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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
大事なものを間違えてはならない(竜殺し様のありがたい悪知恵)
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羽竜が飛び去った後、エスティアたちは半分崩れかけていた山頂の洞窟を土の魔力持ちのセドリック中心に修復し、聖杯を再び安置してから下山した。
アヴァロン山脈から下山すると、もう誰もがぐったりしていた。いくら何でもほんの数日で山頂まで登って下山しては強行軍すぎた。
それから更に数日、皆はエスティアのパラディオ伯爵家で疲れを癒していた。
一番最初に伯爵邸を辞したのはサンドローザ王女と婚約者の公爵令息ヒューレットだ。
迎えに来た近衛の馬車で大手を振って帰っていった。
一応、今さらながら婚約者を寝取られた者として当事者だけで話し合いをしようとしたエスティアだったが、父テレンスに止められていた。
「このまま何も言わずに帰してやれ。王家とヒューレットのノア公爵家に大きな貸しを作れる」
「お父様?」
「王女はあのままヒューレットの手の上で転がされて飼い殺しだ。まあ、あの男ならそうと自覚させることもないのだろうが」
実際、翌年彼らは結婚して数年後にはサンドローザが女王に即位したが、政務は主に、王配となったヒューレットが実家の公爵家の権威を背景に振るった。
夫婦仲は良かったが、女王サンドローザの影は彼女が退位するまでずっと薄いままだった。
次はヨシュアだ。彼もアヴァロン山脈でエスティアたちに出会うまでは水も飲めずに干からびかけていた男。
数日はパラディオ伯爵家で用意してもらった客間で体力と魔力の回復に努めていた。
青銀の髪と薄水色の瞳の彼は、麗しい男だ。使用人たちの間では誰が世話するかで取り合いになって争いが発生したほど。
当の本人は朝昼晩の食事で食堂に来る以外は客間にこもっていて、部屋付きの侍従の報告では窓際に座って寂しそうに外を眺めていることが多かったそうだ。
そしていざ出立を決めた当日、ヨシュアは朝食前の早い時間にセドリックのいる部屋を訪れた。
あの灰色ふわふわの羽竜に装着させたものと同じ、魔法樹脂で作ったウインドチャイム付きのネックレスを渡した。
これを持って鳴らすと、同じものを身につけた羽竜を呼び寄せることができる。
「これをなぜ、私に?」
「短い付き合いだけど、他の人たちは利害関係が複雑みたいだからさ。見た感じ、彼らの中で君が一番、信用できると思ったんだ」
そして「もう会うこともないだろうから、お節介だけど言わせてほしい」と、エスティアとの将来に苦悩するセドリックにアドバイスをしてきた。
いや、呆れて具体的な対策の知恵を授けてきた。
「君は庶子とはいえ隣国の王女とこの国の貴族の子なんだろ? 出自は確かなんだからそこを前面に出してエスティア嬢の伴侶の座を狙えばいいじゃないか」
「それは当然考えた。だが母が私を身ごもったのは父と婚約破棄した後なんだ。だからどうしても正当性に欠けてしまう……」
「ふむ」
麗しの顔でヨシュアが考え込んだ。
そしてすぐに良いアイデアが閃いたようで、ニンマリ笑った。
「この国や君の国では〝鑑定〟スキルはどうなってる? 一般化されてるか? それとも既得権益の一種として独占されてるか?」
「教会の聖職者たちの独占だ。必要があれば多額の金貨を積んで鑑定してもらう」
その金額が高額なので、貴族の間でも鑑定はあまり一般的とは言えなかった。これはセドリックのカルダーナ王国でも同じだ。
「人物鑑定スキルの高位ランクになると、誰といつどこで体を重ねたかまで読み取れるそうだよ。スキルの持ち主を探し出して、君の母親が誰をいつ受け入れたか鑑定して証明書を出してもらうといい」
「いや、その時期が判明しても……」
母が実父と関係を持った時期が悪い。
父親ランスロットは一方的に婚約者ギネヴィアと婚約破棄した後、謝罪のため王女だったギネヴィアの国カルダーナを訪れている。
ギネヴィアは不実な男でもランスロットを愛していたから、隣国の王宮へやってきたランスロットに薬を盛って強引に本懐を遂げた。
その結果が、セドリックである。
当時の国王だった先王は、娘の産んだ〝父親がわからない〟男児を自分の庶子扱いで認知し、後に王子の身分と称号を与えた。
実際は先王の孫であり、現国王の甥なのだ。
孕まれた場所が隣国カルダーナ王宮で、育ったのもカルダーナ王家の別宅。
結果、セドリックはカルダーナ王家に多い黒髪と彫りの深い顔立ちを持って生まれた。
薄青の瞳は父方ランスロットに似た。プリズム王国の古い貴族だった実父の血の強さである。
「そして同時に、ステータス内容を改竄するスキルの保持者も見つけるといい」
「……何だと?」
ヨシュアは麗しの顔で美しく笑っているが、言っている内容はろくでもない。
「だからさ。君の母親が君の父と寝た時期を、まだ婚約していた時期に改竄してもらうんだ。ついでに父親のほうのステータスもね」
「……いや、実父は事故で数年前に亡くなっている。その必要はない」
だから永遠に己の立場を回復する機会を失ってしまった。セドリックはそう思っていた。
だがヨシュアにとっては「そんなこと」程度のことだったらしい。
「手間が省けるじゃないか。母親が未婚で妊娠出産していたとしても、相手が当時の婚約中の婚約者なら世間の見る目も多少は甘くなる。違うかい?」
「……いいや。その通りだ。だが……」
一種の詐欺行為である。セドリックの厳格な性格にとっては抵抗感があった。
そんな眉間に深い皺を寄せたセドリックの葛藤などお見通しだと言わんばかりに、ヨシュアが笑っている。
「君さ、自分の大事なものが何なのか見失わないほうがいいんじゃないの? エスティア嬢はいま未婚でフリーの女伯爵だろ? 競争率高そう」
「ぐっ」
その通りだ。婿入りしたい者は国内だけでも山ほどいるはず。
「惚れた女のためだろ? 自分の信条ぐらい曲げてやりなよ」
ヨシュアがどんどん畳み掛けてくる。
「君みたいな奴は気をつけなよ? 誰と結ばれても絶対女から言われるよ。『私と仕事、どっちが大事なの!?』的なやつ」
ありそう。セドリックは自分でも思った。
「まあオレは好きな子に言う側だったけどね。『オレとチョコレートどっちが大事なんですか!?』」
チョコレート? とセドリックは首を傾げたが彼が好きな子からどんな返事を貰ったか気になった。
「それは何て返されたんだ?」
「『どっちも大好き!』だって。はああ、可愛かった。オレも大好きですってハグしたよね、堪らないよね」
「結局、惚れた者の負けか」
「そう。チョコレートより価値のある男にならなきゃなんだ」
お互い顔を見合わせて深い溜息をついた。
「ふふ、人物鑑定スキル上級とステータス隠蔽スキルの両方を持った人物に心当たりがある。オレの叔父なんだけどね。時間があるなら西の小国を訪ねるといい」
そこにヨシュアの叔父がいる。訪ねれば助けになってくれるよう一筆書いてくれたようだ。
言うだけ言って、紹介状をセドリックに押しつけてヨシュアは旅立っていった。
「これから悪い魔女を倒しに行くんだ。食料やポーション補給させてくれてありがとうってエスティア嬢に伝えておいてくれる?」
そう言うヨシュアの表情は少し暗かったが、引き留める間もなく彼は行ってしまった。
受け取った手紙の差出人には『リースト侯爵ヨシュア』とある。
そして表の宛先には。
「『西の魔王』宛だと……? ………………そうか、彼は魔王の縁者だったか」
強いわけだ。それなら竜殺しの称号持ちも、〝家族や幼馴染みとドラゴンと遊んでいた〟も納得だ。
ヨシュアが出立したことと、彼から受け取った手紙のことを後から聞いたエスティアは冷や汗どころではない。血の気が引く思いをした。
(ま、魔王の縁者って。なら彼はお助けキャラでもシークレットキャラでもない。ラスボスだったのでは!?)
危なかった。なら、黒竜と対峙したときエスティアたちは真実、彼に試されていたのだ。
ちなみに数ヶ月後、ヨシュアの名前で彼の故郷の名物だという一尾丸ごとの冷燻の鮭が山ほど届いた。
アヴァロン山脈で干物になりかけていたところを助けてもらった礼だそうだ。それはもう舌が蕩けるほどの美味だった。
鮭にはなぜか、箱入りの高級チョコレートまで添えられていたと聞いて、強面のセドリックが噴き出すことになったのはご愛嬌である。
「彼は結局、意中の人に『チョコレートより大好き』と言ってもらえたのだろうか?」
※鮭の人ネタを回収。ちなみにまだまだ言ってもらえそうもない。
アヴァロン山脈から下山すると、もう誰もがぐったりしていた。いくら何でもほんの数日で山頂まで登って下山しては強行軍すぎた。
それから更に数日、皆はエスティアのパラディオ伯爵家で疲れを癒していた。
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迎えに来た近衛の馬車で大手を振って帰っていった。
一応、今さらながら婚約者を寝取られた者として当事者だけで話し合いをしようとしたエスティアだったが、父テレンスに止められていた。
「このまま何も言わずに帰してやれ。王家とヒューレットのノア公爵家に大きな貸しを作れる」
「お父様?」
「王女はあのままヒューレットの手の上で転がされて飼い殺しだ。まあ、あの男ならそうと自覚させることもないのだろうが」
実際、翌年彼らは結婚して数年後にはサンドローザが女王に即位したが、政務は主に、王配となったヒューレットが実家の公爵家の権威を背景に振るった。
夫婦仲は良かったが、女王サンドローザの影は彼女が退位するまでずっと薄いままだった。
次はヨシュアだ。彼もアヴァロン山脈でエスティアたちに出会うまでは水も飲めずに干からびかけていた男。
数日はパラディオ伯爵家で用意してもらった客間で体力と魔力の回復に努めていた。
青銀の髪と薄水色の瞳の彼は、麗しい男だ。使用人たちの間では誰が世話するかで取り合いになって争いが発生したほど。
当の本人は朝昼晩の食事で食堂に来る以外は客間にこもっていて、部屋付きの侍従の報告では窓際に座って寂しそうに外を眺めていることが多かったそうだ。
そしていざ出立を決めた当日、ヨシュアは朝食前の早い時間にセドリックのいる部屋を訪れた。
あの灰色ふわふわの羽竜に装着させたものと同じ、魔法樹脂で作ったウインドチャイム付きのネックレスを渡した。
これを持って鳴らすと、同じものを身につけた羽竜を呼び寄せることができる。
「これをなぜ、私に?」
「短い付き合いだけど、他の人たちは利害関係が複雑みたいだからさ。見た感じ、彼らの中で君が一番、信用できると思ったんだ」
そして「もう会うこともないだろうから、お節介だけど言わせてほしい」と、エスティアとの将来に苦悩するセドリックにアドバイスをしてきた。
いや、呆れて具体的な対策の知恵を授けてきた。
「君は庶子とはいえ隣国の王女とこの国の貴族の子なんだろ? 出自は確かなんだからそこを前面に出してエスティア嬢の伴侶の座を狙えばいいじゃないか」
「それは当然考えた。だが母が私を身ごもったのは父と婚約破棄した後なんだ。だからどうしても正当性に欠けてしまう……」
「ふむ」
麗しの顔でヨシュアが考え込んだ。
そしてすぐに良いアイデアが閃いたようで、ニンマリ笑った。
「この国や君の国では〝鑑定〟スキルはどうなってる? 一般化されてるか? それとも既得権益の一種として独占されてるか?」
「教会の聖職者たちの独占だ。必要があれば多額の金貨を積んで鑑定してもらう」
その金額が高額なので、貴族の間でも鑑定はあまり一般的とは言えなかった。これはセドリックのカルダーナ王国でも同じだ。
「人物鑑定スキルの高位ランクになると、誰といつどこで体を重ねたかまで読み取れるそうだよ。スキルの持ち主を探し出して、君の母親が誰をいつ受け入れたか鑑定して証明書を出してもらうといい」
「いや、その時期が判明しても……」
母が実父と関係を持った時期が悪い。
父親ランスロットは一方的に婚約者ギネヴィアと婚約破棄した後、謝罪のため王女だったギネヴィアの国カルダーナを訪れている。
ギネヴィアは不実な男でもランスロットを愛していたから、隣国の王宮へやってきたランスロットに薬を盛って強引に本懐を遂げた。
その結果が、セドリックである。
当時の国王だった先王は、娘の産んだ〝父親がわからない〟男児を自分の庶子扱いで認知し、後に王子の身分と称号を与えた。
実際は先王の孫であり、現国王の甥なのだ。
孕まれた場所が隣国カルダーナ王宮で、育ったのもカルダーナ王家の別宅。
結果、セドリックはカルダーナ王家に多い黒髪と彫りの深い顔立ちを持って生まれた。
薄青の瞳は父方ランスロットに似た。プリズム王国の古い貴族だった実父の血の強さである。
「そして同時に、ステータス内容を改竄するスキルの保持者も見つけるといい」
「……何だと?」
ヨシュアは麗しの顔で美しく笑っているが、言っている内容はろくでもない。
「だからさ。君の母親が君の父と寝た時期を、まだ婚約していた時期に改竄してもらうんだ。ついでに父親のほうのステータスもね」
「……いや、実父は事故で数年前に亡くなっている。その必要はない」
だから永遠に己の立場を回復する機会を失ってしまった。セドリックはそう思っていた。
だがヨシュアにとっては「そんなこと」程度のことだったらしい。
「手間が省けるじゃないか。母親が未婚で妊娠出産していたとしても、相手が当時の婚約中の婚約者なら世間の見る目も多少は甘くなる。違うかい?」
「……いいや。その通りだ。だが……」
一種の詐欺行為である。セドリックの厳格な性格にとっては抵抗感があった。
そんな眉間に深い皺を寄せたセドリックの葛藤などお見通しだと言わんばかりに、ヨシュアが笑っている。
「君さ、自分の大事なものが何なのか見失わないほうがいいんじゃないの? エスティア嬢はいま未婚でフリーの女伯爵だろ? 競争率高そう」
「ぐっ」
その通りだ。婿入りしたい者は国内だけでも山ほどいるはず。
「惚れた女のためだろ? 自分の信条ぐらい曲げてやりなよ」
ヨシュアがどんどん畳み掛けてくる。
「君みたいな奴は気をつけなよ? 誰と結ばれても絶対女から言われるよ。『私と仕事、どっちが大事なの!?』的なやつ」
ありそう。セドリックは自分でも思った。
「まあオレは好きな子に言う側だったけどね。『オレとチョコレートどっちが大事なんですか!?』」
チョコレート? とセドリックは首を傾げたが彼が好きな子からどんな返事を貰ったか気になった。
「それは何て返されたんだ?」
「『どっちも大好き!』だって。はああ、可愛かった。オレも大好きですってハグしたよね、堪らないよね」
「結局、惚れた者の負けか」
「そう。チョコレートより価値のある男にならなきゃなんだ」
お互い顔を見合わせて深い溜息をついた。
「ふふ、人物鑑定スキル上級とステータス隠蔽スキルの両方を持った人物に心当たりがある。オレの叔父なんだけどね。時間があるなら西の小国を訪ねるといい」
そこにヨシュアの叔父がいる。訪ねれば助けになってくれるよう一筆書いてくれたようだ。
言うだけ言って、紹介状をセドリックに押しつけてヨシュアは旅立っていった。
「これから悪い魔女を倒しに行くんだ。食料やポーション補給させてくれてありがとうってエスティア嬢に伝えておいてくれる?」
そう言うヨシュアの表情は少し暗かったが、引き留める間もなく彼は行ってしまった。
受け取った手紙の差出人には『リースト侯爵ヨシュア』とある。
そして表の宛先には。
「『西の魔王』宛だと……? ………………そうか、彼は魔王の縁者だったか」
強いわけだ。それなら竜殺しの称号持ちも、〝家族や幼馴染みとドラゴンと遊んでいた〟も納得だ。
ヨシュアが出立したことと、彼から受け取った手紙のことを後から聞いたエスティアは冷や汗どころではない。血の気が引く思いをした。
(ま、魔王の縁者って。なら彼はお助けキャラでもシークレットキャラでもない。ラスボスだったのでは!?)
危なかった。なら、黒竜と対峙したときエスティアたちは真実、彼に試されていたのだ。
ちなみに数ヶ月後、ヨシュアの名前で彼の故郷の名物だという一尾丸ごとの冷燻の鮭が山ほど届いた。
アヴァロン山脈で干物になりかけていたところを助けてもらった礼だそうだ。それはもう舌が蕩けるほどの美味だった。
鮭にはなぜか、箱入りの高級チョコレートまで添えられていたと聞いて、強面のセドリックが噴き出すことになったのはご愛嬌である。
「彼は結局、意中の人に『チョコレートより大好き』と言ってもらえたのだろうか?」
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