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第二章 異世界ど田舎村を救え!
俺、探りを入れる
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ばあちゃんちに帰ると、ちょうど村長からスマホにメッセージが入った。
『蕎麦打ちやっとるから夕飯に来てけんろ
空さんにめんつゆよろしくして』
「蕎麦打ちぃ!? ……あ、そういえば村役場に蕎麦打ちカーあったっけ」
もなか村役場では予算使いきりに年度末になると村に必要な資材や設備を買い込むのが慣習になっていたようだ。
その一環が蕎麦打ちカー。ご年配男性って好きだよな蕎麦打ち。
もなか村は東北の寒冷地だけあって、細々だが蕎麦の実栽培もやっていた。村長が打ってるのは去年の備蓄分を製粉したやつだろう。
ここ異世界のど田舎村でも栽培してるって聞いたから、保存したままにしないで消費することにしたんだな。
「じゃあ男爵の屋敷に行くのは夕方頃にするか。『村長、男爵に日本酒に使うど田舎村の米準備してもらってください』っと」
ピコン!
『男爵がお泊まりどうかって
村役場の温泉さ入って夜はのんびりすんべ』
「お、いいね」
もなか村役場の温泉は、ど田舎村に元々あった温泉の源泉とドッキングしたようで設備はそのまま使えている。
村役場は男爵の屋敷のすぐ近くにあるので、日々の管理は男爵家の人たちにお任せしていた。
時計を見るとまだ午後二時前だ。
ばあちゃんはめんつゆを追加でピナレラちゃんに手伝ってもらって作るそう。
俺とユキりんは明日からの本格的な酒造りの打ち合わせをしておくことにした。
御米田家の次男になった美少年ユキリーンは、奴隷商に囚われの身になる前は王都の貴族学園に通っていたらしい。
らしい、というのはユキりん本人は隠しているつもりだからだ。
ところがこの子はわりとうっかり屋で、本人が会話の中で自分のことをポロポロ漏らしてることに気づいてない。
というか、俺がさりげなくうっかりポロリさせる方向に誘導してるからなのだが。
「ユキりん、日本酒の作り方さ俺が口頭で話すからノートにまとめてくれないか。できる?」
「問題ないです。レポートの習い方はちゃんと学園で習いました」
なんてことのない会話だ。
でも男爵から借りたアケロニア王国紀を読み込んだ俺には、この国に〝学園〟は王都にある王立学園しかなくて、未成年が通う他の教育機関はすべて〝学校〟表記だとわかっている。
学園は小等部、中等部、高等部まである複合教育機関のことだ。高等部単独とかだと学校なんだよな。
王立学園はここの男爵も卒業した、貴族しか入れないところ。貴族であっても優秀な生徒しか入学できない。
こう見えてユキりんは将来のエリート候補生だったのだ。
「最初は純米酒から造る予定だ。米、麹、酵母だけで作れるからな。工程は……」
あとでまとめ直すことも考慮して鉛筆で書いてもらっている。だが見た感じ、理路整然と図解込みで書かれていて大きな修正は必要なさそうだ。
ないないと思ってた異世界転移チートだが、実は一番重要で切実な言語翻訳スキルを俺は持っていた。こいつはど田舎村に転移してきた最初からあったやつ。
日本語と、ここアケロニア王国のある円環大陸は言語体系がまったく違う。
だけど俺には地元村民の言葉がわかったし、相手にも俺の日本語がふつうに聴き取れていた。
しかも、現地の文字もふつうに読めたから俺は領主の男爵にあれこれ本を借りてこの世界や国の知識を吸収中である。
……ところが、読めても書くほうのチートはなかったんだべ……
仕方ないからピナレラちゃんと一緒にユキりん先生に習ってる途中だった。ピナレラちゃんの持ってる亡くなったご両親の形見の絵本を読んでやれるのだけは幸いだったが。
ばあちゃんや村長、勉さんは元々異世界人でアケロニア王国の王族やその親戚だから、こういう文字の不都合はなかった。その辺は羨ましいところだな。
NEXT→御米田は玄人お姉さんのいる隣町へ……?
『蕎麦打ちやっとるから夕飯に来てけんろ
空さんにめんつゆよろしくして』
「蕎麦打ちぃ!? ……あ、そういえば村役場に蕎麦打ちカーあったっけ」
もなか村役場では予算使いきりに年度末になると村に必要な資材や設備を買い込むのが慣習になっていたようだ。
その一環が蕎麦打ちカー。ご年配男性って好きだよな蕎麦打ち。
もなか村は東北の寒冷地だけあって、細々だが蕎麦の実栽培もやっていた。村長が打ってるのは去年の備蓄分を製粉したやつだろう。
ここ異世界のど田舎村でも栽培してるって聞いたから、保存したままにしないで消費することにしたんだな。
「じゃあ男爵の屋敷に行くのは夕方頃にするか。『村長、男爵に日本酒に使うど田舎村の米準備してもらってください』っと」
ピコン!
『男爵がお泊まりどうかって
村役場の温泉さ入って夜はのんびりすんべ』
「お、いいね」
もなか村役場の温泉は、ど田舎村に元々あった温泉の源泉とドッキングしたようで設備はそのまま使えている。
村役場は男爵の屋敷のすぐ近くにあるので、日々の管理は男爵家の人たちにお任せしていた。
時計を見るとまだ午後二時前だ。
ばあちゃんはめんつゆを追加でピナレラちゃんに手伝ってもらって作るそう。
俺とユキりんは明日からの本格的な酒造りの打ち合わせをしておくことにした。
御米田家の次男になった美少年ユキリーンは、奴隷商に囚われの身になる前は王都の貴族学園に通っていたらしい。
らしい、というのはユキりん本人は隠しているつもりだからだ。
ところがこの子はわりとうっかり屋で、本人が会話の中で自分のことをポロポロ漏らしてることに気づいてない。
というか、俺がさりげなくうっかりポロリさせる方向に誘導してるからなのだが。
「ユキりん、日本酒の作り方さ俺が口頭で話すからノートにまとめてくれないか。できる?」
「問題ないです。レポートの習い方はちゃんと学園で習いました」
なんてことのない会話だ。
でも男爵から借りたアケロニア王国紀を読み込んだ俺には、この国に〝学園〟は王都にある王立学園しかなくて、未成年が通う他の教育機関はすべて〝学校〟表記だとわかっている。
学園は小等部、中等部、高等部まである複合教育機関のことだ。高等部単独とかだと学校なんだよな。
王立学園はここの男爵も卒業した、貴族しか入れないところ。貴族であっても優秀な生徒しか入学できない。
こう見えてユキりんは将来のエリート候補生だったのだ。
「最初は純米酒から造る予定だ。米、麹、酵母だけで作れるからな。工程は……」
あとでまとめ直すことも考慮して鉛筆で書いてもらっている。だが見た感じ、理路整然と図解込みで書かれていて大きな修正は必要なさそうだ。
ないないと思ってた異世界転移チートだが、実は一番重要で切実な言語翻訳スキルを俺は持っていた。こいつはど田舎村に転移してきた最初からあったやつ。
日本語と、ここアケロニア王国のある円環大陸は言語体系がまったく違う。
だけど俺には地元村民の言葉がわかったし、相手にも俺の日本語がふつうに聴き取れていた。
しかも、現地の文字もふつうに読めたから俺は領主の男爵にあれこれ本を借りてこの世界や国の知識を吸収中である。
……ところが、読めても書くほうのチートはなかったんだべ……
仕方ないからピナレラちゃんと一緒にユキりん先生に習ってる途中だった。ピナレラちゃんの持ってる亡くなったご両親の形見の絵本を読んでやれるのだけは幸いだったが。
ばあちゃんや村長、勉さんは元々異世界人でアケロニア王国の王族やその親戚だから、こういう文字の不都合はなかった。その辺は羨ましいところだな。
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