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ユーグレン究極の選択
愛されたはずの未来、その顛末
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「あれはユーグレン様が悪い。デリカシーなさすぎですよ」
もう口淫は十分と判断してか、そのまま寝台に上がるよう促された。が、押し倒そうとしたら逆に自分が背をシーツに押し付けられてしまった。
体勢を整えようとする前に、服を素早く脱いだヨシュアが跨ってくる。今夜は騎乗位で始めるようだ。
ごくりとユーグレンは唾を飲み込んだ。
王の居室は夜でも完全に明かりを落とすことはない。寝台側の間接照明はヨシュアの均整の取れた美しい肉体を陰影をつけて照らしている。
四年間寝たきりだった彼は、回復してから数年経っている。背こそ伸びたがまだまだ細身の印象だ。
だが動けなかった期間を取り戻すように三十路近い今でも背は伸びているようだし、身体もこれからますます大人の男として鍛えていくのだろう。それこそ叔父のルシウスのように。
「もうカズン様はあなたとの関係に嫌気がさしてしまったようですよ」
「そ、それは本当か!? ……うっ」
昂った陰茎を掴まれた。容赦ない掴み方だ。少し痛い。というよりかなり怒っているような?
「別にいいんですよ。正式な妻はあちら。こちらはしがない愛人風情。でもせめて、寝る日ぐらいは日を分けて欲しかったですね」
ぴたり、と先端が当たった。唾液とは違った濡れた感触がする。何か魔法でも使ったのだろうか、潤滑剤で既に後孔を潤した後のようだ。
ヨシュアはカズンがいないときは前戯の時間を面倒がって、こういう横着な時短をよくやる。
――というより自分たち三人はカズンが間にいなければ恋愛関係が機能しない。不安定な関係なのだ。
(そうだ。カズン不在だと彼は、私に口付けひとつ与えてはくれない……)
せめて少しでも主導権を取り戻そう、とヨシュアの臀部に手を伸ばしかけたとき、意識が暗転した。
「こ、ここは……?」
気づくと妙に薄暗い空間にいた。
辺りを見回してもずっとグレーの色彩が見えるだけで、どちらが上が下かや、左右もわからない。
というより空中に浮いてるようで文字通り地に足がついていなかった。
「夢見と現実の間の空間だ。中空とでも言おうか」
薄暗い中に、虹色を帯びた夜空色の魔力の塊が現れたと思ったら、長い青銀の髪の少女の姿に変わった。
麗しの神人ジューアだ。
「まったく、あのカエルもどきめ。途中で魔力切れを起こしおった」
「まさか、これで夢見は終わりなのですか?」
「仕方あるまい。お前の方はどうだったのだ、楽しめたのだろう?」
「寸止めですよ! いいところだったのに、ひどい!」
「……残念だったな」
とちっとも思いやりのない口調で言って、ジューアはあたりを見回し、溜め息をついた。
「中途半端だな。……この未来軸はまだ全然調査しておらぬだろう。夢から覚めるまでにもう少し見てみようか」
ジューアが目の前の空間に手をかざすと、壁に飾られた絵画の枠に似た大きな画面が出現した。
画面の中には、ユーグレンが大勢の女性や黒髪の子供たちに囲まれて笑っている姿が映し出されている。
ユーグレンの妃や愛妾たちと、彼女たちとの間に生まれた王子王女たちのようだ。
生まれたばかりだろう黒髪の赤ん坊をおくるみごと抱いて、愛しそうに笑いかけている。
「この未来では、お前の代で数の少なかったアケロニア王族が一気に増えて、次世代への不安が解消されたようだ」
「……王族の子沢山は望ましいことですから」
現実では、アケロニア王族特有の黒髪黒目を持った王位継承者はユーグレンとカズンの二人しかいなかった。
王族の親族は多かったが、黒髪と黒目と揃った者がおらず、そのせいでユーグレンの曽祖父、祖父、母、そしてユーグレンに至るまでとにかく周りから産めや増やせやと、産めハラは凄まじいの一言に尽きた。
「正妃一人、側妃四人。愛妾は常に十名を下らない……子供はほぼどの女にも生まれている。大家族になっておるな」
だがユーグレンの妻子たちが多すぎて王家や国庫の負担が増大したようだ。国は二回目の夢見のときと同じ程度に豊かに見えるが、どうにも経費のほうが多すぎる。
『ぷぅ(愛をえらべばきさまの国はふつう。すっごくふつう)』
ピアディの二つ目の託宣が思い出される。
なるほど、どちらの未来を選んでも国は栄えるが、愛を選んで代償に妻子が増えた未来では、多数の妻子を養う費用で豊かさが相殺されてしまうらしい。
「あの二人はお前の家族に遠慮するようになる。次第に疎遠になっていくようだ。今から十年後、お前が四十路になる頃には……」
スクリーンには、私室で独り、ヨシュアとカズンと三人で撮った写真を見つめて泣いているユーグレン国王の姿が映っている。
ユーグレンの背格好は今と変わらない。大柄で、中年期に入っても大剣を振り回せる程度には身体も鍛えていて、そこに国王らしい威厳が加わってなかなかの男振り。
だが、手帳から取り出した写真を見つめて嗚咽するこの男はどうか。
「もう……十年近く会えていないのだぞ……。ヨシュア……カズン……」
喉の奥から搾り出すように呟いて、ユーグレン国王はそのまま大きな身体で絨毯の上に蹲ってしまった。
とてもじゃないが、彼を敬愛する臣下や国民たちには見せられない惨めな姿だった。
「で、関係はお前が四十代に入る頃には自然とフェードアウトする、と。……ん? どうした、お前まで泣いているのか? 仕方のない奴だな……」
『夢の世界から戻る!』
もう口淫は十分と判断してか、そのまま寝台に上がるよう促された。が、押し倒そうとしたら逆に自分が背をシーツに押し付けられてしまった。
体勢を整えようとする前に、服を素早く脱いだヨシュアが跨ってくる。今夜は騎乗位で始めるようだ。
ごくりとユーグレンは唾を飲み込んだ。
王の居室は夜でも完全に明かりを落とすことはない。寝台側の間接照明はヨシュアの均整の取れた美しい肉体を陰影をつけて照らしている。
四年間寝たきりだった彼は、回復してから数年経っている。背こそ伸びたがまだまだ細身の印象だ。
だが動けなかった期間を取り戻すように三十路近い今でも背は伸びているようだし、身体もこれからますます大人の男として鍛えていくのだろう。それこそ叔父のルシウスのように。
「もうカズン様はあなたとの関係に嫌気がさしてしまったようですよ」
「そ、それは本当か!? ……うっ」
昂った陰茎を掴まれた。容赦ない掴み方だ。少し痛い。というよりかなり怒っているような?
「別にいいんですよ。正式な妻はあちら。こちらはしがない愛人風情。でもせめて、寝る日ぐらいは日を分けて欲しかったですね」
ぴたり、と先端が当たった。唾液とは違った濡れた感触がする。何か魔法でも使ったのだろうか、潤滑剤で既に後孔を潤した後のようだ。
ヨシュアはカズンがいないときは前戯の時間を面倒がって、こういう横着な時短をよくやる。
――というより自分たち三人はカズンが間にいなければ恋愛関係が機能しない。不安定な関係なのだ。
(そうだ。カズン不在だと彼は、私に口付けひとつ与えてはくれない……)
せめて少しでも主導権を取り戻そう、とヨシュアの臀部に手を伸ばしかけたとき、意識が暗転した。
「こ、ここは……?」
気づくと妙に薄暗い空間にいた。
辺りを見回してもずっとグレーの色彩が見えるだけで、どちらが上が下かや、左右もわからない。
というより空中に浮いてるようで文字通り地に足がついていなかった。
「夢見と現実の間の空間だ。中空とでも言おうか」
薄暗い中に、虹色を帯びた夜空色の魔力の塊が現れたと思ったら、長い青銀の髪の少女の姿に変わった。
麗しの神人ジューアだ。
「まったく、あのカエルもどきめ。途中で魔力切れを起こしおった」
「まさか、これで夢見は終わりなのですか?」
「仕方あるまい。お前の方はどうだったのだ、楽しめたのだろう?」
「寸止めですよ! いいところだったのに、ひどい!」
「……残念だったな」
とちっとも思いやりのない口調で言って、ジューアはあたりを見回し、溜め息をついた。
「中途半端だな。……この未来軸はまだ全然調査しておらぬだろう。夢から覚めるまでにもう少し見てみようか」
ジューアが目の前の空間に手をかざすと、壁に飾られた絵画の枠に似た大きな画面が出現した。
画面の中には、ユーグレンが大勢の女性や黒髪の子供たちに囲まれて笑っている姿が映し出されている。
ユーグレンの妃や愛妾たちと、彼女たちとの間に生まれた王子王女たちのようだ。
生まれたばかりだろう黒髪の赤ん坊をおくるみごと抱いて、愛しそうに笑いかけている。
「この未来では、お前の代で数の少なかったアケロニア王族が一気に増えて、次世代への不安が解消されたようだ」
「……王族の子沢山は望ましいことですから」
現実では、アケロニア王族特有の黒髪黒目を持った王位継承者はユーグレンとカズンの二人しかいなかった。
王族の親族は多かったが、黒髪と黒目と揃った者がおらず、そのせいでユーグレンの曽祖父、祖父、母、そしてユーグレンに至るまでとにかく周りから産めや増やせやと、産めハラは凄まじいの一言に尽きた。
「正妃一人、側妃四人。愛妾は常に十名を下らない……子供はほぼどの女にも生まれている。大家族になっておるな」
だがユーグレンの妻子たちが多すぎて王家や国庫の負担が増大したようだ。国は二回目の夢見のときと同じ程度に豊かに見えるが、どうにも経費のほうが多すぎる。
『ぷぅ(愛をえらべばきさまの国はふつう。すっごくふつう)』
ピアディの二つ目の託宣が思い出される。
なるほど、どちらの未来を選んでも国は栄えるが、愛を選んで代償に妻子が増えた未来では、多数の妻子を養う費用で豊かさが相殺されてしまうらしい。
「あの二人はお前の家族に遠慮するようになる。次第に疎遠になっていくようだ。今から十年後、お前が四十路になる頃には……」
スクリーンには、私室で独り、ヨシュアとカズンと三人で撮った写真を見つめて泣いているユーグレン国王の姿が映っている。
ユーグレンの背格好は今と変わらない。大柄で、中年期に入っても大剣を振り回せる程度には身体も鍛えていて、そこに国王らしい威厳が加わってなかなかの男振り。
だが、手帳から取り出した写真を見つめて嗚咽するこの男はどうか。
「もう……十年近く会えていないのだぞ……。ヨシュア……カズン……」
喉の奥から搾り出すように呟いて、ユーグレン国王はそのまま大きな身体で絨毯の上に蹲ってしまった。
とてもじゃないが、彼を敬愛する臣下や国民たちには見せられない惨めな姿だった。
「で、関係はお前が四十代に入る頃には自然とフェードアウトする、と。……ん? どうした、お前まで泣いているのか? 仕方のない奴だな……」
『夢の世界から戻る!』
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