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第二章 異世界ど田舎村を救え!

その頃、日本では~side八十神、御米田の父と鰻屋にて1

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 最近の僕は不調で仕方がなかった。
 社内コンペで優勝したものの賞金だけで栄転の話は立ち消え。その優勝すらライバルの御米田を不当なやり方で貶めて手に入れたものだ。

 束の間の高揚感はとっくに消え去り、トロフィーのつもりのあいつの元カノもとんでもない地雷女だった。

「……やはり僕はどこかおかしかったようだ……」

 社内の同じ企画部の上司や同僚たちにも心配をかけてしまっている。
 先日などついに胃がズキリと痛んで医者に行く羽目になった。胃潰瘍のなりかけだ。本当に最近の僕はついていない……

『八十神君! あんだ悪いんだげどあちしの代わりにお接待しでぎで! くれっぐれも失礼のないように!』

 例のとんでもお社長、米俵みどりから電話があったのはその日の午後だった。当日いきなり彼のお得意様の接待を命じられたのだ。
 店の場所だけを言って、電話はすぐに切れた。メモを見ると浅草だ。検索したところ有名な鰻屋のようだ。
 店は予約してあると言っていた。夜の七時だ。

「相手は誰なんだ……?」

 米俵社長は中堅どころの化粧品メーカー社長で、タイを始めとした東南アジアに複数の支社と強いパイプを持つ。
 今日行けと言われた浅草は彼の会社の東京支社がある場所でもある。指定された鰻屋からはすぐ近くのはずだが……わざわざ前任者おこめだから変わったばかりの僕にいったい誰を任せようというんだ?

 その後は上司に米俵社長からの接待に駆り出されることを報告し、夕方にカフェスペースでカフェイン摂取して気合いを入れた。胃が痛むとか言ってられない状況だ。
 同じフロアのトイレで顔を洗って身だしなみチェックしていたら、あの御米田の後輩鈴木と出くわした。

「あっれー八十神先輩じゃないスか。今日はこの後デートですか?」
「まさか。接待だよ。取引先の社長に頼まれてね」
「ああ、ユウキ先輩から引き継いだあの強烈なお社長の?」
「ああ。七時に浅草だ。あまり知らない場所だから早めに行っておこうと思ってね」

 よし、身だしなみOK。僕はすぐトイレを出たので、後ろから鈴木が僕を見つめていたことには気づかないままだった。

「楽しみですねえ。八十神先輩」

 何か鈴木が呟いていたが小声すぎて聞こえなかった。



 指定された鰻屋は浅草寺の近く。観光客がまばらに歩く裏通りの古い二階建ての木造の店だった。
 中に入るともう食欲をそそる鰻の焼ける匂いがすごい。店内一階は町の蕎麦屋のレイアウトとよく似ていた。カウンターとテーブル席、奥に座席。

「すいません、予約の者ですが」
「はーい、お連れ様お先にお越しですよ、お二階にどうぞ!」
「!?」

 しまった。約束の三十分前だったが出遅れたか。何たる失態。

「遅れて申し訳ありません! ――――商事の八十神です」

 階段を駆け上がり向かった個室のお座敷には。

「ああ、構いません。外は暑くてね。先に上がらせてもらって涼を取ってたのさ」

 小瓶のビールで枝豆を肴にする、低いがよく通る声の大男がいた。



 注文を取りに来た店員にビールを注文し直し、まずは名刺交換をした。
 日本語、英語、タイ語で書かれたシンプルな名刺。何より名前に僕は名刺を取り落としそうになった。

「〝御米田ゲンキ〟……御米田ってまさか」
「うちの愚息がお世話になったみたいで。父です。まあ今回はみどり社長が会っておけと言うものだから。……そんなに緊張しないでいいよ」

 無理だ。夏用の風通しの良いはずのサマージャケットとワイシャツの中はもう一気に嫌な汗が吹き出して、脇や背中を通り過ぎていく。

 御米田の父親のことなら知っている。あいつが高校卒業後、夫婦でタイに移住して今はバンコク住まいだったはず。
 なぜ日本にいる? なぜ、あの米俵社長に呼ばれて来た店にこの男がいる?

 注文したビールが来るまでの僅かな間、僕は御米田ゲンキが大きな手と指でぷちぷちと枝豆をつまむのを戦々恐々と見つめているしかできなかった――





NEXT→うなぎ屋の大将はうなぎを捌きはじめた……

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