1 / 66
「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
結婚前から浮気する婚約者ってどう思います? ~攻略対象・モリスン子爵令息アルフォート
しおりを挟む
「何だその目は? お前との婚約などいつでも破棄できるんだぞ、身のほどを知るんだな!」
強い口調で脅すように言われて、パンッと頬を叩かれた。
「きゃっ、やだー。アルフォートさまあ、女の子を殴っちゃ可哀想ですよお。一応、婚約者なんでしょー?」
美しい金髪青目の婚約者の子爵令息の横には、平民と思しき可愛らしい女性が寄り添っている。
ここは街中のカフェのテラス席だ。
パラディオ伯爵家の嫡子エスティアは、馬車で通りかかったこの店で、人前で堂々とイチャついて浮気していた婚約者を見つけた。
慌てて馬車を降り、彼に駆け寄ってたしなめたら「婚約破棄するぞ」と脅されて手を上げられたわけだ。
『淑女は紳士の後ろに下がって控えめに』
そんなマナーも今では昔のこと。
理不尽でも耐えて忍べ、は時代遅れだ。
学園の淑女教室では、立場や力の弱い令嬢が男性から虐げられた場合の対処法も学ばされている。
決して泣き寝入りすることだけは、してはならない。
まず身の安全の確保を。
その上で貴族令嬢として、淑女としての自分の地位を固めよと、様々なケースを授業で学んできている。
例えばかつての卒業生のケースだ。
実母が亡くなった後、父親やその後妻と異母妹たちに冷遇されたある令嬢は、厄介払いのため父親より年上の男の第二夫人として嫁がされることになった。
だが抵抗すると父親に殴られ、食事を抜かれるなどの虐待を受けたらしい。
(何とか貴重品だけ持って亡母の祖父母の家まで助けを求めて保護されたのだっけ。……逃げる場所があるなら私だって……)
エスティアはパラディオ伯爵家の唯一の娘だ。女伯爵だった母親は子供の頃に亡くなっている。
この国では女性でも家や爵位を継げるため、エスティアが次期女伯爵。
婿養子の父親はあくまでエスティアが成人するまでの代理でしかない。
逃げ場所なんかどこにもないのだ。
「アルフォート様。それは私との婚約を破棄したいと思ってらっしゃる。その意思がお有りということですね?」
打たれてじんじんと痛む頬を我慢して、慎重に尋ねた。
エスティアの性格ならここは堂々と殴り返すところだが、周囲には人の目がある。次期女伯爵は暴力女だなどと噂が広まっては堪らない。
「ふん。前言撤回するようだが結婚だけはしてやる。女のお前に伯爵は荷が重いだろうからオレが伯爵位を継いでやる。だがオレに愛されるなどと期待は持つなよ? お前みたいな地味な女にそんな価値はないのだから!」
「………………」
昼間のカフェのテラス席には満員に近い客がいた。
地元の有名店で庶民もいるが、貴族の若い人たちやマダムたちでほぼ満席。
声を抑えていたエスティアに対して、女連れの婚約者はよく通る声で朗々と自領の領主家の婚約者事情を語ったわけだ。
「え、どういうこと? エスティア様が次期女伯爵よね……?」
「あちらの彼は婿養子で入られるはず……」
「確かお父上のご親戚の子爵家の子息だったか……」
「婚前から堂々と浮気とは、嘆かわしい……」
「しかもあの男、エスティア様を叩いたぞ……?」
客たちの声が耳に入って恥じ入るぐらいならまだ可愛げがあった。
婚約者は連れの女性と再び、親しげな会話に興じて、テーブルの傍に立つエスティアをいないものと扱った。
「……失礼しますわ」
後ろに控えていた侍女が腕に軽く触れてきて、我に返ったエスティアはそれだけ言ってカフェを出た。
頭を下げたりカーテシーなどの礼はもちろんしない。
この男に礼を尽くす価値などないと判明してしまったから。
今日は街を視察する予定だったが、屋敷へ戻ることにした。
「お嬢様。ショコラのお店にまだ寄っておりません」
「もうそんな気分じゃなくなっちゃった」
馬車に乗って溜息をついた。
「お顔は大丈夫ですか。あの男、子爵令息の分際で次期女伯爵のお嬢様に何たる無体を!」
「いいのよ。女性に手を上げる男だって結婚前にわかってよかった」
年配の侍女マリナが心配そうに顔を確かめてくる。
馬車の中で立つと危ないので、彼女に座るよう促した。
張られた音は大きかったが、痛かったのはそのときだけで、今は少し熱を持っているぐらい。
帰ってすぐ冷やせば明日まで響くこともないだろう。
「人の目がたくさんあるところで、よかった。これなら彼の有責でこちらから婚約破棄できるもの」
あれでは次期女伯爵の〝婿〟には相応しくない。
三ヶ月後の結婚式を控え、領地入りして伯爵家の別宅で生活してもらっていたが、領内の視察をするわけでもない。
別宅の使用人からは、伯爵家からの支度金で好き勝手に遊び呆けていると報告を受けていた。
だが、エスティアの婚約に関しては、憂鬱の種が屋敷にもうひとつあった。
強い口調で脅すように言われて、パンッと頬を叩かれた。
「きゃっ、やだー。アルフォートさまあ、女の子を殴っちゃ可哀想ですよお。一応、婚約者なんでしょー?」
美しい金髪青目の婚約者の子爵令息の横には、平民と思しき可愛らしい女性が寄り添っている。
ここは街中のカフェのテラス席だ。
パラディオ伯爵家の嫡子エスティアは、馬車で通りかかったこの店で、人前で堂々とイチャついて浮気していた婚約者を見つけた。
慌てて馬車を降り、彼に駆け寄ってたしなめたら「婚約破棄するぞ」と脅されて手を上げられたわけだ。
『淑女は紳士の後ろに下がって控えめに』
そんなマナーも今では昔のこと。
理不尽でも耐えて忍べ、は時代遅れだ。
学園の淑女教室では、立場や力の弱い令嬢が男性から虐げられた場合の対処法も学ばされている。
決して泣き寝入りすることだけは、してはならない。
まず身の安全の確保を。
その上で貴族令嬢として、淑女としての自分の地位を固めよと、様々なケースを授業で学んできている。
例えばかつての卒業生のケースだ。
実母が亡くなった後、父親やその後妻と異母妹たちに冷遇されたある令嬢は、厄介払いのため父親より年上の男の第二夫人として嫁がされることになった。
だが抵抗すると父親に殴られ、食事を抜かれるなどの虐待を受けたらしい。
(何とか貴重品だけ持って亡母の祖父母の家まで助けを求めて保護されたのだっけ。……逃げる場所があるなら私だって……)
エスティアはパラディオ伯爵家の唯一の娘だ。女伯爵だった母親は子供の頃に亡くなっている。
この国では女性でも家や爵位を継げるため、エスティアが次期女伯爵。
婿養子の父親はあくまでエスティアが成人するまでの代理でしかない。
逃げ場所なんかどこにもないのだ。
「アルフォート様。それは私との婚約を破棄したいと思ってらっしゃる。その意思がお有りということですね?」
打たれてじんじんと痛む頬を我慢して、慎重に尋ねた。
エスティアの性格ならここは堂々と殴り返すところだが、周囲には人の目がある。次期女伯爵は暴力女だなどと噂が広まっては堪らない。
「ふん。前言撤回するようだが結婚だけはしてやる。女のお前に伯爵は荷が重いだろうからオレが伯爵位を継いでやる。だがオレに愛されるなどと期待は持つなよ? お前みたいな地味な女にそんな価値はないのだから!」
「………………」
昼間のカフェのテラス席には満員に近い客がいた。
地元の有名店で庶民もいるが、貴族の若い人たちやマダムたちでほぼ満席。
声を抑えていたエスティアに対して、女連れの婚約者はよく通る声で朗々と自領の領主家の婚約者事情を語ったわけだ。
「え、どういうこと? エスティア様が次期女伯爵よね……?」
「あちらの彼は婿養子で入られるはず……」
「確かお父上のご親戚の子爵家の子息だったか……」
「婚前から堂々と浮気とは、嘆かわしい……」
「しかもあの男、エスティア様を叩いたぞ……?」
客たちの声が耳に入って恥じ入るぐらいならまだ可愛げがあった。
婚約者は連れの女性と再び、親しげな会話に興じて、テーブルの傍に立つエスティアをいないものと扱った。
「……失礼しますわ」
後ろに控えていた侍女が腕に軽く触れてきて、我に返ったエスティアはそれだけ言ってカフェを出た。
頭を下げたりカーテシーなどの礼はもちろんしない。
この男に礼を尽くす価値などないと判明してしまったから。
今日は街を視察する予定だったが、屋敷へ戻ることにした。
「お嬢様。ショコラのお店にまだ寄っておりません」
「もうそんな気分じゃなくなっちゃった」
馬車に乗って溜息をついた。
「お顔は大丈夫ですか。あの男、子爵令息の分際で次期女伯爵のお嬢様に何たる無体を!」
「いいのよ。女性に手を上げる男だって結婚前にわかってよかった」
年配の侍女マリナが心配そうに顔を確かめてくる。
馬車の中で立つと危ないので、彼女に座るよう促した。
張られた音は大きかったが、痛かったのはそのときだけで、今は少し熱を持っているぐらい。
帰ってすぐ冷やせば明日まで響くこともないだろう。
「人の目がたくさんあるところで、よかった。これなら彼の有責でこちらから婚約破棄できるもの」
あれでは次期女伯爵の〝婿〟には相応しくない。
三ヶ月後の結婚式を控え、領地入りして伯爵家の別宅で生活してもらっていたが、領内の視察をするわけでもない。
別宅の使用人からは、伯爵家からの支度金で好き勝手に遊び呆けていると報告を受けていた。
だが、エスティアの婚約に関しては、憂鬱の種が屋敷にもうひとつあった。
2
お気に入りに追加
1,260
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。


すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる