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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、夜泣き幼女と夜のお散歩

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 夜になってピナレラちゃんがグズり始めた。
 うちで一緒に暮らすようになって初めての出来事だったから、子育て経験豊富なはずのばあちゃんもおろおろしちまって。

 毒親とはいえ〝母親〟の話題が出たからか、亡くなったお母ちゃんのことを思い出して夜泣きだ。

「ぐすっ、ぐす……っ、……おかあしゃん……」

 毎日元気いっぱいで明るい子だからとは思ってたけど、ピナレラちゃんのご両親は俺たちが五月に初めて出会ったほんの少し前に馬車の事故で亡くなっていると聞く。
 まだ四歳児でおしゃべり好きなピナレラちゃんの滑舌が悪いのも、その事故のとき歯を折って犬歯一本が歯抜けになっちまったせいだ。

 ここで俺が『パパもママも天国から見守ってるよ』とか『俺たちがいるよ』なんてそれっぽく宥めても多分意味はないんだと思う。
 だって俺にはばあちゃんもいるし、日本に残してきたとはいえ両親もまだ健在だ。

「ピナレラちゃん。ココアでも飲むか? 甘くて美味いべえ」
「……ううん」

 ばあちゃんが優しく聞いていたがピナレラちゃんはイヤイヤするばかり。
 よし。ここは俺が……!

「散歩行こうか。星空の下でデートだ」
「あ、僕も行きます。ランタン持ちますよ、外は暗いですから」

 ばあちゃんには先に寝てもらって、三人で初めて夜中のど田舎村を歩いた。
 ユキりんは魔導具式のランタンを持って。俺はピナレラちゃんを背負いながら。

「ひぐっ、……ぐす……っ」

 Tシャツの背中がちべたい。涙と鼻水でピナレラちゃんの顔もすごいことになってそうだ。家に帰ったら濡れタオルで拭いてやらないと。
 と思ったらユキりんがハンカチで顔を拭いてやっていた。うちの次男もなかなかできる男だべ。

 もなか村側のアスファルト舗装の道路をてくてく歩いて男爵の屋敷方面まで来た。
 村役場に入って一階の売店を除くとまだアイスが残っている。

「ほら、ピナレラちゃん。もう夜だから三人で分け合いっこしよう。どれ選ぶ?」
「……これ」

 まだぐずってるピナレラちゃんは、それでも冷凍ショーケース内のアイスの箱をまっすぐ指差した。
 おお、最初に異世界転移してきて食べたあのチョココーティングされたキューブのミルクアイスだ。
 フィルムを外して蓋を開けてみると……なんと丸いはずの六個並んだミニアイスのうち、ハートと星が一個ずつ入っている! 片方だけならたまに見るが両方はなかなかない。

「ピナレラちゃん、運いいなあ。うちのお姫様にはハートとお星様をどうぞ」
「……あい」

 泣いててもアイスの美味しさは覚えてたようだ。素直に大きく開けたお口の中にピックに刺したハートのミニアイスを放り込んでやるともぐもぐと……

「わああ……あいしゅおいちい~!」

 もう泣いたことなんて忘れたように次の星のアイスももぐもぐしていた。
 ついでにもう一個食べて満足したようで、残りはユキりんが喜んで片付けていた。
 俺? 大人だからお子たち優先だべ!

「ユキりん、他のアイスも食べていいぞ。そっちの水色の袋のとかオススメ」
「あ、じゃあ遠慮なくいただきます」

 一気に齧ると頭がキーンとするからな。少しずつだぞ、少しずつ。



 帰り道はピナレラちゃんが眠ってしまったのでソーダアイスをガリガリ齧るユキりんとおしゃべりしながら。

「そういえばこの間、ピナレラちゃんの差し歯作ってたやつ。あれ他にどんなものが作れるんだ?」
「魔法樹脂ですか? 頭の中でイメージできるものなら何でも。雑貨でも武器でも……この間は男爵様に頼まれて、お屋敷の立て付けの悪い扉の蝶つがいを創りました」
「魔法大全で読んだよ。元々は魔法剣を作る魔法なんだろ?」
「……ええ。先祖は強過ぎる魔力を持て余してたそうで。魔法剣を創ることで魔力の暴走を制御してたそうです」

 言ってユキりんは歩きながら両手の中に鮮やかな紫色の魔力の塊を出した。魔力はすぐに細い透明な棒状のものになりかけたが、はっきり形作られる前に霧散して夜の闇の中に消えていく。

「……まだ、本調子じゃないんです。本当なら僕だけの武器を創れるんですけど」

 小さな声で悔しそうにユキりんが言う。

「魔法剣か?」
「僕の場合は魔法槍ですね。まだ背が低いから長くリーチを取れるようにって、すぐ上の兄と一緒に考えて……」

 ふわあ、とユキりんが欠伸した。いつもならもう寝てる時間だもんな。

「戻って寝よ寝よ」





NEXT→御米田は女性と年上には逆らわない男である……(御米田両親の話)

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