30 / 66
「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
父親への処罰
しおりを挟む
エスティアは今年二十三歳。とっくにこの国の成人年齢の十八歳を越している。
既に伯爵家と伯爵位を継承する年齢に達していたため、婚儀の数日前の時点で手続きを完了させていた。
エスティアが爵位を継承するまでの代理伯爵だった父テレンスは身を守る地位を失った。
彼は子爵家の出身だ。自分の爵位も持っていないし、実家から他の爵位を譲られてもいない。
(最推しのテレンス君を追い出したくはないけど、この父はエスティアと仲が悪すぎる)
それに後頭部に大コブを作ったあの日の出来事の恨みもある。
傷こそなかったがコブが消えるまで一ヶ月近く。さすがに親子の情も吹き飛ぶってものだ。
それにパラディオ伯爵家の帳簿を確認してみると、父には伯爵代理のお手当て以外の使途不明金があった。
亡母カタリナの生前から現在まで不定期に続いている。
婚儀の日から父テレンスも自室で謹慎するよう命じて監視を付けてあった。
抗議してくるかと思えば案外大人しい。監視させていた家人からの報告では、自室で何やら考え込んでは独り言を呟いていたそうだ。
というわけで、現当主にして伯爵のエスティアが決めたのは、父親を伯爵家の籍から抜き、追放することだった。
「どうぞ、ご実家の子爵家へお帰りください」
「馬鹿な! 私はお前の実の父親だぞ!?」
「実の娘に対して、婚儀の当日に不貞を犯すような愚かな男を婚約者に選定する父親なんて要りません」
ましてやエスティアは婚約者を嫌がって、これまでも繰り返し婚約の解消を望んでいたのだ。
それを却下し続けたのはこの父親自身だ。
「それだけじゃありません。あなたは代理の伯爵に過ぎない立場で、随分と伯爵家の財産を使い込みましたね」
「……それがどうした。伯爵家を維持するのに必要な経費だ」
テレンスのエスティアと同じ緑の目が泳いでいる。これは本人自身もヤバいと自覚有りと見た。
「領内に別宅をお建てになったとか。その家には『私が未来の伯爵夫人よ』『私は伯爵令嬢なの』と吹聴する親子が住んでいるそうですね」
「………………」
別宅が建てられたのはまだ母親の生前。
異母妹らしき女性はエスティアの数歳年下。計算するまでもなく、浮気は母カタリナが生きていた頃からだ。
「おかしいですね。伯爵家の婿養子のあなたが愛人と子供を外で作ることも許されないのに。伯爵家の血を持たないあなたと結婚したって、愛人は伯爵夫人にもなれなければ、娘は伯爵令嬢にもなれない。お父様、あなた愛人とその子供に嘘を教えて何をするおつもりでしたの?」
「そ、それは」
テレンスの目はもう泳ぎっぱなしだ。
(せめて何か言い訳でもしてくれれば良いのに)
「まさかと思いますが、この伯爵家の簒奪……とか?」
「………………」
「この国に限らず、王政国家で貴族家や爵位の簒奪行為は事実確認の後、即処刑も有り得ますよ。もちろんご存じなのですね?」
「………………」
特にプリズム王国は魔法使いなど魔力持ちが多い国だ。血筋の順列を乱す行為には厳しかった。
現王家唯一の王女でありながら、母親が平民だという理由で立場の弱いサンドローザ王女がいい例だ。
「本日中に荷物をまとめて出て行っていただきましょう。当然ながら、我が伯爵家の物を持ち出すことは認めません。了解いただけますね?」
「お前は実の父親を捨てるのか」
(テレンス君を捨てたくなんかないです! でもあなたがあまりにも、ろくでなし過ぎるのが悪い!)
「あなたは捨てられても文句を言えないことをしたのです。女伯爵の婿になりながら、妻に非協力的で、負担をかけて過労で早死にさせた」
ぴく、と父テレンスが小さく身動きした。
「次に、女伯爵となる娘の私に不適切な婚約者をあてがい、多数の王侯貴族の前で恥をかかせた。……追放をやめて、償えるようなお仕事を斡旋しても良いのですよ?」
やはり王道は鉱山の強制労働かしら、と呟くと父親の肩がびくっと震えた。
四十を超えてなお美しい男だ。荒くれ者の多い鉱山に放り込まれれば身が危うい。
さすがのエスティアもそこまでしたくはなかったが……。
既に伯爵家と伯爵位を継承する年齢に達していたため、婚儀の数日前の時点で手続きを完了させていた。
エスティアが爵位を継承するまでの代理伯爵だった父テレンスは身を守る地位を失った。
彼は子爵家の出身だ。自分の爵位も持っていないし、実家から他の爵位を譲られてもいない。
(最推しのテレンス君を追い出したくはないけど、この父はエスティアと仲が悪すぎる)
それに後頭部に大コブを作ったあの日の出来事の恨みもある。
傷こそなかったがコブが消えるまで一ヶ月近く。さすがに親子の情も吹き飛ぶってものだ。
それにパラディオ伯爵家の帳簿を確認してみると、父には伯爵代理のお手当て以外の使途不明金があった。
亡母カタリナの生前から現在まで不定期に続いている。
婚儀の日から父テレンスも自室で謹慎するよう命じて監視を付けてあった。
抗議してくるかと思えば案外大人しい。監視させていた家人からの報告では、自室で何やら考え込んでは独り言を呟いていたそうだ。
というわけで、現当主にして伯爵のエスティアが決めたのは、父親を伯爵家の籍から抜き、追放することだった。
「どうぞ、ご実家の子爵家へお帰りください」
「馬鹿な! 私はお前の実の父親だぞ!?」
「実の娘に対して、婚儀の当日に不貞を犯すような愚かな男を婚約者に選定する父親なんて要りません」
ましてやエスティアは婚約者を嫌がって、これまでも繰り返し婚約の解消を望んでいたのだ。
それを却下し続けたのはこの父親自身だ。
「それだけじゃありません。あなたは代理の伯爵に過ぎない立場で、随分と伯爵家の財産を使い込みましたね」
「……それがどうした。伯爵家を維持するのに必要な経費だ」
テレンスのエスティアと同じ緑の目が泳いでいる。これは本人自身もヤバいと自覚有りと見た。
「領内に別宅をお建てになったとか。その家には『私が未来の伯爵夫人よ』『私は伯爵令嬢なの』と吹聴する親子が住んでいるそうですね」
「………………」
別宅が建てられたのはまだ母親の生前。
異母妹らしき女性はエスティアの数歳年下。計算するまでもなく、浮気は母カタリナが生きていた頃からだ。
「おかしいですね。伯爵家の婿養子のあなたが愛人と子供を外で作ることも許されないのに。伯爵家の血を持たないあなたと結婚したって、愛人は伯爵夫人にもなれなければ、娘は伯爵令嬢にもなれない。お父様、あなた愛人とその子供に嘘を教えて何をするおつもりでしたの?」
「そ、それは」
テレンスの目はもう泳ぎっぱなしだ。
(せめて何か言い訳でもしてくれれば良いのに)
「まさかと思いますが、この伯爵家の簒奪……とか?」
「………………」
「この国に限らず、王政国家で貴族家や爵位の簒奪行為は事実確認の後、即処刑も有り得ますよ。もちろんご存じなのですね?」
「………………」
特にプリズム王国は魔法使いなど魔力持ちが多い国だ。血筋の順列を乱す行為には厳しかった。
現王家唯一の王女でありながら、母親が平民だという理由で立場の弱いサンドローザ王女がいい例だ。
「本日中に荷物をまとめて出て行っていただきましょう。当然ながら、我が伯爵家の物を持ち出すことは認めません。了解いただけますね?」
「お前は実の父親を捨てるのか」
(テレンス君を捨てたくなんかないです! でもあなたがあまりにも、ろくでなし過ぎるのが悪い!)
「あなたは捨てられても文句を言えないことをしたのです。女伯爵の婿になりながら、妻に非協力的で、負担をかけて過労で早死にさせた」
ぴく、と父テレンスが小さく身動きした。
「次に、女伯爵となる娘の私に不適切な婚約者をあてがい、多数の王侯貴族の前で恥をかかせた。……追放をやめて、償えるようなお仕事を斡旋しても良いのですよ?」
やはり王道は鉱山の強制労働かしら、と呟くと父親の肩がびくっと震えた。
四十を超えてなお美しい男だ。荒くれ者の多い鉱山に放り込まれれば身が危うい。
さすがのエスティアもそこまでしたくはなかったが……。
8
お気に入りに追加
1,260
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】ヒロインであれば何をしても許される……わけがないでしょう
凛 伊緒
恋愛
シルディンス王国・王太子の婚約者である侯爵令嬢のセスアは、伯爵令嬢であるルーシアにとある名で呼ばれていた。
『悪役令嬢』……と。
セスアの婚約者である王太子に擦り寄り、次々と無礼を働くルーシア。
セスアはついに我慢出来なくなり、反撃に出る。
しかし予想外の事態が…?
ざまぁ&ハッピーエンドです。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる