裏・聖女投稿(「王弟カズンの冒険前夜」続編)

真義あさひ

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ユーグレン究極の選択

まずは準備から

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「夢見は一度に行うと魔力を大量に消耗する。何回かに分けて実行するとよいだろう」

 カーナ姫の助言により、ピアディが行う夢見の術は三回に分けて実施することが決まった。
 まずは今晩、今ここ海上神殿で一回。

「夢見の世界に入って、無事帰ってこれるかを試すように」
「あ、ならば一度古書店に戻って皆に断って参ります」
「大丈夫。夢見の中でどれだけ時間が流れても、現実では数分程度のものだから」

 よし、と言わんばかりに神人ピアディがテーブルの上でしっかり短い四肢を踏ん張り始めた。

「ぷぅ(まずはれんしゅう。おまえ、かこでもみらいでも、どこでもてきとうにいきたいところはあるのかなのだ?)」
「いつでもどこでも……そうだな、ならカズンとヨシュアが暗殺者に襲撃されたという四歳の頃を見てみたい」

 先日、古書店で出ていた話題でもある。ユーグレンは彼ら二人が暗殺者の呪詛でステータス低下した話に関しては、概要しか知らなかった。
 夢見の術で当時を直接この目で確認してくることができるなら、まだ呪詛の影響で魔力値が低下したままのカズンの回復に役立つだろうと思ったのだ。

「ぷぅ(どのくらいまえなのだ?)」
「だいたい二十年ほど前になる。場所はアケロニア王国の王都、王宮敷地内の離宮だ。確か季節は……」

 ふむふむとピアディが丸い小さな頭で頷いている。
 時折カーナ姫を見ては、術式の細かい構築が合っているか確認しているようだ。

「襲撃。……そういえば、そんなこともあったか」

 神人ジューアが腕組みして思案げな顔になっている。

「ジューアお姉様、ご存知だったのですか?」
「あの頃、私は長く行方不明だった弟を見つけて、たびたびアケロニアのリースト家の様子を見るようにしていてな。あの生意気な甥っ子の祖父が話のわかる男で、屋敷に私の部屋を用意してくれていたのだ」

 事件はジューアが留守のときに起きたとのことで。

「弟と、義兄との間が拗れることになった最大の原因でもある」
「義兄……そうか、カイル様の」

 ルシウスの義兄はヨシュアの実父で、ルシウス本人がしばしば語るように彼の〝最愛〟の人でもある。

「ジューアお姉様、ならば夢見の術でのちの悲劇を回避することは」

 その先はカーナ姫が言わせなかった。

「ユーグレン王太子。まずは練習だ、見るだけだよ。夢見の中で起こった事象に関与しないこと。どれだけ幼いカズン君とヨシュア君を手助けしたくなっても、ぐっと堪えてね」
「……はい」

 釘を刺されてしまった。

「陰で隠れて見るだけだよ。……と言いたいところだけど、恋人たちの幼い頃の姿はきっと可愛いだろうから頭を撫でるぐらいは許そうか。だけど二人に声をかけてはいけない。守れるかい?」
「あの。もし可能なら写真を撮ることは?」
「………………夢見の中の物を現実世界に持ってくることはできないんだ。戻ってきてから記憶を頼りに君が絵を描くしかないね」
「そうですか……」

 残念、ユーグレンのコレクションを増やすことは無理そうだ。
 すべてのステータス値が平均以上あり、『全方向に優秀な王太子』と呼ばれるユーグレンだが、芸術方面の素養はあっても自分自身が創る側になるとてんで駄目だった。

「ぷぅ(よーし。ではいくのだぞーう)」
「準備はいいかい、ユーグレン王太子、ジューア」
「「いつでも」」


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