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第二章 異世界ど田舎村を救え!
俺、川で焼き魚と芋煮 ※おいちい回
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「そろそろ魚が焼けます。どうしますか?」
「鍋のほうはどうなった? 具に火ぃ通ったか?」
「大丈夫そうです」
「よし」
さすがにまだ四歳のピナレラちゃんは見学のみ。火の番はユキりんに任せて俺は川魚釣りに集中していた。
もう季節は七月、夏だ。とはいえ、ど田舎村もアケロニア王国の最果ての北部で寒い。旬も終わりのはずの鮎がまだ残ってて、たんまり釣れた。
釣れた鮎は家から持参していたクーラーボックスへ放り込み、氷締めだ。男爵から貰っていた氷の魔石をかざすとクラッシュアイスが溢れてくる。
……ここは魔法のある異世界だ。最近の俺は王様から貰ったチート大剣の影響か魔力の使い方を覚え始めた。魔力をちょいっと流せば魔石や魔導具の扱いもお手の物。
「あ、焚き火の中に木炭入れておいて。持ってきたやつ全部」
「わかりました」
釣竿を片付けて、調理中の焚き火に戻る。
うむ、鮎はこんがり良い焼け具合。
すぐ隣には、石で組み立てた簡易かまどにステンレス鍋をかけている。中身は――芋煮だ。
芋煮。それは山形県の郷土料理にして東北ソウルフードの一つ。地域によって名称や具、味付けのベースなど様々だが、もなか村はオーソドックスに里芋中心の濃口醤油味である。
ちょうどばあちゃんちにも去年収穫した分の備蓄があった。俺は里芋は洗って薄皮を剥いておき、その他の具はばあちゃんに頼んで下処理をお願いしてあった。
ゴボウ、こんにゃく、ネギ、舞茸などのキノコ類。山の川べりで作る予定だから今回は肉抜き。もなか山には龍神伝説の祠があって、魚はいいが昔から肉食厳禁と言われている。
牛肉入りの芋煮は村で皆が集まったときに作る予定だ。
御米田家の芋煮は、最初に大量の洗い里芋を醤油で炒めるところから始まる。これは芋煮と里芋の煮っころがしを一緒に作るためだとばあちゃんが言っていた。家で作るときは炒めた里芋は半分別の鍋に移し、砂糖を足して煮っころがしにする。
あとは残りの具を全部入れて、里芋が煮えるまでひたすら煮る。旬の里芋なら短め、季節外れの備蓄用を使うなら十分以上コトコトと。
汁を少しだけ味見して、追加で醤油を少しだけ足して出来上がり。
焼き魚はここに来る途中で採ってきた笹の葉を皿代わりに。芋煮はキャンプ用のプラスチック丼で。
テーブルや椅子は辺りの岩や石を上手く活用して、さあ昼飯だ!
「さ、二人とも召し上がれ」
「いただきます」
「いただきましゅ!」
子供二人がさっそく鮎の塩焼きの串に手を伸ばす。そうそう、パリッとこんがり焼けた鮎にはかぶりつくのが一番だ。
俺もさっそく……
「あゆしゃん。おいちいねえ」
ほくほくの白身魚を頬張って、ピナレラちゃんの『おいちい』が出た。ニコニコの笑顔でむしゃむしゃ食べている。
隣のユキりんは無言だ。だがもう二匹目に手が伸びている。さすが育ち盛り十四歳。
「もなかの鮎はやっぱ美味いな。はらわたまで食えるし」
鮎に限らず川魚は寄生虫リスクがあるから養殖もの以外の内臓を食うなと言われる。
だが今回みたいに源泉近くの渓流で釣った鮎は、焼けば普通にはらわたが食える。鮎は川底の藻を食うから内臓に爽やかな香りと苦味混じりの旨みがあって美味い。
よそ者に話すと許可なく山に入り込むから、もなか川の外では絶対に話すなと言われて俺も育っている。
俺たち用に大小様々な鮎を九匹焼いている。
まだまだ釣れるだろうし、今日はばあちゃんへの土産と、村長と勉さんのいる男爵家への差し入れ分も釣るのがノルマだ。
「二人とも、芋煮も食ってみろ。もなか村の名物だ、美味いぞ」
「あい!」
「……はい」
「アッ、熱いからちゃんとフーフーしてだぞ!?」
ピナレラちゃんは元気なお返事、ユキりんはちよっと控えめなお返事。
丼から直接汁をずずっとすすり、二人の動きが止まった。かと思ったら今ではすっかり慣れた箸使いで具を口に運んでいる。
俺も醤油味のとろみのある汁を一口。……舞茸などのキノコやゴボウからいい出汁が出ている。ああ、もなかの味だなあと思う。染みる。
本来なら砂糖を加えて甘じょっぱい味もいいのだが、ど田舎村のあるアケロニア王国では料理には滅多に砂糖は使わないそうだ。今回は現地人の味覚に合わせてアレンジしてある。
しかし濃口醤油だけでこの深い味が出るのだから、芋煮は奥が深いっぺ。
「おにいちゃ。おいも、おいちい!」
「……すごいです。空さんの煮物も美味しかったですけど、汁物でも美味しいお芋ですね」
そうだろう。この独特な舌触りは里芋ならではだべ。うちの芋煮は最初に醤油で炒めるから香ばしさも加わってさらに美味いのだ。
七月の今月下旬から秋にかけてが里芋の収穫期だ。その前に去年の収穫分を消費せんとな。
NEXT→御米田には焼きおにぎりに秘密兵器があった……🍙
「鍋のほうはどうなった? 具に火ぃ通ったか?」
「大丈夫そうです」
「よし」
さすがにまだ四歳のピナレラちゃんは見学のみ。火の番はユキりんに任せて俺は川魚釣りに集中していた。
もう季節は七月、夏だ。とはいえ、ど田舎村もアケロニア王国の最果ての北部で寒い。旬も終わりのはずの鮎がまだ残ってて、たんまり釣れた。
釣れた鮎は家から持参していたクーラーボックスへ放り込み、氷締めだ。男爵から貰っていた氷の魔石をかざすとクラッシュアイスが溢れてくる。
……ここは魔法のある異世界だ。最近の俺は王様から貰ったチート大剣の影響か魔力の使い方を覚え始めた。魔力をちょいっと流せば魔石や魔導具の扱いもお手の物。
「あ、焚き火の中に木炭入れておいて。持ってきたやつ全部」
「わかりました」
釣竿を片付けて、調理中の焚き火に戻る。
うむ、鮎はこんがり良い焼け具合。
すぐ隣には、石で組み立てた簡易かまどにステンレス鍋をかけている。中身は――芋煮だ。
芋煮。それは山形県の郷土料理にして東北ソウルフードの一つ。地域によって名称や具、味付けのベースなど様々だが、もなか村はオーソドックスに里芋中心の濃口醤油味である。
ちょうどばあちゃんちにも去年収穫した分の備蓄があった。俺は里芋は洗って薄皮を剥いておき、その他の具はばあちゃんに頼んで下処理をお願いしてあった。
ゴボウ、こんにゃく、ネギ、舞茸などのキノコ類。山の川べりで作る予定だから今回は肉抜き。もなか山には龍神伝説の祠があって、魚はいいが昔から肉食厳禁と言われている。
牛肉入りの芋煮は村で皆が集まったときに作る予定だ。
御米田家の芋煮は、最初に大量の洗い里芋を醤油で炒めるところから始まる。これは芋煮と里芋の煮っころがしを一緒に作るためだとばあちゃんが言っていた。家で作るときは炒めた里芋は半分別の鍋に移し、砂糖を足して煮っころがしにする。
あとは残りの具を全部入れて、里芋が煮えるまでひたすら煮る。旬の里芋なら短め、季節外れの備蓄用を使うなら十分以上コトコトと。
汁を少しだけ味見して、追加で醤油を少しだけ足して出来上がり。
焼き魚はここに来る途中で採ってきた笹の葉を皿代わりに。芋煮はキャンプ用のプラスチック丼で。
テーブルや椅子は辺りの岩や石を上手く活用して、さあ昼飯だ!
「さ、二人とも召し上がれ」
「いただきます」
「いただきましゅ!」
子供二人がさっそく鮎の塩焼きの串に手を伸ばす。そうそう、パリッとこんがり焼けた鮎にはかぶりつくのが一番だ。
俺もさっそく……
「あゆしゃん。おいちいねえ」
ほくほくの白身魚を頬張って、ピナレラちゃんの『おいちい』が出た。ニコニコの笑顔でむしゃむしゃ食べている。
隣のユキりんは無言だ。だがもう二匹目に手が伸びている。さすが育ち盛り十四歳。
「もなかの鮎はやっぱ美味いな。はらわたまで食えるし」
鮎に限らず川魚は寄生虫リスクがあるから養殖もの以外の内臓を食うなと言われる。
だが今回みたいに源泉近くの渓流で釣った鮎は、焼けば普通にはらわたが食える。鮎は川底の藻を食うから内臓に爽やかな香りと苦味混じりの旨みがあって美味い。
よそ者に話すと許可なく山に入り込むから、もなか川の外では絶対に話すなと言われて俺も育っている。
俺たち用に大小様々な鮎を九匹焼いている。
まだまだ釣れるだろうし、今日はばあちゃんへの土産と、村長と勉さんのいる男爵家への差し入れ分も釣るのがノルマだ。
「二人とも、芋煮も食ってみろ。もなか村の名物だ、美味いぞ」
「あい!」
「……はい」
「アッ、熱いからちゃんとフーフーしてだぞ!?」
ピナレラちゃんは元気なお返事、ユキりんはちよっと控えめなお返事。
丼から直接汁をずずっとすすり、二人の動きが止まった。かと思ったら今ではすっかり慣れた箸使いで具を口に運んでいる。
俺も醤油味のとろみのある汁を一口。……舞茸などのキノコやゴボウからいい出汁が出ている。ああ、もなかの味だなあと思う。染みる。
本来なら砂糖を加えて甘じょっぱい味もいいのだが、ど田舎村のあるアケロニア王国では料理には滅多に砂糖は使わないそうだ。今回は現地人の味覚に合わせてアレンジしてある。
しかし濃口醤油だけでこの深い味が出るのだから、芋煮は奥が深いっぺ。
「おにいちゃ。おいも、おいちい!」
「……すごいです。空さんの煮物も美味しかったですけど、汁物でも美味しいお芋ですね」
そうだろう。この独特な舌触りは里芋ならではだべ。うちの芋煮は最初に醤油で炒めるから香ばしさも加わってさらに美味いのだ。
七月の今月下旬から秋にかけてが里芋の収穫期だ。その前に去年の収穫分を消費せんとな。
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