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第一章 異世界転移、村ごと!
その頃、日本では~side八十神、栄転の話が消える
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翌日、出社してすぐ、昨日接待に同行してくれた上司から呼び出された。
その足でともに社長室へ向かい、ようやく待ちに待ったコンペ優勝の賞金を頂戴する。チラッと祝儀袋の裏を見たが……金十萬円、か。シケてるもんだ。
とはいえ次はバンコク支社の立ち上げと、支社長としての赴任だ。基本給も上がるだろうし職務手当も今までとは比べ物にならないほど上がるはず。
ところが社長から告げられた言葉に、僕は耳を疑った。
「実はバンコク法人の立ち上げでトラブルがあってね……。年内の設立は難しいようなんだ。君の支社長就任と赴任はひとまず保留となった。まだしばらくは本社で今まで通りの業務を続けてくれたまえ」
どういうことだ!? もう社内にも取引先にも栄転の話を広めきっているのに!
社長室を出てマナーモードを解除するなり、僕のスマホが鳴った。
ピコン!
こんなときに誰だ、と思ったら例の御米田の元カノ、僕の今カノからのメッセージだった。
イライラしてるところにこの女の『ホナミちゃんデートしたいな?』とハート乱舞のメッセージはきつい……
「………………」
この女は既読スルーすると、その後延々とお気持ち表明の〝ホナミちゃん〟スタンプが送られてくる羽目になる。
僕が社長からコンペ賞金を貰ったことはすぐ社内に知れ渡るはずだ。
仕方ない。僕は渋々あの女にメッセージを送った。
『いま社長室でコンペ優勝の賞金を授与されたよ。今日、仕事終わったらご飯どう?』
すると速攻で返事が来た。
『先輩、なら有楽町まで少し歩いてデートしませんか? オーガニック専門レストランがいま話題なんです。美味しいお野菜たくさん食べたら先輩の疲れも吹っ飛びますよ☆』
送られてきたレストランのレビューサイトのアドレスからサイトを開いて、僕は目眩がした。
「ディナーはコースのみ、5200円から……ドリンク別……」
銀座から徒歩で行ける有楽町の立地を考えると、高すぎることはない。
だがあの女は会計時に財布を出す素振りすら見せないし、酒豪でワイン一本を自分一人で飲み干してもけろっとしている。確か青森の出身と言っていたか。
しかもワインの値段を気にして注文するなど、男の懐具合に配慮する気遣いは一切ない。どの店に行っても「おすすめをお願いします」だけだ。
そんな注文したら店は喜んで高い酒を出すだろうが!
「……きついな」
自分がハズレを引いたことにはもう気づいていた。かといって、すぐあの女を切るのを躊躇う気持ちもある。
というのも野口穂波は青森のど田舎出身だそうだが、実家が地元の名士らしいのだ。
実際、今住んでいる荒川区のマンションも親に買ってもらった分譲マンションだと本人が言っていた。
……実家の太い女を逃したくなかったのだ。
それから彼女をエスコートしながら有楽町へ向かい、インスタ映えする鮮やかな有機野菜のディナーを楽しみ。
……この女は今日ついに一人でワイン二本を飲み干した。赤白一本ずつだ。それでもほろ酔い程度でまだいけるという顔をしている。お前みたいなやつはコンビニの安ワインでも飲んでろ!
それでも僕は表面上はにこやかに穏やかに会話していた。コースとは別に追加のスイーツや食後酒を注文されてもまだ笑っていられた。
懐には賞金の十万があったし、バンコク支社への栄転もなくなったから、今すぐ引越し費用や新しいスーツを用立てる必要もない。
だから、わざわざまた有楽町から銀座に戻りたいと言う彼女にも付き合った。
しかし僕はもう限界に近い自分を感じていた。
ワイン二本を空けてなお軽やかに歩くこのアクセサリー、……まだ要るか? 何のために?
その足でともに社長室へ向かい、ようやく待ちに待ったコンペ優勝の賞金を頂戴する。チラッと祝儀袋の裏を見たが……金十萬円、か。シケてるもんだ。
とはいえ次はバンコク支社の立ち上げと、支社長としての赴任だ。基本給も上がるだろうし職務手当も今までとは比べ物にならないほど上がるはず。
ところが社長から告げられた言葉に、僕は耳を疑った。
「実はバンコク法人の立ち上げでトラブルがあってね……。年内の設立は難しいようなんだ。君の支社長就任と赴任はひとまず保留となった。まだしばらくは本社で今まで通りの業務を続けてくれたまえ」
どういうことだ!? もう社内にも取引先にも栄転の話を広めきっているのに!
社長室を出てマナーモードを解除するなり、僕のスマホが鳴った。
ピコン!
こんなときに誰だ、と思ったら例の御米田の元カノ、僕の今カノからのメッセージだった。
イライラしてるところにこの女の『ホナミちゃんデートしたいな?』とハート乱舞のメッセージはきつい……
「………………」
この女は既読スルーすると、その後延々とお気持ち表明の〝ホナミちゃん〟スタンプが送られてくる羽目になる。
僕が社長からコンペ賞金を貰ったことはすぐ社内に知れ渡るはずだ。
仕方ない。僕は渋々あの女にメッセージを送った。
『いま社長室でコンペ優勝の賞金を授与されたよ。今日、仕事終わったらご飯どう?』
すると速攻で返事が来た。
『先輩、なら有楽町まで少し歩いてデートしませんか? オーガニック専門レストランがいま話題なんです。美味しいお野菜たくさん食べたら先輩の疲れも吹っ飛びますよ☆』
送られてきたレストランのレビューサイトのアドレスからサイトを開いて、僕は目眩がした。
「ディナーはコースのみ、5200円から……ドリンク別……」
銀座から徒歩で行ける有楽町の立地を考えると、高すぎることはない。
だがあの女は会計時に財布を出す素振りすら見せないし、酒豪でワイン一本を自分一人で飲み干してもけろっとしている。確か青森の出身と言っていたか。
しかもワインの値段を気にして注文するなど、男の懐具合に配慮する気遣いは一切ない。どの店に行っても「おすすめをお願いします」だけだ。
そんな注文したら店は喜んで高い酒を出すだろうが!
「……きついな」
自分がハズレを引いたことにはもう気づいていた。かといって、すぐあの女を切るのを躊躇う気持ちもある。
というのも野口穂波は青森のど田舎出身だそうだが、実家が地元の名士らしいのだ。
実際、今住んでいる荒川区のマンションも親に買ってもらった分譲マンションだと本人が言っていた。
……実家の太い女を逃したくなかったのだ。
それから彼女をエスコートしながら有楽町へ向かい、インスタ映えする鮮やかな有機野菜のディナーを楽しみ。
……この女は今日ついに一人でワイン二本を飲み干した。赤白一本ずつだ。それでもほろ酔い程度でまだいけるという顔をしている。お前みたいなやつはコンビニの安ワインでも飲んでろ!
それでも僕は表面上はにこやかに穏やかに会話していた。コースとは別に追加のスイーツや食後酒を注文されてもまだ笑っていられた。
懐には賞金の十万があったし、バンコク支社への栄転もなくなったから、今すぐ引越し費用や新しいスーツを用立てる必要もない。
だから、わざわざまた有楽町から銀座に戻りたいと言う彼女にも付き合った。
しかし僕はもう限界に近い自分を感じていた。
ワイン二本を空けてなお軽やかに歩くこのアクセサリー、……まだ要るか? 何のために?
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