が酷い。ミディオディアが僕に気づく。目があって、僕が油断した。
 目の前で切り裂かれる彼の体。飛び散る赤色。笑い声みたいな、不愉快な咆哮。
「ミディオディア!」
「大丈夫か!!」
 二人が近づいてきて、マイニャーナが結界を張り、ドラゴン・ゾンビの攻撃が届かないところまでアタルデセルがミディオディアを抱えて下がる。ミディオディアの瞼は閉じられている。

 僕はふらふらとミディオディアの側まで飛んだ。脇腹の裂傷が酷い。血が溢れている。そんな場合ではないのに、なんて お い し そ う 。

 目を閉じて呻く彼の傷口に口付けて、その血を体内に取り込み巡らせる。魔力量が誰より多くて、力に満たされる。
 無意識に元の姿に戻っていた。

 あまりの美味しさに恍惚とした息が漏れる。
 魔力に満たされて、飽和して、漏れないように蓋をする。
 お腹の中でミディオディアの魔力がぐるぐる回ってる。
 芳醇で、甘美で、この上ない御馳走。

 美味しいものは飲み過ぎないのが肝心だ。過ぎれば毒にもなりかねない。
 彼の傷を舐めて塞ぐ。出血は止まっても失った血は戻らない。
 冷たくなってしまった身体を温めるために、口移しで魔力を流す。仄かな温かさが戻った。しばらく増血が必要だけど、死ぬことはない。
「ミディオディア」
 大好きな彼の名前を呼ぶ。彼がそうしてくれたように頭を撫でる。細かな傷も掬い取って修復していく。瞼は閉じられたまま、けれど呼吸は戻った。安堵に息をつく。

 綺麗になった彼を見て満足した。
 立ち上がり彼らの周りを結界で包み込む。呆然と僕を見る二人に心が痛んだ。
「ごめんね」
 いつの間にか流れた涙を拭って、ドラゴン・ゾンビに向かう。コップ一杯程の血を貰ったから、今の僕は無敵だ。

 ギギャッと不快な声でドラゴン・ゾンビが喚く。そいつの目の前に浮遊して笑いかける。胸に手を当てて優雅に一礼。
「こんにちは。僕はドース・デラ・ノッティ。ドース一族、始祖の系譜に連なる者。あ、でも覚えなくていいよ」
 右腕を前に出して、魔力で相手の核を掴む。
「もう死ぬから」
 核を粉々に砕く。ドラゴン・ゾンビの身体が塵になっていく。耳障りな咆哮ごと飲み込むように魔力で作った夜のマントに包む。
 このまま放置すれば地面が腐るので、夜のマントを小さくして懐に収めておく。


 はぁ、と重い息を吐きだして、何をするでもなく空を見る。
 大好きな人たちの目が見られない。きっと嫌悪に歪んでいるんだ。流れてきた涙を今度は拭わない。全部流れてしまえばいい。あんな、本能に支配されたみたいな醜悪な姿を晒して、みんなとはもう居られないんだ。
 ぼたぼたと涙が地面に吸い込まれていく。
「ありがとう」
 後ろから心地いい体温に包み込まれた。嗚咽を殺す。振り返れない。
「助けてくれて、ありがとう」
 重ねられた感謝の言葉に、恐る恐る彼の、ミディオディアの顔を見た。顔色は悪い。けれど、微笑んでいる。
 振り返って酷い顔を見られないように彼の服に埋める。僕を撫でる指の優しさは変わらなかった。
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