異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

真義あさひ

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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、異世界でピザ食って涙

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「でも行方不明になった理由がずっとわからなかったんです。ご家族の仲も良かったし学園でも生徒会長の王女殿下と仲がよくて何不自由のない生活をされてたはずなのに」
「そのオデットさんが、ギルガモス商会の支店の一つに保存されてたんだ。まだ生きてはいたけど、その」

 〝保存〟の表現に俺たちは最悪を予想したが、ユキりんはすぐそうじゃないと否定してくれた。

「ご本家の方は魔王様の直系子孫で、格別強い魔力を持ってるんです。命の危機の際には自動的に魔法樹脂が発動して、全身を透明な樹脂に覆われて外部の脅威から守られます」
「あ、ガラスじゃなかったんだ」
「ええ……。ギルガモス商会の連中がオデットお嬢様の身を危険に晒して発動したんだと思います。その状態で倉庫に保存してたのでしょう」

 ここまでの話をまとめると。

 ユキりんが実家に助けを求めなかったのは、ギルガモス商会が魔力持ち専用の隷属魔導具を持っていたため身内を危険に晒したくなかったから。
 未成年ながら実力のあるユキリーンすら抗えなかったので、魔力の高い自分の父親や姉兄たちには絶対に近づけたくなかった。
 連絡も取らなかったのは実家が動くことで、ど田舎村の国境向こうにあるギルガモス商会を刺激して支店を撤去させたくなかったからだと。

 二つ目は、自分の髪や目の色がリースト一族本来の色じゃなくて学園でいじめに遭ってた。
 自分だけならともかく母親まで批判されてたのに胸を痛めてて、このまま家に帰らない選択をした。

 で、あれやこれやの理由を出してたが要はユキりんは初恋の本家のお嬢様を助けたくて、ギルガモス商会に近いど田舎村から離れなかったと。

 何ていうかなあ、ダメダメに決まってるべ!

「ユキりん……言いたいことはわかったが、お前がだんまり決め込んだことは、このど田舎村や俺たちを危険に晒してたとは思わないか?」
「………………ごめんなさい」
「あ、いや、ユウキ君。一応ね、必要最低限のことは領主の私がユキリーン君から聞いていたから。だからギルガモス商会の手先と思われる魔物や魔獣の討伐に働いてもらってたんだ。そこは責めないでやってくれ」
「う。あのドラゴン肉とかですよね」

 少し飽きていたのは確かだが、極上牛肉並の美食を連日味合わせてくれた恩は無視できない。

 厳しめの態度の俺にユキりんが心なしかションボリしている。
 そんなユキりんの服の裾を、大人たちの話をおとなしく良い子で聞いていたピナレラちゃんがつんと引っ張った。

「ユキリーンちゃのしゅきなこ。あたちもあいたいのだ」
「!」

 ピナレラちゃんのニッコリ笑顔にユキりんがビックリしている。
 見ていた俺たちもだ。ああ……そうだな、まだ四歳児だもんな。ユキりんの好きな子って聞いてジェラシー燃やす価値観を持ってないんだ。まさに本物の無邪気だ。

「ピナレラ」
「でもちゅまはあたちでしゅから!」
「……はは。そっか」

 しっかり自己主張する幼女に俺たちはずっこけた。
 ユキりんはピナレラちゃんのキャラメル色の髪をぽんぽんしていた。良い意味で毒気も抜けてきたようだ。

「なら潰しに行くか。奴隷商」

 よし、ここは良い感じのことを言ってお株を上げようとした俺に、カズアキが待ったをかけた。

「ユウ君。それならもう僕がクエストクリアした」
「は? あ、え、……お前、それ」
「支店だけど。あ、ピザ来たからお先にいただいてます」
「いや、それはいいんだが……」

 男爵の屋敷の料理人が石窯で焼けたピザを次々持ってきてはカットして皆に配っていた。
 カズアキが美味そうに食っているのはシラスをのっけたやつだ。ばあちゃんちの冷凍庫にあった業務用スーパーで買って備蓄してた大容量のやつ……俺たちだけじゃ食いきれないからって今回持参して使ってもらえるよう料理人に渡してあったんだ。

「ピザ。美味いか?」

 万感の思いを込めて俺は訊いた。

「すごく美味しい。これモッツァレラチーズだよね。ソースもトマトが甘くて」
「うん……そっかあ。美味いならえがったあ」

 俺は涙を必死に堪えた。見るとばあちゃんも目元に涙を滲ませている。
 カズアキが事故死する前日の日記には、デリバリーのピザが自分の分は一枚も残されてなかった、ピザは自分も好物だから食べたかったと書かれてあったんだ。

 遺族の俺たちはこの件をずっと覚えていた。
 あの毒叔母はピザを大サイズで注文して次男と夕食にしてたらしいんだが、二人だけだと当然余る。けど残りは保存せずそのまま捨ててたらしい。
 カズアキの日記にはピザの空箱があったことの他に、そのことも書かれてあった。いや皿に移してラップかけて冷蔵庫に保存しておけよっていう。
 あまりにも悪辣な行為だ。一連の経緯のインパクトが強すぎて俺たちは忘れようにも忘れられなかったんだ。

 ピザを食うカズアキに感極まってしまった俺やばあちゃんだったが、なんとか堪えて次々料理を勧めた。
 ピザはシラスとガーリックスライスをのせて焼いたチチニエリ、ど田舎村の旬の夏野菜グリルをのせたのもなかなか。村民手作りソーセージやハムのせも美味そうに食っていた。

「アキちゃん。ピザもっと食え?」
「食べてるよう。おばあちゃんは?」
「うん、うん……ばあちゃんも食う。アキちゃんもな……」

 俺はシラスピザを頬張ってカズアキから顔を背けた。気を抜くと号泣しちまいそうだった。

 まさかこんな光景を見られる日が来ようとは。
 ありがとう異世界、ありがとう異世界転移と時間軸の捩れ。

 あとはもうなし崩しだ。男爵がビールやワインを出してくれたので、もうベレベレになるまで飲んでしまった……





NEXT→東北おいちいスイーツ代表、ずんだ🍡

※ユキリーンの好きな子オデットの話は「破壊のオデット」にて。ユキりんとはまた違った意味でリースト一族らしい女子です(やや百合要素ありご注意)
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