裏・聖女投稿(「王弟カズンの冒険前夜」続編)

真義あさひ

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ユーグレン究極の選択

アケロニア王国女傑時代

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  * * *



「ぷぅ(おかえりなのだー)」
「安全に戻って来れたね。じゃあ次、本番行こうか」

 ユーグレンが目を開けると、カーナ姫が虹色を帯びた真珠色の魔力の塊を宙に浮かせて、そこに片腕を突っ込んでいる。
 ――リンク使いとはまた違ったアイテムボックスのようなものだと聞いている。
 そこから何やら指先サイズの白い塊を摘まんで取り出した。これも虹色の燐光をキラキラとまとっていた。

「マナという魔力の塊でね。夢見の術は消耗が大きいからあらかじめ補充しておくといい」

 言って、まず一つをピアディの小さな口に放り込み、二つ目はジューアに手渡し、ユーグレンにも口を開けるよう促してきたので大人しくマナを受け入れた。

「ぷぅ(んんんん! でりーしゃーす)」

 ピアディがもぐもぐしながら、小さな両手を頬っぺたを支えるように当てて喜んでいる。

 ユーグレンも口の中の小さな塊を舌で転がしながら驚いた。
 まず最初に感じたのは冷んやりした温度。濃厚な生クリームの上澄みのような味がする。ほんのりと甘く、感触は生キャラメルのように滑らかで舌の上ですぐ蕩けていった。
 溶けた分から少しずつ飲み込むと、すぐに胃から全身に活力が広がっていくのがわかった。
 魔力というより生命力の塊のようなものに思える。

「次は、ピアディ殿の託宣のひとつめ。愛より国を選んだ場合の未来へ」
「ぷぅ(まりょくじゅうてん、じゅんびばんたん。いくのだ、夢見の術はつどう!)」

 ピアディの小さな身体から虹色を帯びたネオンイエローの魔力が吹き出し、室内を満たす。
 明るい魔力が意識の中に侵入してきた、と思った次の瞬間にはユーグレンの意識は落ちていた。



  * * *



 その王、ユーグレンが即位した治世はアケロニア王国の現王朝八百年の歴史で、最も栄華を極めた時代と言われていた。

 別名・アケロニア王国女傑時代と言われて、女性の傑物が多数輩出している。

「……って女傑とは誰だ? ……うちの母上たちかー!」

 ユーグレンに譲位して退位した後のユーグレンの母グレイシア女王は、まだ四十代の後半。
 アケロニア王族は一部の例外を除けば長生きの血筋だ。現役を引退してもまだまだこれからが本番とばかりに活躍していた。

 中でも特筆すべきは、カズンの母親のセシリア女大公とタッグを組んで支援者エンジェルクラブを開設したことだろう。
 その名もそのまま『アケロニア・エンジェル・クラブ』だ。

 エンジェルとは芸術家にとってのパトロン、パトロネスとほぼ同義の、善意で投資を行う投資家のことだ。善意の支援が目的だからリターンが低くてもクラブの主旨に沿う支援なら積極的に行う。
 社会貢献と金持ちの道楽、社交を兼ねた活動でもある。
 カズンの母セシリアの発案で始まった活動だった。

 セシリアは他国に輿入れしたアケロニアの王女の血筋で、ヴァシレウス大王の後添えとなり、現王家が新王朝を立てる前の家名アルトレイを受け継いで女大公に列せられていた。
 彼女は夫ヴァシレウス大王の死後は慎ましく自分の能力を生かした仕事をしながら生きていた。
 そんな生活だったから、元国王だった亡き夫の個人資産を継承するも持て余していた。

 ところが、その資産をとある投資案件に預けたところ驚くほど増えて、一躍大資産家の仲間入りをすることになった。
 その際の使い道を友人のグレイシア女王に相談したのがエンジェル活動の始まりだったようだ。

 まず発案者、アルトレイ女大公セシリア。
 彼女はその見事な黄金の長い髪から〝黄金大公〟と呼ばれている。

 協力者、グレイシア元女王。
 鮮やかな真紅の魔力の持ち主で好戦的な性格もあり学生時代から〝真紅のグレイシア〟と呼ばれて恐れられている。
 彼女もまたセシリアに追随して自分の個人資産を投資案件に注ぎ込み、大いに資産を増やした。

 協力者その二、リースト女侯爵オデット。
 近年頭角を表してきた若き女貴族で、聖剣の聖者ルシウスの養女であり、カーナ神国の宰相ヨシュアからリースト侯爵家の当主の座と爵位を継承した女性だ。
 自分より爵位が上で王家の親戚でもあるウェイザー公爵令嬢グリンダを腹心に抱え、冷徹で容赦のない言動で日々貴族社会を戦慄させている女性でもある。
 リースト一族特有の青銀の真っ直ぐな髪と 湖面の水色ティールカラーの瞳、それに青みの強い魔力の色から〝青のオデット〟と呼ばれている。

 未来において、アケロニア王国は彼女たちの尽力によって女性が活躍しやすい環境が整えられていた。









※ここでのマナはミルキーみたいなミルクキャンディが柔らかくなったものか、ホワイトチョコ系の生チョコのイメージで🥛🍬
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