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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編
あいつの隣に立ちたくて
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ひとりで電車に揺られながら、泰然は窓の外に目をやった。
午後の陽差しが、遠くのビル群を淡く照らしている。
(……こんなに静かな日常が、ずっと続くわけないって、昔から知ってた)
泰然は、母親が連れ戻された日を今でもよく覚えている。
旧家――とある財閥の令嬢だった母。
父と駆け落ちして泰然を儲けたはいいが、泰然が小学校低学年の頃に実家に発見されて、連れ戻されてしまった。
『泰然。お母さんは、遠くに行かなくちゃいけないの。だからお父さんをお願いね……』
別れ際、母にそう言われて泣き合った記憶がある。
黒服とサングラスの男たちが何人も囲んできて、母は黒い車に乗せられて去ってしまった。
それっきり、一度も会えていない。
父は誠実で、厳しくも優しい人だったけれど、母の一族から徹底的に排除され、やがて海外に飛ばされた。
それも〝希望の転勤〟じゃない。名ばかりの左遷だった。
最初は手紙も仕送りも届いていたが、中学を卒業する頃にはすべて途絶えた。
母の実家は泰然を認めるつもりはないようだ。祖父がまだ健在のはずだが、一度も会ったことがない。
——頼る相手が、ひとりもいなくなった。
高校には進学した。成績も悪くなかったし、本当はクリエイターを目指して美術系の大学に行きたくて中学の頃から頑張っていたのだ。
絵を描くことが好きだったし、ものづくりが楽しかった。
でも、現実は甘くなかった。
学費も生活費も、すべて自分で稼がなければならない。
だから——辞めた。
進学を、夢を、自分を。
バーチャルゲームのLOIだけが自分にはあった。
最初はただの現実逃避だったけれど、ゲームの中で〝装備デザイン〟を作成する機能にハマって、初めて他人に褒められた。
「この装備、見た目も性能も最高!」
「ギルドカラーに合っててセンスある」
「マスターのデザイン、マジで毎回好き」
嬉しかった。誰かに「必要とされる」感覚が、あの頃の自分には何よりの救いだった。
そんな泰然がギルドを創設したのは自然な流れだった。
仲間が集まり、初心者をサポートし、どんどん規模が大きくなっていった。
もちろん、ずっと順風満帆なわけじゃなかった。
メンバーが抜けたり、裏切られたり。リアルの生活費が足りなくなったことも一度や二度じゃない。
でも。
「このギルドは、俺の居場所なんだ」
そう思えたから、続けてこられた。
それに、泰然の側にはずっと怜司がいてくれた。
幼稚園の頃からの幼馴染みだ。残念ながらVR酔い体質のせいで一緒にはLOIを遊べなかったが、
『ゲームしてる泰然を見てるだけで楽しい』
と放課後や休日にずっと一緒にいる仲だった。
幼い頃からずっと一緒だったから、泰然は怜司がどれほど人気のあるやつなのか、どれほど優秀な男なのか最初はピンと来ていなかった。
泰然にとって怜司は、ちょっと天然で、泰然と遊ぶのが好きで、やたらと要領のいいデキるやつだった。
ずっと一番の親友だった。その関係を崩したのは泰然からだ。
(クラスの女子に、告白されてたから)
カッとなってした、初めての告白は泰然からだった。いや、告白というほどはっきりはしていなかった。
(怜司が女の子だったら、彼女になってって言ったのになあって……いや俺なに言ってんだって感じだけどさ)
怜司はその言葉を聞いて困った顔をしていたが、数日経って満面の笑みで返事をくれた。
『泰然。お互い彼氏だけど、お付き合いしてください』
どうやら泰然の言う〝彼女〟に引っかかって、数日必死で考え込んでいたらしい。結論が出て、自分から告白し直しに来たのだ。
どうにも真っ直ぐすぎて、少し笑ってしまったのを覚えている。
(けどあいつ、自分のこと〝ただの凡人〟って思ってるんだよなあ……)
そんなわけがなかった。学生の頃からスマホ用のアプリを作っては、ちゃっかり大金を稼いでいたし、大学進学と同時に実家を出て、今じゃ弟の凛太と二人暮らしだ。
……しかもあのマンション。最新セキュリティ付きでロフトまであるハイグレードマンション。どう考えても、当時大学生の住まいじゃなかった。
怜司は何も言わないけど、今でもかなり稼いでるはずだ。就職したのは銀行だったが、プログラムのシステムエンジニアとしての年棒契約制だと言っていた。
(ああいうのを、エリートっていうんだろうな)
自分は——狭いワンルームのアパートに住んでいる。まだ両親が揃っていた頃からずっと同じところだ。家賃は共益費込みの48,000円。毎月の生活費も10万と少しまでに抑えている。
少しでもギルド運営に金を回すために、生活は極限まで切り詰めているのだ。
(……あいつのヒモにはなりたくなかったからさ)
『泰然。どうか僕と一緒に暮らしてほしい。同居すれば生活費も浮くし……』
怜司は何度もそう言って泰然を誘ってくれたが、それでも自分からは決断できなかった。
元々の生活ランクが違いすぎる。
(……俺、そういうのは望んでない)
甘やかさればかりじゃなくて、同じ目線で支え合う関係でいたい。
それが泰然の、いちばん大事なプライドだった。
(ほんとは、ずっと一緒にいたい。いつでも抱き締め合える場所にいたい)
でもその前に、今の自分のままで怜司と向き合うべきだ。
怜司はLOIに来てくれた。VR酔いのハンデがあったはずなのに。
……ゲーム恋人の件で怒っていたはずなのに、デスメリーの策略から自分とギルドを助けてもくれた。
だから今日、この後はちゃんと話をする。
ホテルに来いと言うからその通りにして。
たとえ泣いてしまっても。
たとえ情けない姿を見せてしまっても。
それでも泰然は、怜司に言いたかった。
(俺は守られるだけの男じゃない。お前の隣に立つために生きてきたんだ、って)
午後の陽差しが、遠くのビル群を淡く照らしている。
(……こんなに静かな日常が、ずっと続くわけないって、昔から知ってた)
泰然は、母親が連れ戻された日を今でもよく覚えている。
旧家――とある財閥の令嬢だった母。
父と駆け落ちして泰然を儲けたはいいが、泰然が小学校低学年の頃に実家に発見されて、連れ戻されてしまった。
『泰然。お母さんは、遠くに行かなくちゃいけないの。だからお父さんをお願いね……』
別れ際、母にそう言われて泣き合った記憶がある。
黒服とサングラスの男たちが何人も囲んできて、母は黒い車に乗せられて去ってしまった。
それっきり、一度も会えていない。
父は誠実で、厳しくも優しい人だったけれど、母の一族から徹底的に排除され、やがて海外に飛ばされた。
それも〝希望の転勤〟じゃない。名ばかりの左遷だった。
最初は手紙も仕送りも届いていたが、中学を卒業する頃にはすべて途絶えた。
母の実家は泰然を認めるつもりはないようだ。祖父がまだ健在のはずだが、一度も会ったことがない。
——頼る相手が、ひとりもいなくなった。
高校には進学した。成績も悪くなかったし、本当はクリエイターを目指して美術系の大学に行きたくて中学の頃から頑張っていたのだ。
絵を描くことが好きだったし、ものづくりが楽しかった。
でも、現実は甘くなかった。
学費も生活費も、すべて自分で稼がなければならない。
だから——辞めた。
進学を、夢を、自分を。
バーチャルゲームのLOIだけが自分にはあった。
最初はただの現実逃避だったけれど、ゲームの中で〝装備デザイン〟を作成する機能にハマって、初めて他人に褒められた。
「この装備、見た目も性能も最高!」
「ギルドカラーに合っててセンスある」
「マスターのデザイン、マジで毎回好き」
嬉しかった。誰かに「必要とされる」感覚が、あの頃の自分には何よりの救いだった。
そんな泰然がギルドを創設したのは自然な流れだった。
仲間が集まり、初心者をサポートし、どんどん規模が大きくなっていった。
もちろん、ずっと順風満帆なわけじゃなかった。
メンバーが抜けたり、裏切られたり。リアルの生活費が足りなくなったことも一度や二度じゃない。
でも。
「このギルドは、俺の居場所なんだ」
そう思えたから、続けてこられた。
それに、泰然の側にはずっと怜司がいてくれた。
幼稚園の頃からの幼馴染みだ。残念ながらVR酔い体質のせいで一緒にはLOIを遊べなかったが、
『ゲームしてる泰然を見てるだけで楽しい』
と放課後や休日にずっと一緒にいる仲だった。
幼い頃からずっと一緒だったから、泰然は怜司がどれほど人気のあるやつなのか、どれほど優秀な男なのか最初はピンと来ていなかった。
泰然にとって怜司は、ちょっと天然で、泰然と遊ぶのが好きで、やたらと要領のいいデキるやつだった。
ずっと一番の親友だった。その関係を崩したのは泰然からだ。
(クラスの女子に、告白されてたから)
カッとなってした、初めての告白は泰然からだった。いや、告白というほどはっきりはしていなかった。
(怜司が女の子だったら、彼女になってって言ったのになあって……いや俺なに言ってんだって感じだけどさ)
怜司はその言葉を聞いて困った顔をしていたが、数日経って満面の笑みで返事をくれた。
『泰然。お互い彼氏だけど、お付き合いしてください』
どうやら泰然の言う〝彼女〟に引っかかって、数日必死で考え込んでいたらしい。結論が出て、自分から告白し直しに来たのだ。
どうにも真っ直ぐすぎて、少し笑ってしまったのを覚えている。
(けどあいつ、自分のこと〝ただの凡人〟って思ってるんだよなあ……)
そんなわけがなかった。学生の頃からスマホ用のアプリを作っては、ちゃっかり大金を稼いでいたし、大学進学と同時に実家を出て、今じゃ弟の凛太と二人暮らしだ。
……しかもあのマンション。最新セキュリティ付きでロフトまであるハイグレードマンション。どう考えても、当時大学生の住まいじゃなかった。
怜司は何も言わないけど、今でもかなり稼いでるはずだ。就職したのは銀行だったが、プログラムのシステムエンジニアとしての年棒契約制だと言っていた。
(ああいうのを、エリートっていうんだろうな)
自分は——狭いワンルームのアパートに住んでいる。まだ両親が揃っていた頃からずっと同じところだ。家賃は共益費込みの48,000円。毎月の生活費も10万と少しまでに抑えている。
少しでもギルド運営に金を回すために、生活は極限まで切り詰めているのだ。
(……あいつのヒモにはなりたくなかったからさ)
『泰然。どうか僕と一緒に暮らしてほしい。同居すれば生活費も浮くし……』
怜司は何度もそう言って泰然を誘ってくれたが、それでも自分からは決断できなかった。
元々の生活ランクが違いすぎる。
(……俺、そういうのは望んでない)
甘やかさればかりじゃなくて、同じ目線で支え合う関係でいたい。
それが泰然の、いちばん大事なプライドだった。
(ほんとは、ずっと一緒にいたい。いつでも抱き締め合える場所にいたい)
でもその前に、今の自分のままで怜司と向き合うべきだ。
怜司はLOIに来てくれた。VR酔いのハンデがあったはずなのに。
……ゲーム恋人の件で怒っていたはずなのに、デスメリーの策略から自分とギルドを助けてもくれた。
だから今日、この後はちゃんと話をする。
ホテルに来いと言うからその通りにして。
たとえ泣いてしまっても。
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それでも泰然は、怜司に言いたかった。
(俺は守られるだけの男じゃない。お前の隣に立つために生きてきたんだ、って)
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