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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、葛藤を超えて決意する ※おいちい回

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 その後、昼飯も食べた後で俺は縁側で頭を抱えていた。

 庭ではピナレラちゃんが麦わら帽子を被ってカエルを追いかけて遊んでいる。夏だからデカいやつが出没するのだ。ユキりんもなんだかんだ付き合ってやっている。楽しそうだべ。

 カズアキはばあちゃんと一緒に台所でアップルパイを作っている。
 昨日のピンクのウパルパ様のご家庭事情は少し離れたところからカズアキも見てたらしく、話を聞いてて食いたくなって仕方なかったそうだ。わかる。
 アップルパイを嬉々として作る十四歳男子……御米田家に可愛い子供がまた一人増えた。順番的に三男だな。
 俺と同い年だが、今のあいつは時間軸の捩れによって背丈がユキりんと同じぐらいのちみっこい中二だ。まだまだ子供扱いしてやろうぞ。

 あいつも昔からばあちゃんが大好きだ。夏と冬、俺んちと一緒で叔父さんの休暇に合わせて帰省したとき手伝っているうちに料理男子になったんだろう。高校に入って選んだバイト先もレストランだったし。

 カズアキは子供の頃から顔つきも性格もばあちゃんそっくりだ。
 御米田家は黒髪黒目に男女とも端正なイケメン顔の一族で、俺、ばあちゃん、カズアキ、親父と叔父さんまで顔の系統は皆一緒。

 ただ性格は主に三種類あって顔つきも得意分野も違うんだべ。

 うちの親父はいるだけでリーダーシップの発揮される覇王様タイプ。やたら迫力あって男女にモテモテ。敵に回すと怖かっぺ。
 実は勉さんもこのタイプだ。怪我をしてぶ厚いレンズの眼鏡をかけるようになる前はめちゃくちゃモテてたらしい。

 俺や叔父さんはオールマイティタイプ。何やらせてもすぐ覚えるし勉強もスポーツも好きな文武両道。
 物事へのこだわりが強くてちょっと頑固かも。あとアグレッシブなところあるかな。押しが強いというか。
 村長もこのタイプだ。

 ばあちゃんやカズアキは呑気な天然タイプだ。すごい食いしん坊だから料理も得意。美味いもん食いたいから料理も上手くなるタイプだな。
 大抵のことはそつなくこなす器用さもある。ばあちゃんは異世界転移した今でも服や布団、小物は何でも縫ったり作ったりできちまうし、日本にいた頃は一人でも要領よく田畑の手入れや出荷、収支の管理をこなしていた。
 穏やかな気質のせいか品のある雰囲気を持っているのも特徴だ。一番人付き合いが得意なタイプでもある。例のカズアキの毒母みたいな一部の例外はいるにせよ。

 後から知ったがこの三種類の性格はそのまんまアケロニア王族の特徴だそうだ。
 道理で領主の男爵や村人たちも良い人たち揃いなわけだ。上が良いから臣下や国民たちも善良な人が多いのだろう。



 俺はあの可愛い中二の従兄弟に何をどう伝えるか迷っていた。
 伝える? 何を? お前は高一の冬に事故でおっ死んじまうんだぞって?

 ……言えるかああー!!

 気づくとユキりんが隣にいて、心配そうな顔をしていた。

「ユウキさん。彼があなたが前に言ってた人だったんですね」
「そうだ。毒親の母親のせいで死ななくてもいい雪の日に死んじまった従兄弟だ」
「ふうん」

 ショックを与えないようできるだけマイルドに数年後に起こる危険を伝えようとした。
 だが肝心なことを話そうとすると声が出なくなってしまう。そんなことを何度も繰り返した。
 確か夢の中で王様も、俺に何か伝えようとして声になってなかったことがあった。同じ現象だ。

 俺はこの現象を解明すべく検索しまくったし、ネット掲示板の住人たちにも助けを求めた。もちろんカズアキの存在をボカしてだが……さすがに過去に死んだ人物が生きてたなんて話はネットには晒せない。

『イッチそれ世界の強制力ってやつじゃない?』

『詳しく』

『異世界モノのラノベでよくある設定
 元からストーリー展開が決まってて
 決まった通りに強制させる力というか
 逸脱しようとすると本筋に戻させる力にもなる』

 住人が早々に答えをくれた。それだ!
 だが俺は諦めたくなかった。ばあちゃんもだ。このままカズアキを異世界に留めておくことができたら、二年後の悲劇は避けられるかもしれないのだ。

 それから俺たちは焼けたアップルパイで午後のおやつを堪能した。

「アップルパイ。おいちいね!」
 
 子供たち三人は同じ幸福そうな表情で、ばあちゃんのアップルパイを満喫していた。
 今回のは下にカスタードクリームを敷いて、上に軽く煮てシャキシャキ感を残したリンゴスライスをのせてパイ生地で覆って焼いたやつ。
 秋や冬になったらシナモンやカルダモンみたいなスパイスや、レーズンなどドライフルーツを加えたやつも美味い。

 それだけじゃない。ばあちゃんが午前中にずんだ団子を作るとき仕込んでおいたという、ずんだアイス添えだ。
 ど田舎村産の濃厚な生乳と卵で作ったバニラアイスに、ずんだを混ぜて……何から何まで間違いのないやつだった。バニラアイスやずんだ単品より美味いものに仕上がっていた。こ、これは冷凍庫に常備しておいてほしいっぺ!

「おばあちゃん、お菓子作りの腕上げたね。神がかってる!」
「アキちゃんが手伝ってくれたからだべ」
「そ、そうかな?」

 この二人、ステータスを見たら調理スキルに〝飯ウマ〟なるオプションが付いていた。
 こりゃあ今後は飯も二人に任せてれば美味いものが食えそうだ。

「クウさん、ど田舎村の川は秋頃に鮭が海から遡上してくるんですって。このパイ生地で僕、サーモンパイ食べたいです」
「わがった。サーモンパイは私も昔リースト家にお呼ばれてしで食べたことあるんだあ。本家には負けるけんど楽しみにしでて」

 秋は鮭か。今から楽しみだな。



 翌日。俺は日課の早朝の見回りで、もなか川の浅いところの岩陰にザリガニを見つけた。

 朝食後のまだ少し涼しい時間帯にピナレラちゃんとユキりん、それにカズアキを誘ってザリガニ釣りで遊ぶことにした。

 そしてもなか川の浅い岩陰で俺たちは不思議な生き物に出会った。

「おにいちゃ。ザリガニしゃん、あし」
「なにこれ」
「なんでザリガニに足が……?」

 ふつうに生えてる細っこいザリガニの節足の中に、妖精みたいに細っこい足が生えている個体がいた。

「あっ、にげた!」

 どこかでピンクで生意気なウーパールーパーが「ぷぅ」と鳴いた声が聞こえた気がした。もしかしたら水生生物の妖精さんだったかもしれない。

 ユキりんが魔法樹脂で川の中に柵や段を創ってくれたので、子供たちはもなか川の深さに足を取られることもなく安全に遊ぶことができた。
 人工的な川の浅瀬で裸足になってザリガニに夢中になるピナレラちゃんとユキりん、カズアキ。
 明るいお陽さまの光が、跳ね上がった水飛沫に反射されてキラキラと輝いている。
 その光景を見て俺は強く思った。

「守りたいあの笑顔……俺が養わなきゃ……食わせるに困ることだけはしねえっぺ……」

 自分の中で何かが再びカチッと嵌まった瞬間だった。
 御米田家の大黒柱として、俺は立つ!

 あ、ついでにお子たち三人をスマホで撮影も忘れてねえっぺ!




※二章ここまでで一区切り
スイカ編とエピローグにこのまま続きます


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