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第二章 異世界ど田舎村を救え!
その頃、日本では~side八十神、お社長とうなぎランチ ※飯テロ回
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東京に戻って週明け。
出社してすぐ、最初に米俵みどりの接待に同行してくれていた上司にあの社長の性別のことを確認してみると。
「いやあ~八十神がいつ気づくかって楽しみにしてたんだよね」
と笑われた。あの社長を担当する社員全員が通る通過儀礼だったとか……ふざけるな!
と言いたい気持ちをグッと堪えて僕は愛想笑いで乗り切った。勤め人の苦しいところだ。
米俵みどり社長に詫びの連絡を入れると、ちょうど今日も東京支社の浅草にいるそうで、すぐさま銀座の老舗和菓子屋の菓子折りを持って謝りに行った。
そうしたら出てきたのは、あの小汚いオッサンが無理してハイブランドのスーツを着た勘違い演歌歌手崩れはもうどこにもいなかった。
イモ顔なのと短い金髪は変わらなかったが、上品なベリーショートのウェーブヘアに整えてパステルカラーの紫のアンサンブルと真珠のピアスやネックレスがよく似合う女エグゼクティブがそこにはいた。
な、なぜだ……あのときあの料亭なら絶対にこっちのほうが似合っていただろうに、なぜよりによってあのオッサン姿を選んだ……!?
「気にする必要はね! あちし、あちしの正体に気づくまでの無作法はぜえんぶ不問にするで決めでるがらね!」
そのままニマニマ笑う米俵社長に近くのうなぎ屋でのランチに誘われた。御米田ゲンキと鰻重を食べたあの同じ店だ。
今回も二階の個室だ。もっとも今回は特上ではなくランチのひつまぶしセットだったが。
米俵社長はとにかくあの御米田ゲンキのことを聞きたがった。
「あちし、あのパパしゃんの大大大ッファンでね!」
「ああ……いい男でしたよね……。男が惚れる男って本当に実在したんだなって驚きました」
「だべ!?」
一通り食事のときの会話を説明させられる。もう社長のテンションが高すぎて怖い。
だが僕が御米田ゲンキから彼の故郷の酒を飲ませてもらった話になると、いきなりスンッと据わった目になった。
「最中け?」
「ええ。社長も前にお飲みになってた。普通酒の四合瓶の。少し余ったのは瓶ごと僕に下さって」
「へええ……ほおおん……?」
僕はジロジロと不躾に見られた。そうこうしてるうちにさすがのランチタイム、素早く料理がやってくる。
しばらく二人で無言のままひつまぶしを食した。
そのままでご飯茶碗に半膳、もうこれだけで美味い。ランチとはいえうなぎの処理や焼きに手を抜いてないのがわかる。程よく蒸して余計な脂を落としたからこそうなぎの旨みと脂とタレのコクが際立つ。
薬味の刻み海苔やワケギの小口切りなどを入れて半膳、これが夜ならビールや日本酒と一緒なら堪らないだろうなあというお味。山葵が本山葵の摺り下ろしだ。昼とはいえさすがの専門店のこだわりを感じる。
残りは土瓶の出し汁をかけて締め……に入る頃に米俵社長が言った。
「あんださぁ。ユウキ君と同じさげまんに引っかかったんだべ? 厄除けは行っだか?」
さげまん。野口穂波のことか。あの女、取引先にまでそう見られてるのか。
「あ、いえ。実家が京都なので先日、鞍馬山に登ってきました。母からは毒気が抜けたなと言われて」
「んだなあ。顔つきだいぶ変わっだな、あんだ」
「浅草で厄除けだとやっぱり浅草寺でしょうか?」
「それより聖天様だなや。縁結びで有名だがら逆も有る」
「ああ、ありますね。待乳山聖天でしたっけ」
ホスト時代、周りのキャバ嬢やクラブのホステスたちが何人か通って「ご利益出た!」とはしゃいでいた記憶がある。
聖天はインドのゾウの神ガネーシャが仏教に習合された後に日本へやってきた仏様だ。密教色を取り入れて男女二組のガネーシャが抱き合う姿の秘仏が有名だ。
「せっかく浅草まで来たのでこの後、お参りしてきます」
「なら行きだけあちしの車で送っでやるべ。今日も暑いがら」
「あ、いえそんな」
「だからあちしのユウキ君の分も念入りに厄除け祈ってきんしゃい!」
「ああ……はい、そういうことなら、ありがたく」
あとは食後のお茶をいただきながら、残りの答え合わせだ。
やはり御米田ゲンキだけでなく、米俵社長も僕が御米田の企画を盗用したことを知っていた。
だが社長はそのことで特にコメントはしなかった。僕を責めることも、行為の愚かさを叱ることもない。これはこれで僕には堪えた。
この人は初見のときと同じでこういうプレッシャーを相手に与えるタイプなわけだ。
「……そういえば遅ればせながら御米田が故郷の村ごと行方不明になってると知りました。社長もご存知でしたか」
「あちしのご先祖の墓があの村にあっだんだあ。関係者もう皆パニックよ!」
「異世界転移でしたか。漫画みたいな話ですけど」
「あんだも疑っでる口か?」
「いいえ。……実は昨晩、御米田がいる世界の夢を見たんです。アケロニア王国で現地の王様らしき人に会いました。……もしかしたら僕も異世界に何か関係のある人間なのかもって。はは、子供の空想みたいですけど」
「アキラ君」
そのとき僕は初めて米俵社長にまともに名前を呼ばれた。しかも下の名前だ。
「あちしのご先祖はアケロニア王国の貴族だったんだあ。アキラ君は? 王様に会えたなら王族け?」
「いいえ。公爵家ですよ。王家の血は一滴も入ってないですけど。社長は……」
僕は米俵社長のイモ顔をじっと見つめて、とある伯爵家の名前を出した。
途端にガシッとランチのお膳越しに両手を掴まれた。
「アキラ君。あんだ、あちしのとこ来んしゃい!」
「……はい?」
まさかのヘッドハンティングが来た。
NEXT→御米田たちはど田舎村でおいちいパンケーキを食したが……
出社してすぐ、最初に米俵みどりの接待に同行してくれていた上司にあの社長の性別のことを確認してみると。
「いやあ~八十神がいつ気づくかって楽しみにしてたんだよね」
と笑われた。あの社長を担当する社員全員が通る通過儀礼だったとか……ふざけるな!
と言いたい気持ちをグッと堪えて僕は愛想笑いで乗り切った。勤め人の苦しいところだ。
米俵みどり社長に詫びの連絡を入れると、ちょうど今日も東京支社の浅草にいるそうで、すぐさま銀座の老舗和菓子屋の菓子折りを持って謝りに行った。
そうしたら出てきたのは、あの小汚いオッサンが無理してハイブランドのスーツを着た勘違い演歌歌手崩れはもうどこにもいなかった。
イモ顔なのと短い金髪は変わらなかったが、上品なベリーショートのウェーブヘアに整えてパステルカラーの紫のアンサンブルと真珠のピアスやネックレスがよく似合う女エグゼクティブがそこにはいた。
な、なぜだ……あのときあの料亭なら絶対にこっちのほうが似合っていただろうに、なぜよりによってあのオッサン姿を選んだ……!?
「気にする必要はね! あちし、あちしの正体に気づくまでの無作法はぜえんぶ不問にするで決めでるがらね!」
そのままニマニマ笑う米俵社長に近くのうなぎ屋でのランチに誘われた。御米田ゲンキと鰻重を食べたあの同じ店だ。
今回も二階の個室だ。もっとも今回は特上ではなくランチのひつまぶしセットだったが。
米俵社長はとにかくあの御米田ゲンキのことを聞きたがった。
「あちし、あのパパしゃんの大大大ッファンでね!」
「ああ……いい男でしたよね……。男が惚れる男って本当に実在したんだなって驚きました」
「だべ!?」
一通り食事のときの会話を説明させられる。もう社長のテンションが高すぎて怖い。
だが僕が御米田ゲンキから彼の故郷の酒を飲ませてもらった話になると、いきなりスンッと据わった目になった。
「最中け?」
「ええ。社長も前にお飲みになってた。普通酒の四合瓶の。少し余ったのは瓶ごと僕に下さって」
「へええ……ほおおん……?」
僕はジロジロと不躾に見られた。そうこうしてるうちにさすがのランチタイム、素早く料理がやってくる。
しばらく二人で無言のままひつまぶしを食した。
そのままでご飯茶碗に半膳、もうこれだけで美味い。ランチとはいえうなぎの処理や焼きに手を抜いてないのがわかる。程よく蒸して余計な脂を落としたからこそうなぎの旨みと脂とタレのコクが際立つ。
薬味の刻み海苔やワケギの小口切りなどを入れて半膳、これが夜ならビールや日本酒と一緒なら堪らないだろうなあというお味。山葵が本山葵の摺り下ろしだ。昼とはいえさすがの専門店のこだわりを感じる。
残りは土瓶の出し汁をかけて締め……に入る頃に米俵社長が言った。
「あんださぁ。ユウキ君と同じさげまんに引っかかったんだべ? 厄除けは行っだか?」
さげまん。野口穂波のことか。あの女、取引先にまでそう見られてるのか。
「あ、いえ。実家が京都なので先日、鞍馬山に登ってきました。母からは毒気が抜けたなと言われて」
「んだなあ。顔つきだいぶ変わっだな、あんだ」
「浅草で厄除けだとやっぱり浅草寺でしょうか?」
「それより聖天様だなや。縁結びで有名だがら逆も有る」
「ああ、ありますね。待乳山聖天でしたっけ」
ホスト時代、周りのキャバ嬢やクラブのホステスたちが何人か通って「ご利益出た!」とはしゃいでいた記憶がある。
聖天はインドのゾウの神ガネーシャが仏教に習合された後に日本へやってきた仏様だ。密教色を取り入れて男女二組のガネーシャが抱き合う姿の秘仏が有名だ。
「せっかく浅草まで来たのでこの後、お参りしてきます」
「なら行きだけあちしの車で送っでやるべ。今日も暑いがら」
「あ、いえそんな」
「だからあちしのユウキ君の分も念入りに厄除け祈ってきんしゃい!」
「ああ……はい、そういうことなら、ありがたく」
あとは食後のお茶をいただきながら、残りの答え合わせだ。
やはり御米田ゲンキだけでなく、米俵社長も僕が御米田の企画を盗用したことを知っていた。
だが社長はそのことで特にコメントはしなかった。僕を責めることも、行為の愚かさを叱ることもない。これはこれで僕には堪えた。
この人は初見のときと同じでこういうプレッシャーを相手に与えるタイプなわけだ。
「……そういえば遅ればせながら御米田が故郷の村ごと行方不明になってると知りました。社長もご存知でしたか」
「あちしのご先祖の墓があの村にあっだんだあ。関係者もう皆パニックよ!」
「異世界転移でしたか。漫画みたいな話ですけど」
「あんだも疑っでる口か?」
「いいえ。……実は昨晩、御米田がいる世界の夢を見たんです。アケロニア王国で現地の王様らしき人に会いました。……もしかしたら僕も異世界に何か関係のある人間なのかもって。はは、子供の空想みたいですけど」
「アキラ君」
そのとき僕は初めて米俵社長にまともに名前を呼ばれた。しかも下の名前だ。
「あちしのご先祖はアケロニア王国の貴族だったんだあ。アキラ君は? 王様に会えたなら王族け?」
「いいえ。公爵家ですよ。王家の血は一滴も入ってないですけど。社長は……」
僕は米俵社長のイモ顔をじっと見つめて、とある伯爵家の名前を出した。
途端にガシッとランチのお膳越しに両手を掴まれた。
「アキラ君。あんだ、あちしのとこ来んしゃい!」
「……はい?」
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