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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
幼馴染みは攻略……保留
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「……領地に魔物が出ても、父もアルフォートも戦ってもくれない。そんな婿養子なら要らないのよ」
「エスティア……」
この世界はファンタジー系の乙女ゲームの世界だから、魔法もあれば魔物のような化け物も出る。
『乙女☆プリズム夢の王国』本編ではヒロインと攻略対象たちで瘴気を撒き散らす黒いドラゴンを退治するストーリーになっていた。
(だけどお母様たちがクリアしたはずなのに、再び世界が瘴気に覆われつつある。この先のストーリーをクリアまでプレイする前に転生してしまったのは痛かったな)
多分この後、近いうちに誰の目にも世界の危機が明らかになって、特典ヒロインの自分が瘴気を祓いに行かなければならない。
エスティアは聖女を輩出する家に生まれ、母親も聖女。周囲は当然、エスティアも聖女だと思っている。
(一応、私も教会から聖女認定はされてる。でも光の魔力は持ってないし、全属性持ちだったお母様と違って私はお父様譲りの風の魔力のみ。私だけで戦うにはきつい)
本当なら学園を卒業したらすぐ結婚で、伯爵代理の父からパラディオ伯爵を継承する予定だった。
二十三歳の今まで来てしまったのは、国内や自領での瘴気による災害や魔物被害への対応に明け暮れていたためだった。
「カーティスのところはどう? 瘴気被害は」
「うちは辺境伯だけあって軍備が厚いからまだ対応できてる。親父が言うには、親父たちの学生時代の頃と雰囲気が似てきてるらしい。警戒してるぜ」
「そう。ならザックス辺境伯領側は安心ね」
今のままでは、エスティアのパラディオ伯爵領側にトラブルが起きたとき危うい。
「エスティア。何か助けが必要なら遠慮なく言ってくれ。幼馴染みだろ?」
「アルフォートに注意してくれたってだけで充分。でも、そうね……」
頭の中にいくつかの選択肢が浮かぶ。
『婚約者はあなたがよかった』
(これはダメなやつー!)
そうだこの世界は乙女ゲーム。
カーティスは攻略対象だから選択肢によっては落とせるルートもあるわけだ。
『口先だけの男なんて嫌いよ』
(アッ。これは本来のエスティアの言動かな?)
ミナコだった前世を思い出す前のエスティアは、どうもかなり気の強い性格だったみたいで、記憶にある言動はパワフルなものが多かった。
父テレンスや婚約者アルフォートと衝突していたのはそのせいだ。
ただ、ミナコを思い出した今のエスティアは、なあなあ気質の日本人を引きずっている。本来のエスティアほど強気にはなれなかった。
『他の同級生たちと同じように結婚式の前日には来てほしい。独身最後の夜は皆で語り合いたいの』
(こ、これね、一番無難なやつ!)
「カーティス。学園時代の同級生たちにも招待状を出す予定なの。結婚式の前日に来れる? 皆で独身最後の夜に語り合いたいなって」
「あ、それいいな! 俺も久し振りに皆に会いたい」
三ヶ月後の再会を約束して、お開きとなった。
カーティスが応接室からエントランスに向かおうと廊下を歩いていると、不機嫌そうなエスティアの父テレンスがいて睨まれた。
機嫌が悪くても、娘と同じ濃いめのミルクティ色の髪と緑の瞳の彼は、大変な美男子だ。
睨まれても怖くないのは、カーティスも子供の頃からこの家に出入りして互いを知っているからだった。
「テレンス様。早めにエスティアに謝って仲直りしたほうがいいですよ」
「くっ、娘に頭を下げるなど……」
何でそこで葛藤を感じるかな。
テレンスのこの素直じゃない性格は昔からだ。
ツンデレで余計な言動で墓穴を掘ってしまう。
「あなたには他人を傷つける度胸はない。だから、悪気がなかったことはエスティアもわかってるはずです」
「………………」
エスティアのあの怪我、いやコブは、執務室での事故だと聞いている。
ただ、テレンスが娘にわざとぶつかったのは確かだそうで。
「怪我用のポーションを飲ませるよう指示してある。すぐ治る、問題ない」
「そう言う問題じゃないと思いますけど」
テレンスの実家の父親はマーリンという大魔道士で、魔法や魔法薬研究で知られている。
彼自身、魔法使いでポーション類の作成に長けていた。
「エスティアはアルフォートの野郎とは白い結婚で、即離縁に向けて動くそうですよ。その後は、多分あなただ」
「………………」
返事はない。
テレンスは何やら耐えるように唇を噛み締め、拳を強く握っているが何もカーティスに言い返してこなかった。
「エスティア……」
この世界はファンタジー系の乙女ゲームの世界だから、魔法もあれば魔物のような化け物も出る。
『乙女☆プリズム夢の王国』本編ではヒロインと攻略対象たちで瘴気を撒き散らす黒いドラゴンを退治するストーリーになっていた。
(だけどお母様たちがクリアしたはずなのに、再び世界が瘴気に覆われつつある。この先のストーリーをクリアまでプレイする前に転生してしまったのは痛かったな)
多分この後、近いうちに誰の目にも世界の危機が明らかになって、特典ヒロインの自分が瘴気を祓いに行かなければならない。
エスティアは聖女を輩出する家に生まれ、母親も聖女。周囲は当然、エスティアも聖女だと思っている。
(一応、私も教会から聖女認定はされてる。でも光の魔力は持ってないし、全属性持ちだったお母様と違って私はお父様譲りの風の魔力のみ。私だけで戦うにはきつい)
本当なら学園を卒業したらすぐ結婚で、伯爵代理の父からパラディオ伯爵を継承する予定だった。
二十三歳の今まで来てしまったのは、国内や自領での瘴気による災害や魔物被害への対応に明け暮れていたためだった。
「カーティスのところはどう? 瘴気被害は」
「うちは辺境伯だけあって軍備が厚いからまだ対応できてる。親父が言うには、親父たちの学生時代の頃と雰囲気が似てきてるらしい。警戒してるぜ」
「そう。ならザックス辺境伯領側は安心ね」
今のままでは、エスティアのパラディオ伯爵領側にトラブルが起きたとき危うい。
「エスティア。何か助けが必要なら遠慮なく言ってくれ。幼馴染みだろ?」
「アルフォートに注意してくれたってだけで充分。でも、そうね……」
頭の中にいくつかの選択肢が浮かぶ。
『婚約者はあなたがよかった』
(これはダメなやつー!)
そうだこの世界は乙女ゲーム。
カーティスは攻略対象だから選択肢によっては落とせるルートもあるわけだ。
『口先だけの男なんて嫌いよ』
(アッ。これは本来のエスティアの言動かな?)
ミナコだった前世を思い出す前のエスティアは、どうもかなり気の強い性格だったみたいで、記憶にある言動はパワフルなものが多かった。
父テレンスや婚約者アルフォートと衝突していたのはそのせいだ。
ただ、ミナコを思い出した今のエスティアは、なあなあ気質の日本人を引きずっている。本来のエスティアほど強気にはなれなかった。
『他の同級生たちと同じように結婚式の前日には来てほしい。独身最後の夜は皆で語り合いたいの』
(こ、これね、一番無難なやつ!)
「カーティス。学園時代の同級生たちにも招待状を出す予定なの。結婚式の前日に来れる? 皆で独身最後の夜に語り合いたいなって」
「あ、それいいな! 俺も久し振りに皆に会いたい」
三ヶ月後の再会を約束して、お開きとなった。
カーティスが応接室からエントランスに向かおうと廊下を歩いていると、不機嫌そうなエスティアの父テレンスがいて睨まれた。
機嫌が悪くても、娘と同じ濃いめのミルクティ色の髪と緑の瞳の彼は、大変な美男子だ。
睨まれても怖くないのは、カーティスも子供の頃からこの家に出入りして互いを知っているからだった。
「テレンス様。早めにエスティアに謝って仲直りしたほうがいいですよ」
「くっ、娘に頭を下げるなど……」
何でそこで葛藤を感じるかな。
テレンスのこの素直じゃない性格は昔からだ。
ツンデレで余計な言動で墓穴を掘ってしまう。
「あなたには他人を傷つける度胸はない。だから、悪気がなかったことはエスティアもわかってるはずです」
「………………」
エスティアのあの怪我、いやコブは、執務室での事故だと聞いている。
ただ、テレンスが娘にわざとぶつかったのは確かだそうで。
「怪我用のポーションを飲ませるよう指示してある。すぐ治る、問題ない」
「そう言う問題じゃないと思いますけど」
テレンスの実家の父親はマーリンという大魔道士で、魔法や魔法薬研究で知られている。
彼自身、魔法使いでポーション類の作成に長けていた。
「エスティアはアルフォートの野郎とは白い結婚で、即離縁に向けて動くそうですよ。その後は、多分あなただ」
「………………」
返事はない。
テレンスは何やら耐えるように唇を噛み締め、拳を強く握っているが何もカーティスに言い返してこなかった。
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