89 / 206
第二章 異世界ど田舎村を救え!
俺、マウンテンバイクで山道を爆走
しおりを挟む
川原に戻ってくると空に雲が出てきて、風が冷たくなってきた。そろそろ戻るか。
「ど田舎村の川のほうは鮭が海から上がってくるんだと。季節になったらあっちも行ってみよう」
「鮭ですか!」
突如ユキりんのテンションが上がった。アメジスト色の澄んだお目々がキラキラだべ。
「そうそう。ユキりんがこの村に来てすぐのとき、ばあちゃんが焼き鮭入りのおにぎり作ってくれただろ? あの塩鮭がど田舎村産」
「ユキリーンちゃ。しゃけしゃん、しゅきなの?」
ピナレラちゃんに小首を傾げて聞かれて、ユキりんはハッと我に返った。
「……故郷は鮭の名産地だったんで」
言葉少なにそれだけ答えた。なるほど。ユキりんは鮭の名産地の出身か。
だが追求してはならない。少しずつ懐きつつあるユキりんだ。ここで深追いしてまた警戒心たっぷりの捨て猫モードに戻しちゃなんね。
「そっか」
「あのねあのね。あたちもしゃけしゃん、だいしゅき。しゅーぷにしゅるとおいちいの」
「……生鮭ならミルクスープにすると絶品だよ。この村でも食べられたらいいね」
俺は塩辛い焼き鮭を少しずつ日本酒の肴に摘まむのが好きだなあ。皮までカリッと焼いたやつがいい。
とはいえ日本酒の備蓄はもうほとんどないんだが。焼酎ならネットスーパーで安いとき買い溜めしたのがまだケースで残っている。
今回、川原までの山道にはマウンテンバイクを押して来ている。
ママチャリみたいに荷台を後ろに増設してあるからそこにクーラーボックスとキャンプ用品を載っけてきた。
さて。ここから先は良い子は真似しちゃなんね。なんねったらなんね。ユキ兄ちゃんとの約束だっぺ!
山道はマウンテンバイクに乗って降りることにする。――三人で。
まず、後付けの前カゴにピナレラちゃんイン。
元々日本にいたとき隣町への買い出し用にがっちり固定してあった深めの前カゴだ。まだまだ四歳児の体重ならいける。あと五キロプラスまでならいける。
俺はふつうにサドルに座る。
ユキりんは後輪に設置したサイドステップに両足をかけてリアキャリア、後輪上の荷台部分に乗っからせる。腕は俺の腰に回してしっかりしがみついてもらう。
使ったキャンプ用品はリュックに詰めて、釣った鮎入りのクーラーボックスに括り付ける。でこれはユキりんに背負ってもらう。氷も詰まっててちょっと重いがクーラーボックスは中サイズだ。男の子のユキりんならまあいけるべさ。
あとはこのまま俺がペダルを漕いで山を降りれば、行きは三十分かかった山道も五分だ。
だが良い子は真似しちゃいけないぞ。このマウンテンバイク、男爵に頼んで異世界仕様に改造してもらったやつだからな。
タイヤのゴムや中のチューブ、サスペンションを強化してもらっている。仕組みは単純だから万が一故障しても替えの部品は魔導具師に依頼すれば問題ないそうだ。やったぜ! 異世界でも永久に乗れる!
「え、ちょ、ユウキさん、これどう見ても無理なやつではー!?」
「あははははは! はやい! おにいちゃはやいー!」
「二人とも口閉じてろ、舌噛むぞ!」
「あいっ」
「ひいいぃ……ッ」
山を降りるまで五分。そこからばあちゃんちまではアスファルト舗装の道路があるのでさらに五分。車が通らない分、限界までスピードを上げて。
「到着!」
「とうちゃーく! たのしかったー!」
「……次があったら僕は馬借りてきます……吐きそう……」
ふらふらのユキりんをピナレラちゃんに任せて、俺は鮎を男爵の屋敷へ届けに。
「ばあちゃんに米だけ研いでおいてって言っといてくれ」
「あい!」
「了解です……」
ばあちゃんは昼間休んで元気になったかな。夜は鮎を使って俺が作るっぺ!
NEXT→御米田は料理男子(初級)
「ど田舎村の川のほうは鮭が海から上がってくるんだと。季節になったらあっちも行ってみよう」
「鮭ですか!」
突如ユキりんのテンションが上がった。アメジスト色の澄んだお目々がキラキラだべ。
「そうそう。ユキりんがこの村に来てすぐのとき、ばあちゃんが焼き鮭入りのおにぎり作ってくれただろ? あの塩鮭がど田舎村産」
「ユキリーンちゃ。しゃけしゃん、しゅきなの?」
ピナレラちゃんに小首を傾げて聞かれて、ユキりんはハッと我に返った。
「……故郷は鮭の名産地だったんで」
言葉少なにそれだけ答えた。なるほど。ユキりんは鮭の名産地の出身か。
だが追求してはならない。少しずつ懐きつつあるユキりんだ。ここで深追いしてまた警戒心たっぷりの捨て猫モードに戻しちゃなんね。
「そっか」
「あのねあのね。あたちもしゃけしゃん、だいしゅき。しゅーぷにしゅるとおいちいの」
「……生鮭ならミルクスープにすると絶品だよ。この村でも食べられたらいいね」
俺は塩辛い焼き鮭を少しずつ日本酒の肴に摘まむのが好きだなあ。皮までカリッと焼いたやつがいい。
とはいえ日本酒の備蓄はもうほとんどないんだが。焼酎ならネットスーパーで安いとき買い溜めしたのがまだケースで残っている。
今回、川原までの山道にはマウンテンバイクを押して来ている。
ママチャリみたいに荷台を後ろに増設してあるからそこにクーラーボックスとキャンプ用品を載っけてきた。
さて。ここから先は良い子は真似しちゃなんね。なんねったらなんね。ユキ兄ちゃんとの約束だっぺ!
山道はマウンテンバイクに乗って降りることにする。――三人で。
まず、後付けの前カゴにピナレラちゃんイン。
元々日本にいたとき隣町への買い出し用にがっちり固定してあった深めの前カゴだ。まだまだ四歳児の体重ならいける。あと五キロプラスまでならいける。
俺はふつうにサドルに座る。
ユキりんは後輪に設置したサイドステップに両足をかけてリアキャリア、後輪上の荷台部分に乗っからせる。腕は俺の腰に回してしっかりしがみついてもらう。
使ったキャンプ用品はリュックに詰めて、釣った鮎入りのクーラーボックスに括り付ける。でこれはユキりんに背負ってもらう。氷も詰まっててちょっと重いがクーラーボックスは中サイズだ。男の子のユキりんならまあいけるべさ。
あとはこのまま俺がペダルを漕いで山を降りれば、行きは三十分かかった山道も五分だ。
だが良い子は真似しちゃいけないぞ。このマウンテンバイク、男爵に頼んで異世界仕様に改造してもらったやつだからな。
タイヤのゴムや中のチューブ、サスペンションを強化してもらっている。仕組みは単純だから万が一故障しても替えの部品は魔導具師に依頼すれば問題ないそうだ。やったぜ! 異世界でも永久に乗れる!
「え、ちょ、ユウキさん、これどう見ても無理なやつではー!?」
「あははははは! はやい! おにいちゃはやいー!」
「二人とも口閉じてろ、舌噛むぞ!」
「あいっ」
「ひいいぃ……ッ」
山を降りるまで五分。そこからばあちゃんちまではアスファルト舗装の道路があるのでさらに五分。車が通らない分、限界までスピードを上げて。
「到着!」
「とうちゃーく! たのしかったー!」
「……次があったら僕は馬借りてきます……吐きそう……」
ふらふらのユキりんをピナレラちゃんに任せて、俺は鮎を男爵の屋敷へ届けに。
「ばあちゃんに米だけ研いでおいてって言っといてくれ」
「あい!」
「了解です……」
ばあちゃんは昼間休んで元気になったかな。夜は鮎を使って俺が作るっぺ!
NEXT→御米田は料理男子(初級)
734
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる