異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

真義あさひ

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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、譲れない派閥

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 その日、午前中にど田舎〝町〟から行商人が来るというので、俺は早めに村内の見回りや酒造りのルーチンを済ませて午前中のうちに家族全員で男爵の屋敷に向かった。

 町の商会員が中年の男二人。
 それと今回ど田舎村に初めて来たというまだ見習いらしい女性が一人。十八ぐらいだろうか。明るい茶髪とそばかすのある、なかなか可愛い子だ。

 ウインクされたが俺は無だった。愛想笑いもしない。
 なぜなら左右にうちの二人の子がいて、ピナレラちゃんとはお手々を繋いでいたからだ。
 しかも女性に向けてピナレラちゃんが牽制するように、イーッと歯を剥き出しにした変顔で俺を守ってくれてるのがもう可愛くて可愛くて!

 そもそもあの女の子は俺の好みじゃない。
 ぼそぼそと反対側でピナレラちゃんも手を繋いでたユキりんとひそひそ会話した。

「ほら、若い女性ですよ、ユウキさん」
「俺、胸のない子はあんまり」
「え。スレンダーな人、いいじゃないですか」
「……ユキりん、お前」

 貧乳派か。

「ユウキさんは……」
「んだ」

 巨乳派だべ。
 その日、俺たちは根本的なところで嗜好が相入れないことを知った。派閥違いだ。だが排斥はしない。皆違って皆良しだべな。

 行商人から買ったのは、ど田舎村だけでは賄えない生活雑貨や衣服などだ。
 うちはばあちゃんが俺たち家族用の服にする布を反物でいくつかと、元々家にあった座布団がへたってきたので詰め替え用の綿。

 あとはスパイスなどの調味料と、町のほうで仕入れている専門店の菓子などだ。ど田舎村でも砂糖やバターはあるけどやはりスイーツ専門店のものには敵わね。ばあちゃんや二人のお子たち用だ。

 国内の異世界人たちの集落で生産してるという醤油やみりんは、取り寄せまでにまだ時間がかかるそうだ。
 もっとも保存がきく調味料はど田舎村にもまだまだ備蓄があるから一年は余裕で保ちそうなのだが。

「若い子が入ったのかい」
「ええ、まずは外商に慣れさせようと思いまして。領内や近隣を回って顔見せさせているんです」

 男爵と商会員がそんな会話をしていた。

 後から思い返すと、後にど田舎村を襲う事件の兆しはこの頃からあったのだとわかる。
 だけどこの時点では誰も異変の前兆を察知することはできなかったんだ。



 さて買い物を終えて、男爵の屋敷からはまたドラゴン肉のお裾分けをいただいてきた。
 御米田家にというより、王族で大公令嬢だったというばあちゃんに敬意を評して毎回一番良いとこをくれるのがありがたい。

 ど田舎村でも牛や豚の畜産をやっていたが、最近は食用OKなドラゴンなどの魔獣、野獣も多いのでもっぱらそっちばかり食している。

 よく西洋ファンタジーに出てくるタイプのドラゴンは極上の牛肉みたいな味がする。
 和牛みたいな脂のサシは少ない。味の濃い赤身系の肉が多かった。

 その日の夜はばあちゃんがドラゴン炊き込みご飯を炊いてくれた。
 ドラゴン肉、ゴボウ、レンコンなどの根菜をニンニクのスライスで炒めて、醤油とみりんのかえしで土鍋炊き。炊き立てに韓国海苔を細かく揉んだものと、胡麻油をちょんと垂らして混ぜて出来上がり。

 牛肉の赤身に似てるってことで肉じゃがも作ってくれた。
 ばあちゃんの肉じゃがはちょっとすごいぞ。タマネギたっぷりを炒めて甘みを極限まで引き出して作るので、他の煮物みたいにみりんや砂糖を使わない。
 タマネギがとろっと柔らかくなるまで炒め煮したところに、ドラゴン肉の旨みの滲み出た汁がジャガイモやニンジン、白滝に染み染み……
 ご飯が進むの典型だっぺ!

 そんなドラゴン料理がばあちゃんの腕によって手を変え品を変え連日続いた。
 全部美味い、美味いんだが……ある日、ピナレラちゃんがぽつんと言った。

「ドラゴンしゃん、あきてきたね」
「さすがに毎日毎食だもんなあ」
「けんど早く食わねえと熟成が進みすぎて腐っちまうべ」
「………………」

 ユキりんだけがひたすらもぐもぐ元気に食している。
 この子は奴隷商に囚われてた間かなり過酷な食生活だったようで、食えるものに基本文句を言わないタイプだった。

 と思ってたら翌日から男爵から届くドラゴンの肉質が変わった。
 極上の牛肉みたいだった西洋ドラゴンタイプの肉から、新しくお裾分けをいただいたのは飛竜、いわゆるワイバーン系のやつだ。こちらはなぜか鶏肉に似た味と食感。
 チキンソテーや棒棒鶏、そろそろ備蓄も少ない油で唐揚げや竜田揚げなど食卓はさらに豊かになった。

 それから食卓に上がる肉のバリエーションが増えてきた。
 野生のボアは豚肉そのものだし、まさにジビエの鹿肉なんかもぽつぽつと。ローテーション的にいろんな肉を食えてなかなか。
 ばあちゃんもど田舎村のご婦人たちに地元の料理を習ってレシピを増やしていた。肉やレバーをパテにしてバゲットスライスに塗ったのとか美味すぎてヤバかった。日本の都会の洒落た店でしか食えない味だ……

 こればかりは俺もど田舎村の皆さんからワインを分けてもらって晩酌と洒落こんだ。
 飲んでもせいぜい瓶一本ぐらいだが……俺、酒が強いほうだから満足するまで飲もうとすると量が馬鹿にならねえんだべ。

 異世界に来てからは飲まない日のほうが多かったが、日本酒の最中もなかを安定して作れるようになったら週末だけでも毎週飲めるようになったらいいなあ。





NEXT→その頃日本では後輩鈴木が元カノと……
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