39 / 66
「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
その頃、父親と元婚約者は
しおりを挟む
濃いめのミルクティ色の癖毛と緑の瞳の美男テレンスは、金髪青目の自分とよく似たこちらも美しい青年アルフォートを引きずるように道連れにして山道を歩いていた。
向かうはプリズム王国の聖域、アヴァロン山脈だ。
「叔父貴ぃ。こんな遠回りして何やろうっていうんだ?」
パラディオ伯爵家を出る際、テレンスは軟禁されていたアルフォートを強引に連れ出していた。
護衛の騎士たちをわざわざ魔法で眠らせて。テレンスは風魔法の使い手。風魔法には人間の精神に作用する術も多い。この手の悪戯は学生時代からお手の物だった。
しかも一度、〝愛人〟親子のいる別宅を経由してから、アヴァロン山脈に登っている。
監視の目を欺けていたら良いのだが。
「こんな三文芝居いつまでもやってられるか! アルフォート、お前だってそうだろう!?」
「いやー俺はサンドローザ様がいればそれでいいかなあって」
まさか学生時代の憧れの王女様と自分が両想いとは思いもしなかった。
しかもお互い初体験で初めてを捧げ合った。まさに奇跡。
やに下がった顔でアルフォートはへらへら笑っている。
「この野郎。エスティアの結婚式を台無しにした報いは必ず受けさせてやるからな!」
「あー……。それ叔父貴に報復される前に隣国の王弟殿下に殺されそう」
美形の叔父が凄んでくるがあんまり怖くはない。もっと怖いものをアルフォートは知っている。実家の祖父マーリンだ。
「お前さえエスティアと結婚してたら親父が賢者の石をくれたのに。そしたらもうポーション研究も必要なくなる。エスティアがカタリナの二の舞になったらどうしてくれる!?」
「カタリナ伯母さん、魔物退治の過労で亡くなったんだっけ? 叔父貴が代わりに戦ってやりゃよかったのに」
「そのカタリナが私を戦わせなかったんだ! 代わりにポーション開発で助けてくれって言うから、私は……私は……くそ、まさかあんなに早く死んでしまうなんて」
悔やむテレンスをよそにアルフォートはそびえ立つ山脈を見上げた。
「おい見ろよ、叔父貴。ヤバいぞ、中腹から上が瘴気で真っ黒。しかも」
ギャオーン……と遠くからドラゴンの鳴き声まで響いてきている。
「こんな場所に本当に聖杯があるのかよ? 情報間違ってないか?」
「学生時代のロゼット王妃やカタリナと一緒に、山頂付近で確かにこの目で見ている。……王家がエスティアに目をつける前に確保だ!」
「……何で俺まで巻き込むかな」
一度寄った愛人宅で装備は整えてきたが、テレンスもアルフォートも典型的な魔法使いで剣や弓など武器は苦手だ。
この状態で魔物に襲われたら結構きつい。
「『条件を満たした者の願いを叶える』だっけ? そんな眉唾ものがあるとは思えねえけどな」
かつてロゼット王妃とアーサー国王たちは同じアヴァロン山脈に登って聖杯を探し出し、プリズム王国を覆い尽くそうとしていた黒竜の瘴気被害を解決した。
二人は結ばれてサンドローザ王女が生まれたが、彼女はロゼット王妃が持っていた光の魔力を受け継がなかった。
受け継いだのは父王の火の魔力だ。そこそこ強いが両親を上回るほどじゃなかった。
(そこで何でわざわざ親戚とはいえ王家の遠縁のモリスン子爵家を思い出すんだよ。サンドローザ様が跡継ぎでいいじゃないか。母親が平民なのが気に食わないならモリスン子爵家だって王族の血はだいぶ薄まってるのに)
ただでさえ面倒くさい王家の事情に巻き込まれているのに、特にテレンスは妻カタリナを早死にさせたことで、カタリナのファンだったロゼット王妃に恨まれている。
その上、アーサー国王は学生時代から寵愛していたテレンスをまだ諦めていないとの噂もある。
(叔父貴なんて顔が良いだけのオッサンじゃん。国王なら若くてピチピチの女でも男でもよりどりみどりじゃないのかね)
そこに来て最近また国内に広がり始めた瘴気被害。
(今の王家から天命が薄れてきてるってことなのかねえ)
言い伝えでは、国王が良く治める時代にはアヴァロン山脈を寝ぐらにする黒竜は大人しく、瘴気を発しない。
国が乱れたときに暴れ出して、瘴気で国内を汚染し、人の心を乱す。そう言われていた。
向かうはプリズム王国の聖域、アヴァロン山脈だ。
「叔父貴ぃ。こんな遠回りして何やろうっていうんだ?」
パラディオ伯爵家を出る際、テレンスは軟禁されていたアルフォートを強引に連れ出していた。
護衛の騎士たちをわざわざ魔法で眠らせて。テレンスは風魔法の使い手。風魔法には人間の精神に作用する術も多い。この手の悪戯は学生時代からお手の物だった。
しかも一度、〝愛人〟親子のいる別宅を経由してから、アヴァロン山脈に登っている。
監視の目を欺けていたら良いのだが。
「こんな三文芝居いつまでもやってられるか! アルフォート、お前だってそうだろう!?」
「いやー俺はサンドローザ様がいればそれでいいかなあって」
まさか学生時代の憧れの王女様と自分が両想いとは思いもしなかった。
しかもお互い初体験で初めてを捧げ合った。まさに奇跡。
やに下がった顔でアルフォートはへらへら笑っている。
「この野郎。エスティアの結婚式を台無しにした報いは必ず受けさせてやるからな!」
「あー……。それ叔父貴に報復される前に隣国の王弟殿下に殺されそう」
美形の叔父が凄んでくるがあんまり怖くはない。もっと怖いものをアルフォートは知っている。実家の祖父マーリンだ。
「お前さえエスティアと結婚してたら親父が賢者の石をくれたのに。そしたらもうポーション研究も必要なくなる。エスティアがカタリナの二の舞になったらどうしてくれる!?」
「カタリナ伯母さん、魔物退治の過労で亡くなったんだっけ? 叔父貴が代わりに戦ってやりゃよかったのに」
「そのカタリナが私を戦わせなかったんだ! 代わりにポーション開発で助けてくれって言うから、私は……私は……くそ、まさかあんなに早く死んでしまうなんて」
悔やむテレンスをよそにアルフォートはそびえ立つ山脈を見上げた。
「おい見ろよ、叔父貴。ヤバいぞ、中腹から上が瘴気で真っ黒。しかも」
ギャオーン……と遠くからドラゴンの鳴き声まで響いてきている。
「こんな場所に本当に聖杯があるのかよ? 情報間違ってないか?」
「学生時代のロゼット王妃やカタリナと一緒に、山頂付近で確かにこの目で見ている。……王家がエスティアに目をつける前に確保だ!」
「……何で俺まで巻き込むかな」
一度寄った愛人宅で装備は整えてきたが、テレンスもアルフォートも典型的な魔法使いで剣や弓など武器は苦手だ。
この状態で魔物に襲われたら結構きつい。
「『条件を満たした者の願いを叶える』だっけ? そんな眉唾ものがあるとは思えねえけどな」
かつてロゼット王妃とアーサー国王たちは同じアヴァロン山脈に登って聖杯を探し出し、プリズム王国を覆い尽くそうとしていた黒竜の瘴気被害を解決した。
二人は結ばれてサンドローザ王女が生まれたが、彼女はロゼット王妃が持っていた光の魔力を受け継がなかった。
受け継いだのは父王の火の魔力だ。そこそこ強いが両親を上回るほどじゃなかった。
(そこで何でわざわざ親戚とはいえ王家の遠縁のモリスン子爵家を思い出すんだよ。サンドローザ様が跡継ぎでいいじゃないか。母親が平民なのが気に食わないならモリスン子爵家だって王族の血はだいぶ薄まってるのに)
ただでさえ面倒くさい王家の事情に巻き込まれているのに、特にテレンスは妻カタリナを早死にさせたことで、カタリナのファンだったロゼット王妃に恨まれている。
その上、アーサー国王は学生時代から寵愛していたテレンスをまだ諦めていないとの噂もある。
(叔父貴なんて顔が良いだけのオッサンじゃん。国王なら若くてピチピチの女でも男でもよりどりみどりじゃないのかね)
そこに来て最近また国内に広がり始めた瘴気被害。
(今の王家から天命が薄れてきてるってことなのかねえ)
言い伝えでは、国王が良く治める時代にはアヴァロン山脈を寝ぐらにする黒竜は大人しく、瘴気を発しない。
国が乱れたときに暴れ出して、瘴気で国内を汚染し、人の心を乱す。そう言われていた。
10
お気に入りに追加
1,260
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる