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第二章 異世界ど田舎村を救え!
その頃、日本では~side八十神、御米田の現在を知る
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「あら。毒気が抜けた顔になったわね」
鞍馬山から帰ってきた土曜の午後、家にいた母親が僕を見るなり言った。
芸妓を含めた客商売が長い経歴からか、母は人の変化に敏感だった。
夜は久し振りに母の手料理を楽しんだ。
手料理とはいっても、母はご飯を炊いておみおつけを作るぐらい。地元は住宅街と畑が多いが昔からの料理屋が出してる惣菜が手頃で美味いのだ。
野菜の炊き合わせを始めとしてどれも懐かしい味だ。東京の濃口醤油の煮物に慣れてた分余計にそう感じる。
料理屋のお菜での夕飯を済ませた、まだ夜の早い時間。
少し飲み足りなくて缶ビール片手にリビングのテレビを付けると、都市伝説風のドキュメンタリー番組がちょうど始まるところだった。
『東北のひなびた村を襲った怪奇事件。なんと一つの村が丸ごと消えたというのです……』
これはドラマか何かだろうか。突拍子もない内容だと思ってチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばしたところで。
『もなか村唯一の若者、御米田ユウキ。彼が異世界からネット掲示板に書き込んだメッセージとは?』
「………………は?」
聞き覚えのある名前が聞こえた。
リモコンで地デジの番組情報を表示させたが、よくわからない。
開けたばかりの缶ビールをテーブルに置いて慌ててスマホで番組の公式サイトを確認した。
ここで僕は初めて、御米田が今どんな事件に巻き込まれているかを知った。
『東北もなか村消失事件』
御米田の故郷は東北のど田舎だと本人から聞いたことがある。先日会った御米田ゲンキも言っていた。
何と今、その村が丸ごと住民や施設、民家や田畑、山などの自然ごと消失して世間は大騒ぎだったのだ。
そうか……最近調子が悪くて家でもテレビを見ずに休んでいたから世間の騒ぎに疎くなっていたか。
「おい……おいおいおい……嘘だろ、御米田……」
番組は御米田の故郷の村が丸ごと消えた事件を追うドキュメンタリーだった。
会社を辞めた後、田舎にUターンした御米田はその月のうちに住んでいた村ごと異世界に移動……転移したという。にわかには信じられない話だ。
だが実際、村がなくなった跡地には土地が抉られたように乾いた地面しか残っていない。村や村民が所有していた山まで消えたことで大騒ぎになっていた。
ネット掲示板への書き込みから、御米田が今いる異世界なる場所の検証もあった。
「異世界……アケロニア王国……」
なんだ? その国名を聞いた瞬間、僕の頭がズキンと痛んだ。聞き覚えがある……?
頭の中を大量の情報が交錯し、駆け巡る。
クーラーが効いてるはずのリビングにいながら、僕の身体からはどっと汗が吹き出していた。
御米田を嵌めた後、我に返ったときよりはるかに強い感情が僕の中に吹き荒れた。
とんでもない過ちを犯してしまった感覚。
――いいや、お前は正しい行動を取った。
まただ。僕なのに僕じゃない声がする。
だが、僕は御米田にとんでもないことをしたじゃないか。あいつの成果を盗んだ。女もだ。まるで世界すべてから指を差されてお前は罪人だと突きつけられたっておかしくない……
くそ、あの野口穂波と別れてからずっと頭の中を雑念がぐるぐる回っている。
――その罪悪感はお前のものではない。己の本心を取り戻せ。
だが声なき声の意図を掴む前に、それらの声や感覚はなくなってしまった。
それでも番組だけは最後まで見た。どうやら御米田はネット掲示板に今でも週に数度書き込みしているようだ。
それから母との会話もそこそこに高校まで暮らしてた自室に戻った。
そしてほとんど徹夜で御米田が立ち上げたスレ『村ごと異世界転移したけど質問ある?』を最新版まで読み込んだ。
* * *
明け方頃、スマホを握りしめたままベッドでうとうとしてたら夢を見た。
不思議な場所だ。馬車に乗って僕は中世ヨーロッパに似たイメージの街並みを進んでいる。
旅行していた遠い場所から帰国してすぐ馬車に乗って王都を走らせている。
やがてギリシャ・ローマ風の白亜の神殿風の建物に到着し、馬車を降りて足を進めた。
神官らしき白い聖衣姿の男性に促されて祭壇の間に入る。
そこには黒髪黒目で黒い軍服を着た大柄な男が跪いて、祭壇の炎に祈りを捧げていた。
祭壇の上には透明なガラス? に封入された巨大な金塊が安置されている。
僕の気配に気づいた男が振り向く。立ち上がったその男は――御米田と同じ顔をしていた。
『王よ。ご恩をお返しするときが来たようです。夢の世界にはどうか私も共にお連れください』
深く臣下の礼を取った僕に、王と呼ばれた御米田顔の男が驚いている。
『妻や親族の許可は得て参りました。後継ぎの息子も儲けて元気に育っております。最後の魔力のひとかけらまで我が王に捧げたく』
あ、そうか、とストンと自分の中の混乱が落ち着いて腑に落ちた感覚があった。
僕は僕が見ている〝夢〟だ。本体はこの王に深く頭を下げているこの身体の持ち主だった。
* * *
NEXT→八十神とお社長再び
※八十神の正体
王様の臣下、王様に恩がある、王様の協力者
このキーワードだけでわかったらすごい。
鞍馬山から帰ってきた土曜の午後、家にいた母親が僕を見るなり言った。
芸妓を含めた客商売が長い経歴からか、母は人の変化に敏感だった。
夜は久し振りに母の手料理を楽しんだ。
手料理とはいっても、母はご飯を炊いておみおつけを作るぐらい。地元は住宅街と畑が多いが昔からの料理屋が出してる惣菜が手頃で美味いのだ。
野菜の炊き合わせを始めとしてどれも懐かしい味だ。東京の濃口醤油の煮物に慣れてた分余計にそう感じる。
料理屋のお菜での夕飯を済ませた、まだ夜の早い時間。
少し飲み足りなくて缶ビール片手にリビングのテレビを付けると、都市伝説風のドキュメンタリー番組がちょうど始まるところだった。
『東北のひなびた村を襲った怪奇事件。なんと一つの村が丸ごと消えたというのです……』
これはドラマか何かだろうか。突拍子もない内容だと思ってチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばしたところで。
『もなか村唯一の若者、御米田ユウキ。彼が異世界からネット掲示板に書き込んだメッセージとは?』
「………………は?」
聞き覚えのある名前が聞こえた。
リモコンで地デジの番組情報を表示させたが、よくわからない。
開けたばかりの缶ビールをテーブルに置いて慌ててスマホで番組の公式サイトを確認した。
ここで僕は初めて、御米田が今どんな事件に巻き込まれているかを知った。
『東北もなか村消失事件』
御米田の故郷は東北のど田舎だと本人から聞いたことがある。先日会った御米田ゲンキも言っていた。
何と今、その村が丸ごと住民や施設、民家や田畑、山などの自然ごと消失して世間は大騒ぎだったのだ。
そうか……最近調子が悪くて家でもテレビを見ずに休んでいたから世間の騒ぎに疎くなっていたか。
「おい……おいおいおい……嘘だろ、御米田……」
番組は御米田の故郷の村が丸ごと消えた事件を追うドキュメンタリーだった。
会社を辞めた後、田舎にUターンした御米田はその月のうちに住んでいた村ごと異世界に移動……転移したという。にわかには信じられない話だ。
だが実際、村がなくなった跡地には土地が抉られたように乾いた地面しか残っていない。村や村民が所有していた山まで消えたことで大騒ぎになっていた。
ネット掲示板への書き込みから、御米田が今いる異世界なる場所の検証もあった。
「異世界……アケロニア王国……」
なんだ? その国名を聞いた瞬間、僕の頭がズキンと痛んだ。聞き覚えがある……?
頭の中を大量の情報が交錯し、駆け巡る。
クーラーが効いてるはずのリビングにいながら、僕の身体からはどっと汗が吹き出していた。
御米田を嵌めた後、我に返ったときよりはるかに強い感情が僕の中に吹き荒れた。
とんでもない過ちを犯してしまった感覚。
――いいや、お前は正しい行動を取った。
まただ。僕なのに僕じゃない声がする。
だが、僕は御米田にとんでもないことをしたじゃないか。あいつの成果を盗んだ。女もだ。まるで世界すべてから指を差されてお前は罪人だと突きつけられたっておかしくない……
くそ、あの野口穂波と別れてからずっと頭の中を雑念がぐるぐる回っている。
――その罪悪感はお前のものではない。己の本心を取り戻せ。
だが声なき声の意図を掴む前に、それらの声や感覚はなくなってしまった。
それでも番組だけは最後まで見た。どうやら御米田はネット掲示板に今でも週に数度書き込みしているようだ。
それから母との会話もそこそこに高校まで暮らしてた自室に戻った。
そしてほとんど徹夜で御米田が立ち上げたスレ『村ごと異世界転移したけど質問ある?』を最新版まで読み込んだ。
* * *
明け方頃、スマホを握りしめたままベッドでうとうとしてたら夢を見た。
不思議な場所だ。馬車に乗って僕は中世ヨーロッパに似たイメージの街並みを進んでいる。
旅行していた遠い場所から帰国してすぐ馬車に乗って王都を走らせている。
やがてギリシャ・ローマ風の白亜の神殿風の建物に到着し、馬車を降りて足を進めた。
神官らしき白い聖衣姿の男性に促されて祭壇の間に入る。
そこには黒髪黒目で黒い軍服を着た大柄な男が跪いて、祭壇の炎に祈りを捧げていた。
祭壇の上には透明なガラス? に封入された巨大な金塊が安置されている。
僕の気配に気づいた男が振り向く。立ち上がったその男は――御米田と同じ顔をしていた。
『王よ。ご恩をお返しするときが来たようです。夢の世界にはどうか私も共にお連れください』
深く臣下の礼を取った僕に、王と呼ばれた御米田顔の男が驚いている。
『妻や親族の許可は得て参りました。後継ぎの息子も儲けて元気に育っております。最後の魔力のひとかけらまで我が王に捧げたく』
あ、そうか、とストンと自分の中の混乱が落ち着いて腑に落ちた感覚があった。
僕は僕が見ている〝夢〟だ。本体はこの王に深く頭を下げているこの身体の持ち主だった。
* * *
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このキーワードだけでわかったらすごい。
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