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ユーグレン究極の選択
海上神殿にて
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「おや、ユーグレン王太子。ピアディも?」
出迎えてくれたカーナ姫は黒髪と琥珀の瞳を持った、優美な面立ちの少女だ。本来なら男女いずれにもなれる生態の持ち主で平素は青年の形を取るというが、この国ではかつて魚人族の王に嫁いだ伝説に合わせて竜人族の姫の姿を取っている。
カーナ神国の領海の上に浮かび上がり復活した、古の海上神殿ポセイディア。
永遠の国の長老でもある神人カーナ姫は、神人ピアディが現代に蘇ったと同時期にこの国に来て、今は海の上のこの大きな白亜の神殿に滞在している。
「ぷぅ(おのれ、われにむたいなことをするでないわ、このヘタレめー!)」
「夜中に騒ぐんじゃない。その口、縫い付けてやろうか」
「ぷぇっ(で、でたな、魔王おばばめ!)」
「だから、私をおばばと呼ぶでないと言っておろうが!」
ユーグレンたちの到着から間もなく、青銀の長い髪の麗しの神人ジューアが奥から出てきた。
今、この神殿にはカーナ姫と彼女、二人が主に滞在して何やら新しい魔導具の開発にかかりきりだそうで。
「で、何があった?」
「ピアディ殿から託宣を賜りました。愛か国の繁栄か選べと。片方しか選べぬため、どうせなら夢見の術とやらでそれぞれを選んだ場合どのようになるか、シミュレーションしてやるとの仰せで」
「……は?」
鮭の人と同じ、銀の花咲く 湖面の水色の神人ジューアの目が、胡乱げに小さなウパルパを見た。
「ぷぅ(このあいだカーナたんにおそわったやつ。ちょうどよい実験台を見つけたのだ。これ)」
と言って、小さな前足でユーグレンを指差した。
「ピアディ、お前ねえ。実験はよいのだけど、いくらなんでもユーグレン王太子を巻き込むのはやめなさい。彼は大国の次期国王、何かあったら国際問題となる」
「いや……。カーナ姫よ、私はピアディ殿の案に乗ろうと思う。だがピアディ殿だけに術を使われるというのは、その」
「まあ、不安になるのは当然だ。なるほど、だから我らの元へ来たのだね」
それからサロンに移動するよう言われ、ユーグレンは自分とカズン、鮭の人と呼ばれているヨシュアと三人の関係をカーナ姫たちに話した。
それには改めて聞いたピアディを始めとして、カーナ姫も神人ジューアも呆れた顔になった。
強引に三人交際に持ち込んだは良いものの、カズンの父が殺害され仇をカズンが追って出奔してしまったことで、うやむやのまま何となく今日までの六年間『付き合ったまま』だけの関係を解消していないとの話。
「それは結局のところ何も始まっていないのではないか?」
「う、うーん……三人で一度じっくり腰を据えて話し合ったほうがよいと思うけど、ねえ?」
神人ジューアは冷静に突っ込み、カーナ姫は一応のフォローの対応だった。
「それは確かにそうなのですが……。で、ですが、そんなことをして、『なら交際やめますか』『そうだな』なんて話になったらどうします!? あの二人はそもそも恋愛関係にはこだわってないし、カズンのほうなどどう見てもノンケ……!」
「どうもこうもないわ、このたわけが!」
「あたっ」
隣のソファに座っていた神人ジューアに思いっきり黒髪の頭をはたかれた。
「ユーグレン王太子。事実確認をしないまま、ああかもしれない、こうかもしれないと頭だけで考えることを妄想というのだよ」
「……はい」
カーナ姫にはど正論で諭されてしまった。
だが、どうしても怖いのだ。この関係ではどう考えても、自分は彼らに愛されていない。
「しかし……ンッフフフ……」
突然神人ジューアが笑い出した。
何事、とテーブルの上にいたピアディが怖がって兄嫁カーナ姫の手に慌てて擦り寄る。
「お前たち勇者の末裔のアケロニア王族と、この魔王たる神人ジューアの末裔リースト一族は古より深い縁で繋がっておる。安心せよ、愛はなくとも縁が切れることはない」
「……愛が……欲しいのです……っ」
腹の底から絞り出すように訴えると、ジューアもカーナ姫も、ピアディまでもが面白そうに笑い出した。
「良い。そこまで申すならこの神人ジューアが貴様らの行く末を見届けてやろう。まずは私も夢見の術に付き合ってやる」
「ジューアお姉様、まことですか?」
「下手な夢見は夢の中から戻って来れぬことがある。私がともに行き魔力を補うなら危険は減るはずだ」
「それは、心強うございます!」
どういう気まぐれか、ジューアはユーグレンに協力的な姿勢を見せた。
もっとも、後で何か代償を要求されるかもしれないが、既に舎弟扱いのユーグレンに過度な要求はしないと信じたい。
出迎えてくれたカーナ姫は黒髪と琥珀の瞳を持った、優美な面立ちの少女だ。本来なら男女いずれにもなれる生態の持ち主で平素は青年の形を取るというが、この国ではかつて魚人族の王に嫁いだ伝説に合わせて竜人族の姫の姿を取っている。
カーナ神国の領海の上に浮かび上がり復活した、古の海上神殿ポセイディア。
永遠の国の長老でもある神人カーナ姫は、神人ピアディが現代に蘇ったと同時期にこの国に来て、今は海の上のこの大きな白亜の神殿に滞在している。
「ぷぅ(おのれ、われにむたいなことをするでないわ、このヘタレめー!)」
「夜中に騒ぐんじゃない。その口、縫い付けてやろうか」
「ぷぇっ(で、でたな、魔王おばばめ!)」
「だから、私をおばばと呼ぶでないと言っておろうが!」
ユーグレンたちの到着から間もなく、青銀の長い髪の麗しの神人ジューアが奥から出てきた。
今、この神殿にはカーナ姫と彼女、二人が主に滞在して何やら新しい魔導具の開発にかかりきりだそうで。
「で、何があった?」
「ピアディ殿から託宣を賜りました。愛か国の繁栄か選べと。片方しか選べぬため、どうせなら夢見の術とやらでそれぞれを選んだ場合どのようになるか、シミュレーションしてやるとの仰せで」
「……は?」
鮭の人と同じ、銀の花咲く 湖面の水色の神人ジューアの目が、胡乱げに小さなウパルパを見た。
「ぷぅ(このあいだカーナたんにおそわったやつ。ちょうどよい実験台を見つけたのだ。これ)」
と言って、小さな前足でユーグレンを指差した。
「ピアディ、お前ねえ。実験はよいのだけど、いくらなんでもユーグレン王太子を巻き込むのはやめなさい。彼は大国の次期国王、何かあったら国際問題となる」
「いや……。カーナ姫よ、私はピアディ殿の案に乗ろうと思う。だがピアディ殿だけに術を使われるというのは、その」
「まあ、不安になるのは当然だ。なるほど、だから我らの元へ来たのだね」
それからサロンに移動するよう言われ、ユーグレンは自分とカズン、鮭の人と呼ばれているヨシュアと三人の関係をカーナ姫たちに話した。
それには改めて聞いたピアディを始めとして、カーナ姫も神人ジューアも呆れた顔になった。
強引に三人交際に持ち込んだは良いものの、カズンの父が殺害され仇をカズンが追って出奔してしまったことで、うやむやのまま何となく今日までの六年間『付き合ったまま』だけの関係を解消していないとの話。
「それは結局のところ何も始まっていないのではないか?」
「う、うーん……三人で一度じっくり腰を据えて話し合ったほうがよいと思うけど、ねえ?」
神人ジューアは冷静に突っ込み、カーナ姫は一応のフォローの対応だった。
「それは確かにそうなのですが……。で、ですが、そんなことをして、『なら交際やめますか』『そうだな』なんて話になったらどうします!? あの二人はそもそも恋愛関係にはこだわってないし、カズンのほうなどどう見てもノンケ……!」
「どうもこうもないわ、このたわけが!」
「あたっ」
隣のソファに座っていた神人ジューアに思いっきり黒髪の頭をはたかれた。
「ユーグレン王太子。事実確認をしないまま、ああかもしれない、こうかもしれないと頭だけで考えることを妄想というのだよ」
「……はい」
カーナ姫にはど正論で諭されてしまった。
だが、どうしても怖いのだ。この関係ではどう考えても、自分は彼らに愛されていない。
「しかし……ンッフフフ……」
突然神人ジューアが笑い出した。
何事、とテーブルの上にいたピアディが怖がって兄嫁カーナ姫の手に慌てて擦り寄る。
「お前たち勇者の末裔のアケロニア王族と、この魔王たる神人ジューアの末裔リースト一族は古より深い縁で繋がっておる。安心せよ、愛はなくとも縁が切れることはない」
「……愛が……欲しいのです……っ」
腹の底から絞り出すように訴えると、ジューアもカーナ姫も、ピアディまでもが面白そうに笑い出した。
「良い。そこまで申すならこの神人ジューアが貴様らの行く末を見届けてやろう。まずは私も夢見の術に付き合ってやる」
「ジューアお姉様、まことですか?」
「下手な夢見は夢の中から戻って来れぬことがある。私がともに行き魔力を補うなら危険は減るはずだ」
「それは、心強うございます!」
どういう気まぐれか、ジューアはユーグレンに協力的な姿勢を見せた。
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