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第一章 異世界転移、村ごと!
俺、親父から御米田家の秘密を聞く1
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数日後の夜、俺はタイのバンコクに移住していた両親が一時帰国したことを知った。両親からスマホにメッセージが来たのだ。
もなか村の神隠し事件を知り、また俺からの連絡で、もなか村ごと異世界転移した話を受けてのこと。
その日の夜、異世界転移してきて初めて、俺は元の世界からの電話を受信した。発信者は――『御米田ゲンキ』。俺の親父だ!
『ユウキ。事情は私も把握している。とにかく母さんを頼む』
低い落ち着いたバリトンの美声がちょっと途切れ途切れでスマホから聞こえてくる。
俺と同じ田舎っぺのくせに、まったく訛りのない標準語。久し振りに聞いたが親父のこれは本当に不思議で仕方がない。もなか弁をどこに置き去りにしてきたのだ。
「もちろんだ。ばあちゃんも村長も勉さんも皆、元気でやってるよ。俺もな」
『よりによってその二人も一緒か……』
親父の声はどこか思案げだった。
通信状態が安定していたので、それからしばらく俺と親父は情報交換をし合った。
そして案の定、元カノから振られたことや退職の経緯を揶揄われた。誰だ親父に垂れ込んだやつは! 両親にはばあちゃんが心配だから会社辞めたとしか言ってなかったのに!
『みどりさんだよ。お前のことをとても心配していた。早く日本に帰国しろと飛行機の手配までしてくれてね』
お社長か! ……なら仕方ねえっぺ。
あのおばちゃん、うちの親父が大好きだからな。親父を見てると過ぎ去った甘酸っぱい青春を思い出すんだそうだ。よくわからん。
『ユウキ。お前がどんな女性を選ぶにせよ私も母さんも受け入れるつもりだった。だが一つだけお願いしていたね?』
「……田舎の墓の維持と、ばあちゃんを大切にしてくれる人」
二つだが、切っても切れないことなので実質一つ。
『そうだ。東京で結婚して定住するにしても、その二つだけは必ず婚前契約書を作成しろと念押ししていたね? で、お前を振った女性はどうだったんだ?』
「……多分無理だったと思う。田舎が嫌いな女だったから。ほら、ばあちゃんちのトイレ、ボットン便所改だったろ? それ言ったらもう話聞くのも嫌だって態度された」
その頃にはばあちゃんちでは衛生的なバイオトイレもどきに改修してたし、手入れが嫌なら俺がやると言ってもダメだった。
『別に母さんの家に同居する必要はない。東京にいたままでも、定期的に母さんの様子を見に行ってくれるだけでも良かったんだ』
「……その辺の話はおいおいするつもりで……いたらプロポーズ前に捨てられたわ……」
『親の贔屓目だが、お前は私たちの自慢の息子だ。相手のお嬢さんは見る目がなかったのだね』
「そう、なのかな……」
親父の低く穏やかな声が沁みる。父親らしい思いやりのある声に、ちょっと涙が滲んできた。
十代の頃は反抗もしたが、親父に肯定されるとすごく自分の男としての自信が満たされる。こういうとこ親はずるいと思う。
もなか村の神隠し事件を知り、また俺からの連絡で、もなか村ごと異世界転移した話を受けてのこと。
その日の夜、異世界転移してきて初めて、俺は元の世界からの電話を受信した。発信者は――『御米田ゲンキ』。俺の親父だ!
『ユウキ。事情は私も把握している。とにかく母さんを頼む』
低い落ち着いたバリトンの美声がちょっと途切れ途切れでスマホから聞こえてくる。
俺と同じ田舎っぺのくせに、まったく訛りのない標準語。久し振りに聞いたが親父のこれは本当に不思議で仕方がない。もなか弁をどこに置き去りにしてきたのだ。
「もちろんだ。ばあちゃんも村長も勉さんも皆、元気でやってるよ。俺もな」
『よりによってその二人も一緒か……』
親父の声はどこか思案げだった。
通信状態が安定していたので、それからしばらく俺と親父は情報交換をし合った。
そして案の定、元カノから振られたことや退職の経緯を揶揄われた。誰だ親父に垂れ込んだやつは! 両親にはばあちゃんが心配だから会社辞めたとしか言ってなかったのに!
『みどりさんだよ。お前のことをとても心配していた。早く日本に帰国しろと飛行機の手配までしてくれてね』
お社長か! ……なら仕方ねえっぺ。
あのおばちゃん、うちの親父が大好きだからな。親父を見てると過ぎ去った甘酸っぱい青春を思い出すんだそうだ。よくわからん。
『ユウキ。お前がどんな女性を選ぶにせよ私も母さんも受け入れるつもりだった。だが一つだけお願いしていたね?』
「……田舎の墓の維持と、ばあちゃんを大切にしてくれる人」
二つだが、切っても切れないことなので実質一つ。
『そうだ。東京で結婚して定住するにしても、その二つだけは必ず婚前契約書を作成しろと念押ししていたね? で、お前を振った女性はどうだったんだ?』
「……多分無理だったと思う。田舎が嫌いな女だったから。ほら、ばあちゃんちのトイレ、ボットン便所改だったろ? それ言ったらもう話聞くのも嫌だって態度された」
その頃にはばあちゃんちでは衛生的なバイオトイレもどきに改修してたし、手入れが嫌なら俺がやると言ってもダメだった。
『別に母さんの家に同居する必要はない。東京にいたままでも、定期的に母さんの様子を見に行ってくれるだけでも良かったんだ』
「……その辺の話はおいおいするつもりで……いたらプロポーズ前に捨てられたわ……」
『親の贔屓目だが、お前は私たちの自慢の息子だ。相手のお嬢さんは見る目がなかったのだね』
「そう、なのかな……」
親父の低く穏やかな声が沁みる。父親らしい思いやりのある声に、ちょっと涙が滲んできた。
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