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第二章 異世界ど田舎村を救え!

その頃、日本では~side八十神、御米田の父と鰻屋にて4 ※飯テロ回

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「会社側の把握してるうちのせがれの退職理由は、君に彼女を取られてヤケになったからってことになっている。企画を盗まれてどうのって話も、君へのやっかみだとね」
「………………」
「もちろんユウキの親しい人たちは企画を盗まれたというユウキの言葉を信じている。だけど確実な証拠を握ってる者はまだ誰もいないようだ。君はそこは安心していい」

 この男は何を言おうとしているのだろうか?
 僕はひたすら鰻重に箸を伸ばしつつ話を聞くしかできなかった。

「君がユウキのコンペ企画を盗用したことを事実として知っているのは、まず被害者のユウキ。そして私だ。なぜかといえば、あの企画はそもそも父親の私が息子のあの子に助言したものだったからね」
「……どの辺りが、でしたか?」

 もうすべてバレているなら取り繕う必要もないし、遅い。
 空いた御米田ゲンキのグラスに最中もなかを注いで僕は訊いた。

「元の企画書にはタイ支社立ち上げ後は現地の外資系コミュニティとの提携案があったろう?」
「……ええ。現地の日本人会とは別のグループでしたね」
「あれね、私がリーダーシップを取って立ち上げた外資リタイヤ組のグループなのだよ。不思議じゃないか? 私たちのグループはクローズドでまだ公に発表をしていなかったのに」
「ああ……なるほど……」

 そうか、そういうことか。僕は箸を置いて片手で顔を覆った。

「私は息子のユウキには企画書にグループ名と所在地を記載する許可を出していた。だが八十神アキラ。私は君とは面識がなかったし、許可を出した覚えもない」
「……ええ」
「だが、さっきも言ったように私は君に大きな恩がある。だからこの話はもうおしまい。不問にしよう」
「ですが、ゲンキさん」
「……まあ気持ちの整理はできないよね。苦しい気持ちがあるなら、それが君への罰ってことにしようか」

 不問にするとは言いながら、御米田ゲンキはその後少しだけ僕にチクリとお説教を刺した。

「社内の上層部だって、君とユウキの間に何もなかったなんて思っちゃいないさ。だが君へ直接聞き取りして事実確認するより放置を選んだようだよ」
「ゲンキさんは、なぜそこまで我が社の内部に詳しいのですか?」
「みどりさんの情報網もあるし、今の常務は私の大学時代の後輩なんだ。帰国したときは銀座で一緒に飲むし、普段もスマホでメッセージのやりとりをしてたから」

 くそ、御米田め。あの野郎、縁故もいいところじゃないか。よくこの環境で平気で会社を辞めたもんだ。

「なぜかわかるかい? 優秀な君を潰したくなかったからだ。だが君はどうなんだね? 証拠はなくても周りはそこそこ君の所業を知っている。その中で君はこれからも生きて行かねばならない」

 言われてハッとなった。
 これからも同じ会社で勤めていくとして。何か社内で目立てば、コンペ当時の状況を知る者は必ず御米田の退職の経緯と絡めて僕がやらかしたことを思い出すだろう。
 御米田ゲンキの言葉が正しければ、僕が御米田の企画を盗んだ事実の裏は取れなかったらしい。だがそのような疑いが僕にあったことは必ず誰かが思い出すに違いない。

 実際、御米田が退職してしばらくして、社内システムへのログイン方式が変わった。IDとパスワード入力から、社員証のICチップをスマホアプリでタッチ+指紋認証方式に変更された。
 もう僕と同じやり方で他人のパソコンからデータを盗むことは誰にもできなくなった。
 コンペは年に何回か開催されている。参加者は部署の上司が企画の進捗をかなり詳しくチェックするようになった。企画被りとの言い訳ももうできなくなる。

「今の状況だと、お前が悪者だ、と指を指されて断罪されるより精神的に堪えるのではないかな。もちろん会社を辞めて逃げたっていい。だが、君の会社は総合商社だけあってさまざまな業界と繋がっている」
「僕を脅しているんですか」
「いいや? 逆だよ。私はこのまま君が勤め続けることを望むね。……ここだけの話、私は息子から君の話はたびたび聞いていたんだ。ライバルだと言ってたけど社会人になって良い友人ができたと思っていたんだよね」
「………………」
「君がしたことは良くないことだったけど。たった一回の過ちで人生すべて潰してしまうのも何か違うなと私は思うから」

 その後は他愛のない話で鰻重を食い終え、締めの肝吸いでお開きとなった。勘定は相手持ちだ。彼は本当にこれは恩返しだからと言って譲らなかった。

「あ。そうだ八十神君。アドレス交換しよう。スマホアプリの」
「えっ?」

 まさかそんなことを言われると思ってなかった僕は、御米田ゲンキに促されるままにメッセージアプリのアドレス交換をした。
 彼のプロフィールアイコンは不敵な笑顔と、頭には王冠イラストの加工付き。その辺のモブがやったら笑い物だが御米田ゲンキにはよく似合っていた。

 浅草駅前のホテルに泊まるという御米田ゲンキを、僕は深く深く腰を折って見送った。

 ……完敗だ。御米田の父親は本当にいい男だった。ああいう人物を格が違うというのだろう。
 あんな父を持って御米田は幸せ者だな……羨ましいことだ。



 うなぎ屋を出ると八時過ぎ。一応、米俵社長の会社に連絡を入れるともう退社した後だ。
 遅番の社員によると報告は明日で良いとのことなので、自社の上司宛てに簡単に接待終わりの報告メッセージだけ送ってそのまま赤羽のアパートに直帰した。

「……しかも土産まで貰ってしまったし」

 1LDKのキッチンのテーブルには御米田ゲンキに貰った日本酒最中もなかの残りを瓶ごとと、包んでもらった焼きおにぎりがある。
 まだ夜の九時前だ。これは晩酌するしかあるまい。
 先にシャワーを浴びてる間に瓶とグラスを冷凍庫に突っ込んでおく。出てきた頃にはどちらも冷え冷えだ。

 冷酒の最中もなかは予想通り最高だった。鼻に抜けていく爽やかな香りも、味わいがあるのに綺麗な風味もぐっと際立っている。
 冷やした分だけするする飲めてしまうが廃業した酒蔵の貴重な酒らしいし。ペースはゆっくり落としてだ。なるほどこれは普通酒だから後味が少し残るが純米大吟醸なら本当に水みたいに飲める酒だったろう。
 残りは一合ほど。うなぎのタレの染みた焼きおにぎりを肴に大切に飲むことにした。

 焼きおにぎりにうなぎは入っていない。これはタレの味を楽しむやつだな。うなぎの脂と旨みの溶け込んだ甘辛いタレが、冷めてもこんがり焼かれて表面がカリッとしたままの焼きおにぎりを極上品に仕立て上げている。

 最中もなかが爽やかな酒だから濃いめのタレ味の焼きおにぎりにとても合う。
 焼きおにぎりは二個入っていた。晩酌には一個だけ食べて残り一個は明日の朝温め直して茶漬けにしよう、と思って僕は最中もなかを飲み干した。

 その直後。

 ――これでいい。自分は正しいことをした。

「………………?」

 何かが自分の中でカチリと嵌まる感覚と同時に、頭の中でそのような声が聞こえた。
 僕自身の声だが自分の思考とも言い難い。ポンとその声だけが唐突に頭の中に響いたからだ。
 無視はできなかった。確信のある強い言葉だったからだ。

「ふぁ……まだ十時……」

 スマホの日記アプリにその〝声〟をメモした途端、急激な眠気に襲われた。
 ま、待て、今日はこの後あの御米田ゲンキを思い返して反省をまとめようと思って……いた、のに………………





NEXT→八十神はようやくお社長の正体に気づいた!(遅ッ)

※御米田パパが包容力ありすぎな件()
ざまぁされない系ざまぁでした……(後悔と反省をずーっと思い知らされるパターン)

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