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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
テレンスの確変魔法
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だが、すんなり出ていくわけがないと思っていた父テレンスの反応は、エスティアの予想とはだいぶ異なっていた。
「お前は気に食わぬが、実の娘。餞別ぐらいくれてやる!」
「……は?」
それを言うのはむしろ追放するエスティア側ではないか?
首を傾げていると、テレンスが魔法を発動した。
「確率変動魔法、発動!」
テレンスの目の前に縦列三列、九つのカラフルな光のオーブが浮かんだ。
『ミニゲーム! 照れ照れテレンスの確変パズル~! さあ好きなオーブをひとつ選んでね!』
(これ、本編でテレンス君が担当してたご褒美ゲーム?)
確率変動とは、前世の日本でならパチンコやカジノ用語で、大当たりが連続して継続する状態のことを指す。
テレンスの確率変動魔法は最初にひとつ当たりが出ると、次に当たりが出る確率が爆上がりする。その繰り返しで次々と幸運が続く運気操作型の魔法だった。
ただし、逆もあり得る。
最初にハズレを引くと次もハズレの可能性が高くなる。
当たりにしろハズレにしろ、その一回のみで止めることもできるし、続けて運任せも可能だった。
なお、オーブの効果はそのときのテレンスの気分次第である。
「さあ、どれでもひとつ、好きなものを選ぶがいい!」
「選べと言われても……」
(あれ? この魔法、随分昔に遊んだことがある……わね……?)
前世のミナコがプレイした本編ではない。エスティア自身が経験した記憶がある。
『ぱーぱー! あたりどーれー?』
『ふははははは、おしえなーい!』
『パパのいじわるー!』
母の腕に抱っこされて、父テレンスの出した魔法のオーブをどれにしようか悩んだ出来事が想起されてきた。
(そうだった。仲が良くて、家族でお父様のパズル魔法で仲良く遊んでいた頃もあったのよ。……どうして、私たちはこんなに拗れてしまったのだろう)
九つのオーブはすべて色が違う。白と黒、赤、青、黄、ピンク、グレー、水色、そして緑色。
たまに虹色に点滅するオーブもあるが、これは引っ掛けだ。初心者がよく引っかかって痛い目を見る。
何となく青色を選ぼうとすると、父の緑色の目があからさまに泳いだ。
(本編でミニゲームの攻略ヒントがあるのよね。当たりを選ぼうとオーブにカーソルを合わせて、実際当たりだとちょっとつまらなさそうに唇を尖らせる。ハズレだとちょっとにんまり。大ハズレを選ぼうとするとぷるぷる震えて大慌て)
どの表情と態度も、ものすごく可愛くて、正解がわかっても全部のオーブにカーソルを合わせてしまうプレイヤーは前世のミナコの頃から多かった。
青色は違うらしい。
ではピンクに指先を向けるとショックを受けたような顔になる。
乙女☆プリズム夢の王国の本編ではテレンス君の背後に「がびーん!」と効果音が手書きで表示された。そういうところは三十年前の古いゲームの演出だったなと思う。
(確かこの顔は、術者がダメージを受けるやつだったはず)
数秒そのままピンクオーブを検討するように指を揺らしていると、次第に生意気な顔をしていた父テレンスが明らかにしょんぼりしてくるのがわかった。
(あああああ。クズの父親でもこの人はテレンス、テレンス君! 私には選べない)
仕方なく正解と思われる緑オーブを選ぶと、パァッと父の美しい顔が輝いた。
(推しが、尊い)
何だかもう追放はやめてしまいたくなってエスティアが自己嫌悪に陥っていると。
正解を選ぶなり九つのオーブが一つの大きな光の球になって、後には背の低い木箱にぎっしり詰まった大量の小瓶が現れた。
「これ、魔力ポーションですか?」
「上級ポーションだ。形見分けにくれてやる! いいか、形見だからな。ちゃんと全部飲むのだぞ、形見だからな!」
と捨て台詞なのだかよくわからない念押しをして、父テレンスは慌ただしく荷物をまとめて伯爵家を出て行った。
「……形見?」
「お前は気に食わぬが、実の娘。餞別ぐらいくれてやる!」
「……は?」
それを言うのはむしろ追放するエスティア側ではないか?
首を傾げていると、テレンスが魔法を発動した。
「確率変動魔法、発動!」
テレンスの目の前に縦列三列、九つのカラフルな光のオーブが浮かんだ。
『ミニゲーム! 照れ照れテレンスの確変パズル~! さあ好きなオーブをひとつ選んでね!』
(これ、本編でテレンス君が担当してたご褒美ゲーム?)
確率変動とは、前世の日本でならパチンコやカジノ用語で、大当たりが連続して継続する状態のことを指す。
テレンスの確率変動魔法は最初にひとつ当たりが出ると、次に当たりが出る確率が爆上がりする。その繰り返しで次々と幸運が続く運気操作型の魔法だった。
ただし、逆もあり得る。
最初にハズレを引くと次もハズレの可能性が高くなる。
当たりにしろハズレにしろ、その一回のみで止めることもできるし、続けて運任せも可能だった。
なお、オーブの効果はそのときのテレンスの気分次第である。
「さあ、どれでもひとつ、好きなものを選ぶがいい!」
「選べと言われても……」
(あれ? この魔法、随分昔に遊んだことがある……わね……?)
前世のミナコがプレイした本編ではない。エスティア自身が経験した記憶がある。
『ぱーぱー! あたりどーれー?』
『ふははははは、おしえなーい!』
『パパのいじわるー!』
母の腕に抱っこされて、父テレンスの出した魔法のオーブをどれにしようか悩んだ出来事が想起されてきた。
(そうだった。仲が良くて、家族でお父様のパズル魔法で仲良く遊んでいた頃もあったのよ。……どうして、私たちはこんなに拗れてしまったのだろう)
九つのオーブはすべて色が違う。白と黒、赤、青、黄、ピンク、グレー、水色、そして緑色。
たまに虹色に点滅するオーブもあるが、これは引っ掛けだ。初心者がよく引っかかって痛い目を見る。
何となく青色を選ぼうとすると、父の緑色の目があからさまに泳いだ。
(本編でミニゲームの攻略ヒントがあるのよね。当たりを選ぼうとオーブにカーソルを合わせて、実際当たりだとちょっとつまらなさそうに唇を尖らせる。ハズレだとちょっとにんまり。大ハズレを選ぼうとするとぷるぷる震えて大慌て)
どの表情と態度も、ものすごく可愛くて、正解がわかっても全部のオーブにカーソルを合わせてしまうプレイヤーは前世のミナコの頃から多かった。
青色は違うらしい。
ではピンクに指先を向けるとショックを受けたような顔になる。
乙女☆プリズム夢の王国の本編ではテレンス君の背後に「がびーん!」と効果音が手書きで表示された。そういうところは三十年前の古いゲームの演出だったなと思う。
(確かこの顔は、術者がダメージを受けるやつだったはず)
数秒そのままピンクオーブを検討するように指を揺らしていると、次第に生意気な顔をしていた父テレンスが明らかにしょんぼりしてくるのがわかった。
(あああああ。クズの父親でもこの人はテレンス、テレンス君! 私には選べない)
仕方なく正解と思われる緑オーブを選ぶと、パァッと父の美しい顔が輝いた。
(推しが、尊い)
何だかもう追放はやめてしまいたくなってエスティアが自己嫌悪に陥っていると。
正解を選ぶなり九つのオーブが一つの大きな光の球になって、後には背の低い木箱にぎっしり詰まった大量の小瓶が現れた。
「これ、魔力ポーションですか?」
「上級ポーションだ。形見分けにくれてやる! いいか、形見だからな。ちゃんと全部飲むのだぞ、形見だからな!」
と捨て台詞なのだかよくわからない念押しをして、父テレンスは慌ただしく荷物をまとめて伯爵家を出て行った。
「……形見?」
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