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第二章 異世界ど田舎村を救え!
俺、夏はカレーも大好きです
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さてそれで、本日はなんと……
「お待たせ、美味しいの持ってきたよ~。こんな大鍋でカレー作ったの僕初めてだよ!」
厨房から料理人さんが大鍋を、調理手伝いのばあちゃんとカズアキ、村のご婦人方は皿に乗った料理などを持って庭へやってきた。
そう。本日ディナーはカレーパーティーなのだ。
「夏野菜たっぷりだべ。辛いのが苦手な人は福神漬けやピクルス、ヨーグルトや生クリームで調整してな」
ばあちゃんが皆に説明している。
中辛ぐらいに作るとは聞いていた。うちはユキりんが辛いのが少し苦手だ。少し味見してからトッピング追加して調整だべな。
具は今回野菜だけだそうだ。他に料理も多いしシンプルに作ったようだ。最近お馴染みのローストドラゴンも大皿に山になってるし。
カレーは実はこの異世界には元からあった。というより俺たちみたいな異世界から記憶を持ったまま転生や転移してきた人々が伝えて、今では世界中に広まっているそうで。
カレーに使うスパイス類はふつうに流通してて、専用のミックススパイスもあるというから驚きだ。
もっとも、今回はど田舎村側に残っていた備蓄用の市販ルウ使いきりパーティーだった。村役場の売店は雑貨屋を兼ねていたから、その手の食料品や調味料の在庫がたんまりあったんだべ……
御米田家を始めとして、日本から持ち込んだ食材はそろそろ底をつきかけている。
もう年内の秋から冬にかけて、本格的に俺たちは日本食から異世界食へと切り替えることになるだろう。まあ味噌は大豆があるからばあちゃんが自家製で手作りするだろうし、醤油もお取り寄せできる優しい異世界だからそこまで苦労もなさそうだけんど。
「わあ。カニしゃんがいっぱい~!」
別の大鍋の蓋を開けると、真っ赤なカニと堪らん美味そうな匂いが庭いっぱいに広がった。
なんと、もなか川で採れた川カニ、藻屑ガニだ。こいつは上海カニなんかの仲間で、川に棲息してるとは思えないぐらいデカいカニだ。大きなやつは俺の拳サイズのもある。
すかさず、ばあちゃんたち手先の器用なご婦人方がキッチンハサミ片手にカニや味噌をほぐし始める。ああ、ああ、そんなにごそっとカニ肉が……炊き立て堪らんご飯に混ぜ込まれて……
「おっと、こっちの鍋も飯か」
別の鍋を頼まれたので蓋を開けると、こちらは……一面が真っ黄色の甘い香り。トウモロコシご飯だったー!
しかもほんのり香るバター混ぜ込みバージョンだ。カニご飯とトウモロコシご飯。どっちも山盛り食いてえっぺ!
「追加でどんどん炊いてますから。たくさん召し上がってくださいね」
料理人さんもそう言ってくれている。これは大盛り食うしかない!
藻屑ガニの炊き込みご飯は薄口醤油と昆布出汁で味付けされた和風バージョン。
トウモロコシご飯は野菜のブイヨンとバターを加えた炊き込みピラフ系。
どっちも間違いないやつだった。そこに中辛スパイシーな夏野菜カレー。まだまだ昼間の熱気の残る男爵邸の庭で、皆で汗だくになりながら食いまくった。
一応バゲットも用意されていたが、パンよりご飯を選んだ人が多いようだ。
「きょうもおいちいがたくしゃん~!」
「カニご飯すごいね……これカレーと一緒に食べちゃっていいのかな……ぜいたく……」
「カニご飯、余りそうだからおにぎりにして持ち帰るよ。夜食に焼きおにぎりとかどう?」
「「!!」」
「アキちゃ、てんしゃい! あたち、やきおにぎりしゅき!」
「カズアキさん、僕それ出汁で食べたい」
「カニを下茹でした出汁が残ってるからそれで食べようか」
「「それー!」」
うむ。新たな三男カズアキを加えて御米田家のお子たち三人はもうすっかり仲良しだべ。
……ユキ兄ちゃんはハブられぎみでちょっと寂しいです。俺もまぜてけろ!
とりあえず(*´ω`*)の顔で俺はうちの子たちをスマホで撮影しまくった。
特にカズアキだ。たくさん写真を撮って、なんとか今は疎遠になってしまったこいつの父親に送ってやりたい……うちの親父経由でなんとか頼んでみよう。
カズアキの父親、つまり俺の叔父さんなんだが、十数年前に長男のカズアキが事故死して叔母と離婚して家庭崩壊した後で心を病んだ。
とはいえ俺と同じタイプの人だし、御米田家は基本強メンタルの家系だから鬱病まではいかなかったんだが……
カズアキが死んだだけならまだマシだったんだが、次男が自分以外の男の息子だったと判明してもう心がポッキリ折れちまったと聞いた。
兄貴の親父にも何度も愚痴をこぼしてて、それならもう日本を離れろって親父が勧めて今に至る。
親父に言わせると「ダークサイドに落ちかけてる」そうで、東京に持ってた家や土地を処分して、自分の会社の支社のある北米に行ってそのまま移住しちまったんだ。
再婚はせずに仕事ばっかりしてるそうだ。向こうのほうがメンタルケア治療が進んでるそうなので、健康には問題なくやってると聞いている。
叔父さん。カズアキなら異世界転移して元気に俺の目の前でカレー腹一杯食ってますよ……
カレーその他をあらかた食い終えた頃に、ユキりんが料理人さんに声をかけられていた。
話を聞いて頷いたユキりんはその場で魔法樹脂で、深い穴が等間隔に空いたボックスをいくつか創った。
「その形って」
穴の中に料理人さんが絞ったスイカジュースを八割がた注ぎ込む。ボックスが透明だからジュースが板状の穴に充填されていくのが目でわかる。
そこに新鮮な生のベリーなど果物やチョコチップをぱらりと落とす。
最後に短い割り箸状の木の棒を刺して、そのまま氷の魔石でジュースを凍らせると……
「食後のデザートにスイカのアイスバーをどうぞ。口の中がさっぱりしますよ」
まさかの異世界でスイカアイス。バー付きのやつ。そうか、夏に何か足りないと思ったらこいつだったか……
「ちべたいしゅいかあいしゅ。うむ……おいちい!」
うちの幼女もご満悦だ。これうちでも夏の間は作っておきてえなあ。
酒飲みたちはアイスバーを酒のグラスに突っ込んで氷代わりにしてるけど。それも有りだべな。
さて、夏が終わればいよいよ稲刈りだ。
新米が今から楽しみだっぺ!
※登場人物紹介、二章イラストギャラリーの後でエピローグ投稿予定です。
カウントダウン……
「お待たせ、美味しいの持ってきたよ~。こんな大鍋でカレー作ったの僕初めてだよ!」
厨房から料理人さんが大鍋を、調理手伝いのばあちゃんとカズアキ、村のご婦人方は皿に乗った料理などを持って庭へやってきた。
そう。本日ディナーはカレーパーティーなのだ。
「夏野菜たっぷりだべ。辛いのが苦手な人は福神漬けやピクルス、ヨーグルトや生クリームで調整してな」
ばあちゃんが皆に説明している。
中辛ぐらいに作るとは聞いていた。うちはユキりんが辛いのが少し苦手だ。少し味見してからトッピング追加して調整だべな。
具は今回野菜だけだそうだ。他に料理も多いしシンプルに作ったようだ。最近お馴染みのローストドラゴンも大皿に山になってるし。
カレーは実はこの異世界には元からあった。というより俺たちみたいな異世界から記憶を持ったまま転生や転移してきた人々が伝えて、今では世界中に広まっているそうで。
カレーに使うスパイス類はふつうに流通してて、専用のミックススパイスもあるというから驚きだ。
もっとも、今回はど田舎村側に残っていた備蓄用の市販ルウ使いきりパーティーだった。村役場の売店は雑貨屋を兼ねていたから、その手の食料品や調味料の在庫がたんまりあったんだべ……
御米田家を始めとして、日本から持ち込んだ食材はそろそろ底をつきかけている。
もう年内の秋から冬にかけて、本格的に俺たちは日本食から異世界食へと切り替えることになるだろう。まあ味噌は大豆があるからばあちゃんが自家製で手作りするだろうし、醤油もお取り寄せできる優しい異世界だからそこまで苦労もなさそうだけんど。
「わあ。カニしゃんがいっぱい~!」
別の大鍋の蓋を開けると、真っ赤なカニと堪らん美味そうな匂いが庭いっぱいに広がった。
なんと、もなか川で採れた川カニ、藻屑ガニだ。こいつは上海カニなんかの仲間で、川に棲息してるとは思えないぐらいデカいカニだ。大きなやつは俺の拳サイズのもある。
すかさず、ばあちゃんたち手先の器用なご婦人方がキッチンハサミ片手にカニや味噌をほぐし始める。ああ、ああ、そんなにごそっとカニ肉が……炊き立て堪らんご飯に混ぜ込まれて……
「おっと、こっちの鍋も飯か」
別の鍋を頼まれたので蓋を開けると、こちらは……一面が真っ黄色の甘い香り。トウモロコシご飯だったー!
しかもほんのり香るバター混ぜ込みバージョンだ。カニご飯とトウモロコシご飯。どっちも山盛り食いてえっぺ!
「追加でどんどん炊いてますから。たくさん召し上がってくださいね」
料理人さんもそう言ってくれている。これは大盛り食うしかない!
藻屑ガニの炊き込みご飯は薄口醤油と昆布出汁で味付けされた和風バージョン。
トウモロコシご飯は野菜のブイヨンとバターを加えた炊き込みピラフ系。
どっちも間違いないやつだった。そこに中辛スパイシーな夏野菜カレー。まだまだ昼間の熱気の残る男爵邸の庭で、皆で汗だくになりながら食いまくった。
一応バゲットも用意されていたが、パンよりご飯を選んだ人が多いようだ。
「きょうもおいちいがたくしゃん~!」
「カニご飯すごいね……これカレーと一緒に食べちゃっていいのかな……ぜいたく……」
「カニご飯、余りそうだからおにぎりにして持ち帰るよ。夜食に焼きおにぎりとかどう?」
「「!!」」
「アキちゃ、てんしゃい! あたち、やきおにぎりしゅき!」
「カズアキさん、僕それ出汁で食べたい」
「カニを下茹でした出汁が残ってるからそれで食べようか」
「「それー!」」
うむ。新たな三男カズアキを加えて御米田家のお子たち三人はもうすっかり仲良しだべ。
……ユキ兄ちゃんはハブられぎみでちょっと寂しいです。俺もまぜてけろ!
とりあえず(*´ω`*)の顔で俺はうちの子たちをスマホで撮影しまくった。
特にカズアキだ。たくさん写真を撮って、なんとか今は疎遠になってしまったこいつの父親に送ってやりたい……うちの親父経由でなんとか頼んでみよう。
カズアキの父親、つまり俺の叔父さんなんだが、十数年前に長男のカズアキが事故死して叔母と離婚して家庭崩壊した後で心を病んだ。
とはいえ俺と同じタイプの人だし、御米田家は基本強メンタルの家系だから鬱病まではいかなかったんだが……
カズアキが死んだだけならまだマシだったんだが、次男が自分以外の男の息子だったと判明してもう心がポッキリ折れちまったと聞いた。
兄貴の親父にも何度も愚痴をこぼしてて、それならもう日本を離れろって親父が勧めて今に至る。
親父に言わせると「ダークサイドに落ちかけてる」そうで、東京に持ってた家や土地を処分して、自分の会社の支社のある北米に行ってそのまま移住しちまったんだ。
再婚はせずに仕事ばっかりしてるそうだ。向こうのほうがメンタルケア治療が進んでるそうなので、健康には問題なくやってると聞いている。
叔父さん。カズアキなら異世界転移して元気に俺の目の前でカレー腹一杯食ってますよ……
カレーその他をあらかた食い終えた頃に、ユキりんが料理人さんに声をかけられていた。
話を聞いて頷いたユキりんはその場で魔法樹脂で、深い穴が等間隔に空いたボックスをいくつか創った。
「その形って」
穴の中に料理人さんが絞ったスイカジュースを八割がた注ぎ込む。ボックスが透明だからジュースが板状の穴に充填されていくのが目でわかる。
そこに新鮮な生のベリーなど果物やチョコチップをぱらりと落とす。
最後に短い割り箸状の木の棒を刺して、そのまま氷の魔石でジュースを凍らせると……
「食後のデザートにスイカのアイスバーをどうぞ。口の中がさっぱりしますよ」
まさかの異世界でスイカアイス。バー付きのやつ。そうか、夏に何か足りないと思ったらこいつだったか……
「ちべたいしゅいかあいしゅ。うむ……おいちい!」
うちの幼女もご満悦だ。これうちでも夏の間は作っておきてえなあ。
酒飲みたちはアイスバーを酒のグラスに突っ込んで氷代わりにしてるけど。それも有りだべな。
さて、夏が終わればいよいよ稲刈りだ。
新米が今から楽しみだっぺ!
※登場人物紹介、二章イラストギャラリーの後でエピローグ投稿予定です。
カウントダウン……
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