71 / 206
第一章 異世界転移、村ごと!
その頃、日本では~side元カノ、おまじないを思い出す
しおりを挟む
ユウキ君からのメッセージと、ブロックされたショックで泣きながら眠った翌朝。
「なにこれ……むくみが取れてないわ」
洗面所の鏡の中の自分の顔がおかしい。
どれだけ前日に酒を飲んでも二日酔いもなければ、むくみもなくスッキリしているはずなのに。
イライラしながら冷たい水で顔を洗う。朝食代わりのスムージーをブレンダーで作りながら、私は過去を思い返していた。
ユウキ君と付き合っていたとき、彼は私の思い通りだった。
正直に言うが私の初めての相手はユウキ君だ。彼自身、経験のない女性と付き合ったのが初めてだったそうで、それもあってすごく大切にしてくれたのだ。
結婚を考えてくれるようになったのは、責任を取る意味合いも多かったのではないかしら。
逆に、八十神先輩と付き合い始めてから、彼が私の思うように動くことは滅多になく、苛立ちばかりがあった。
付き合う前はわからなかったけど、彼はあまり女性を大切にするタイプではない。ユウキ君にとても大事にしてもらってたから、対照的すぎてよくわかった。
セロリとパイン、蜂蜜入りのスムージーを飲んで一息。
――パキッと大きな、何かが壊れる音がした。
確認すると、寝室のカラーボックスの上、布を敷いてお札を立てているだけの簡易神棚に飾っていた天然石が割れていた。青森の地元の山で採掘された茶水晶だ。
見事に縦に真っ二つ。
「何これ……青く光ってる……?」
割れた茶水晶を青い光が覆っていた。だがその光は私が見ている前ですぐに消えた。
後には割れた茶水晶だけが残っている。
「そうだった。私、おまじないを忘れてた」
私の実家は青森の片田舎にある。イタコで有名な恐山から車で四十分ほど離れた田舎だ。
地元の地主一族だったから生活に不自由したことはなかったけど、田舎すぎて遊びに行く場所が小規模のショッピングモールしかない。
私はそれが嫌で嫌で、親を説得して大学からは東京に上京し、以来一度も帰っていない。結婚したら夫を連れて戻るとだけ約束させられているけれど。
私の父方の叔母に、若い頃、祈祷師に弟子入りしていた霊能者がいる。
子供の頃から可愛がってくれた人で、私自身も懐いていた。
ただ、私に素質があると言って祈祷師の真似事をさせようとするのだけは辟易としていた。神棚の前で祝詞のようなものを唱えるだけなんだけど、終わった後はお取り寄せの珍しいお菓子でお茶したり、お小遣いをくれるからそれ目当てに通っていた感じ。
東京に進学する前、その叔母から縁結びのお守りを貰っていた。そう、今回割れたこの茶水晶だ。
「絶対、アゲチンの男を見つけろ」と厳命されて。
叔母は親戚の中でも羽振りの良い人だった。テレビで見る芸能人が何人も叔母を訪ねてくるほど。……祈祷師として腕が良かったのだと思う。
でもこんな天然石に効果があるなんて私は信じていなかった。
けど持ち歩くと不思議と周りの人が私に親切になるので、就職した後もバッグの内ポケットに入れたままにしていた。
だけど去年、新卒で入社してきた新人でユウキ君と同じ営業部に配属された子がいる。やる気のない子でユウキ君が部下として引き取った子だ。名前は確か鈴木君。
あるときアフターファイブの飲み会のとき、ユウキ君が鈴木君を紹介してくれたことがある。
そのときうっかり茶水晶を見られて、ボロクソにdisられた。
『うっわー。野口先輩、そういうの好きな人? パワーストーン好きの女の人って地雷率高いって本当なんスかね?』
すぐにユウキ君が彼を怒ってくれて、その話はそれっきり。
だけど私は気まずくて、それから茶水晶の持ち歩きはやめてこうして寝室に簡易神棚をしつらえて飾るようになったのだ。
「……私がユウキ君との関係を考え直すようになったの、いつからだったかしら」
その後、新橋の会社への通勤ラッシュに揺られながら思い返してみると、去年の後半だった。
会社に着いてから始業時間まで余裕があったので、カフェスペースに寄ってカフェオレを飲みながら、叔母から定期的に来る過去メールを確認してみた。
数年前、入社前後の頃のメールに答えがあった。
「…………石の効果は男一人につき一つ。しまった。八十神先輩には新しい石を使わなきゃいけなかったのね」
そこで私は閃いた。
八十神先輩なんてもう要らない。
霊能者の叔母なら、もう一度ユウキ君と復縁するための方法を知ってるんじゃないかしら?
「なにこれ……むくみが取れてないわ」
洗面所の鏡の中の自分の顔がおかしい。
どれだけ前日に酒を飲んでも二日酔いもなければ、むくみもなくスッキリしているはずなのに。
イライラしながら冷たい水で顔を洗う。朝食代わりのスムージーをブレンダーで作りながら、私は過去を思い返していた。
ユウキ君と付き合っていたとき、彼は私の思い通りだった。
正直に言うが私の初めての相手はユウキ君だ。彼自身、経験のない女性と付き合ったのが初めてだったそうで、それもあってすごく大切にしてくれたのだ。
結婚を考えてくれるようになったのは、責任を取る意味合いも多かったのではないかしら。
逆に、八十神先輩と付き合い始めてから、彼が私の思うように動くことは滅多になく、苛立ちばかりがあった。
付き合う前はわからなかったけど、彼はあまり女性を大切にするタイプではない。ユウキ君にとても大事にしてもらってたから、対照的すぎてよくわかった。
セロリとパイン、蜂蜜入りのスムージーを飲んで一息。
――パキッと大きな、何かが壊れる音がした。
確認すると、寝室のカラーボックスの上、布を敷いてお札を立てているだけの簡易神棚に飾っていた天然石が割れていた。青森の地元の山で採掘された茶水晶だ。
見事に縦に真っ二つ。
「何これ……青く光ってる……?」
割れた茶水晶を青い光が覆っていた。だがその光は私が見ている前ですぐに消えた。
後には割れた茶水晶だけが残っている。
「そうだった。私、おまじないを忘れてた」
私の実家は青森の片田舎にある。イタコで有名な恐山から車で四十分ほど離れた田舎だ。
地元の地主一族だったから生活に不自由したことはなかったけど、田舎すぎて遊びに行く場所が小規模のショッピングモールしかない。
私はそれが嫌で嫌で、親を説得して大学からは東京に上京し、以来一度も帰っていない。結婚したら夫を連れて戻るとだけ約束させられているけれど。
私の父方の叔母に、若い頃、祈祷師に弟子入りしていた霊能者がいる。
子供の頃から可愛がってくれた人で、私自身も懐いていた。
ただ、私に素質があると言って祈祷師の真似事をさせようとするのだけは辟易としていた。神棚の前で祝詞のようなものを唱えるだけなんだけど、終わった後はお取り寄せの珍しいお菓子でお茶したり、お小遣いをくれるからそれ目当てに通っていた感じ。
東京に進学する前、その叔母から縁結びのお守りを貰っていた。そう、今回割れたこの茶水晶だ。
「絶対、アゲチンの男を見つけろ」と厳命されて。
叔母は親戚の中でも羽振りの良い人だった。テレビで見る芸能人が何人も叔母を訪ねてくるほど。……祈祷師として腕が良かったのだと思う。
でもこんな天然石に効果があるなんて私は信じていなかった。
けど持ち歩くと不思議と周りの人が私に親切になるので、就職した後もバッグの内ポケットに入れたままにしていた。
だけど去年、新卒で入社してきた新人でユウキ君と同じ営業部に配属された子がいる。やる気のない子でユウキ君が部下として引き取った子だ。名前は確か鈴木君。
あるときアフターファイブの飲み会のとき、ユウキ君が鈴木君を紹介してくれたことがある。
そのときうっかり茶水晶を見られて、ボロクソにdisられた。
『うっわー。野口先輩、そういうの好きな人? パワーストーン好きの女の人って地雷率高いって本当なんスかね?』
すぐにユウキ君が彼を怒ってくれて、その話はそれっきり。
だけど私は気まずくて、それから茶水晶の持ち歩きはやめてこうして寝室に簡易神棚をしつらえて飾るようになったのだ。
「……私がユウキ君との関係を考え直すようになったの、いつからだったかしら」
その後、新橋の会社への通勤ラッシュに揺られながら思い返してみると、去年の後半だった。
会社に着いてから始業時間まで余裕があったので、カフェスペースに寄ってカフェオレを飲みながら、叔母から定期的に来る過去メールを確認してみた。
数年前、入社前後の頃のメールに答えがあった。
「…………石の効果は男一人につき一つ。しまった。八十神先輩には新しい石を使わなきゃいけなかったのね」
そこで私は閃いた。
八十神先輩なんてもう要らない。
霊能者の叔母なら、もう一度ユウキ君と復縁するための方法を知ってるんじゃないかしら?
976
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪




醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる