62 / 206
第一章 異世界転移、村ごと!
俺、子供二人とおいちいドリンク
しおりを挟む
壁時計を見るとまだ午前十時過ぎ。
「二人とも、少し休憩しないか。村の湧き水を採ってきたんだ、飲み物を用意するよ」
台所のばあちゃんに声をかけると、昼飯の準備中だったので要らないという。俺は三人分のグラスと、ボトリングしてきた湧水は飲む分を水差しに移し替え、あと冷蔵庫からとあるボトルを取り出しお盆に乗せて二人のいる居間に戻った。
「ユウキさん。それは?」
ユキりんが警戒している。思うんだが……ユキりんは元家猫の保護猫みあるな。ピナレラちゃんとばあちゃんにはとっくに態度を軟化させてるのに俺にだけシャーッと毛を逆立ててる感が半端ない。なぜ俺だけ。
しかも絶対俺を「ユキ兄ちゃん」とは呼んでくれない。一回頼んでみたらすごい嫌そうな顔で断られてしまった。美少年が俺にだけ塩対応すぎる。
やはり最初に美少女に間違えたのがあかんかったか。すまぬ。
「日本の有名な健康飲料だ。水で薄めて飲む」
白地に青い水玉模様の乳酸菌飲料のボトルだ。濃縮タイプなので水や炭酸水で薄めて飲む。
適当に白い原液をグラスに注ぎ、湧き水を注いで出来上がり。
ユキりんがやっぱり警戒していたので、まず俺が最初にグラスから一口飲んだ。甘さと酸味の絶妙なバランス。日本が誇る乳酸菌飲料だ、間違いない。
「うん、美味い」
「いただきましゅ」
好奇心旺盛な四歳児ピナレラちゃんも続いた。ぐびっと。するとただでさえ元気いっぱいのピナレラちゃんの柘榴色のお目々が輝いた。
「お、おいちい~!」
「ささ、ユキりんも」
「……いただきます」
だから毒なんて入れでねって!
恐る恐るグラスから飲んだユキりんのアメジストの目がカッと見開かれた。よし!
「おにいちゃ。これしゅごくおいちい」
「そうか。まだまだたくさんあるから、どんどん飲んでくれ」
『まだまだたくさんある』
まだ異世界転移して間もなかったが、俺はこの村に来てもう何度も口にしている。多分まだしばらくは言い続けるだろう。
「あとで男爵のところや村の人たちにもお裾分けに行かなきゃ」
「こんなに美味しい飲み物、自分たちだけでこっそり飲めばよかったんじゃないですか?」
「ユキりん。それは素人の考えだ。……田舎を舐めるな」
そこから俺は苦々しく解説した。
いくら過疎った僻村でも、田舎特有の付き合いがあるものだ。たとえばあちゃんが既に年金暮らしで、じいちゃんが生きてた頃ほど付き合いがなくても、盆暮れのお中元やお歳暮は欠かせないものだ。
そして俺たちには、もなか村だけでなく隣のもなか町にも親戚や友人知人がいた。冠婚葬祭の引き出物や香典返しでひたすら積み重なる緑茶。焼き海苔。干し椎茸や昆布などの乾物。
自分ちだけじゃ消費しきれないものは、お裾分けすることになる。自分たちからも、相手からも。その繰り返し。
ばあちゃんちの倉庫や家の押し入れの中には、そういったものが大量に押し込まれている。まずはこっちを消費しないとなあ。
こういう事情だから、ばあちゃんは味噌汁や煮物にも市販の顆粒だしは滅多に使わない。便利なのはわかってるが使ってしまうと出汁用の乾物が減らないからだ。
「この乳酸菌飲料の原液も、五本入りが毎年何箱も」
「え」
「缶入りのジュースなんかも同じく」
俺は居間の戸棚を開いた。ほらな、まだ何箱も何箱もぎっしり詰まってる。俺がまだ東京にいたときは、ばあちゃんが送ってくれてたっけ。
「おにいちゃ、もういっぱい! のみたい!」
「ははは。ユキりんは?」
「……お願いします」
そっと空になったグラスを差し出してきたユキりん。まだまだデレには程遠いが少しずつ距離が近づいているのを感じる。
ピナレラちゃんみたいにその柔らかなショコラブラウンの髪を撫で撫でさせてくれるまで、俺は頑張るっぺ!
「二人とも、少し休憩しないか。村の湧き水を採ってきたんだ、飲み物を用意するよ」
台所のばあちゃんに声をかけると、昼飯の準備中だったので要らないという。俺は三人分のグラスと、ボトリングしてきた湧水は飲む分を水差しに移し替え、あと冷蔵庫からとあるボトルを取り出しお盆に乗せて二人のいる居間に戻った。
「ユウキさん。それは?」
ユキりんが警戒している。思うんだが……ユキりんは元家猫の保護猫みあるな。ピナレラちゃんとばあちゃんにはとっくに態度を軟化させてるのに俺にだけシャーッと毛を逆立ててる感が半端ない。なぜ俺だけ。
しかも絶対俺を「ユキ兄ちゃん」とは呼んでくれない。一回頼んでみたらすごい嫌そうな顔で断られてしまった。美少年が俺にだけ塩対応すぎる。
やはり最初に美少女に間違えたのがあかんかったか。すまぬ。
「日本の有名な健康飲料だ。水で薄めて飲む」
白地に青い水玉模様の乳酸菌飲料のボトルだ。濃縮タイプなので水や炭酸水で薄めて飲む。
適当に白い原液をグラスに注ぎ、湧き水を注いで出来上がり。
ユキりんがやっぱり警戒していたので、まず俺が最初にグラスから一口飲んだ。甘さと酸味の絶妙なバランス。日本が誇る乳酸菌飲料だ、間違いない。
「うん、美味い」
「いただきましゅ」
好奇心旺盛な四歳児ピナレラちゃんも続いた。ぐびっと。するとただでさえ元気いっぱいのピナレラちゃんの柘榴色のお目々が輝いた。
「お、おいちい~!」
「ささ、ユキりんも」
「……いただきます」
だから毒なんて入れでねって!
恐る恐るグラスから飲んだユキりんのアメジストの目がカッと見開かれた。よし!
「おにいちゃ。これしゅごくおいちい」
「そうか。まだまだたくさんあるから、どんどん飲んでくれ」
『まだまだたくさんある』
まだ異世界転移して間もなかったが、俺はこの村に来てもう何度も口にしている。多分まだしばらくは言い続けるだろう。
「あとで男爵のところや村の人たちにもお裾分けに行かなきゃ」
「こんなに美味しい飲み物、自分たちだけでこっそり飲めばよかったんじゃないですか?」
「ユキりん。それは素人の考えだ。……田舎を舐めるな」
そこから俺は苦々しく解説した。
いくら過疎った僻村でも、田舎特有の付き合いがあるものだ。たとえばあちゃんが既に年金暮らしで、じいちゃんが生きてた頃ほど付き合いがなくても、盆暮れのお中元やお歳暮は欠かせないものだ。
そして俺たちには、もなか村だけでなく隣のもなか町にも親戚や友人知人がいた。冠婚葬祭の引き出物や香典返しでひたすら積み重なる緑茶。焼き海苔。干し椎茸や昆布などの乾物。
自分ちだけじゃ消費しきれないものは、お裾分けすることになる。自分たちからも、相手からも。その繰り返し。
ばあちゃんちの倉庫や家の押し入れの中には、そういったものが大量に押し込まれている。まずはこっちを消費しないとなあ。
こういう事情だから、ばあちゃんは味噌汁や煮物にも市販の顆粒だしは滅多に使わない。便利なのはわかってるが使ってしまうと出汁用の乾物が減らないからだ。
「この乳酸菌飲料の原液も、五本入りが毎年何箱も」
「え」
「缶入りのジュースなんかも同じく」
俺は居間の戸棚を開いた。ほらな、まだ何箱も何箱もぎっしり詰まってる。俺がまだ東京にいたときは、ばあちゃんが送ってくれてたっけ。
「おにいちゃ、もういっぱい! のみたい!」
「ははは。ユキりんは?」
「……お願いします」
そっと空になったグラスを差し出してきたユキりん。まだまだデレには程遠いが少しずつ距離が近づいているのを感じる。
ピナレラちゃんみたいにその柔らかなショコラブラウンの髪を撫で撫でさせてくれるまで、俺は頑張るっぺ!
953
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる