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第一章 異世界転移、村ごと!

その頃、日本では~side八十神、オッサン接待の洗礼

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「ふぅん? あんだが、あちしの可愛いユウキ君の後釜? ……フンッ、まあまあだべ!」

 なん……だ? この小汚いオッサンは!?

 東銀座の料亭で接待することになった、取引先の化粧品会社の社長は、予想に反して六十代の男性だった。
 ただの男ではない。悔しいがさすが十億単位を稼ぐ会社の社長、良いスーツを着ている。このままパーティーに出られるクオリティだ。
 だが着ている本人が最悪だ。どこをどう見ても田舎で田んぼを耕してそうな日焼けと酒焼けした赤ら顔の小太りオッサンなのだ。しかも鼻毛まで出てる。間違いようのない小汚いオッサンだった。
 それイタリアの高級ブランドじゃないか? ……白いスーツが僕には泣いて見えたよ。お前が着るなら僕にくれ。喉元まで出かかったがなんとか堪えた。

 社長の名前は米俵こめだわらみどり。
 名前の印象から、妙齢の品の良いマダムが出てくると思っていた僕の期待は裏切られた。
 チッ、米の字が入ってるところに御米田を思い出して内心僕は舌打ちした。このオッサンは元は御米田が担当していたとも聞く。

 甲高いダミ声で、長めのスポーツ刈りの頭は金髪。なのにもみあげだけが長くて先がくるんとカールしている。
 白スーツ姿といい、このまま演歌ショーにでも出るのかお前は。この鼻毛のオッサンはなんなんだ!?



 しかし僕は嫌悪感など微塵も見せずに最初から最後までにこやかな好青年を演じた。
 それに見るからに女好きそうな下品なオッサンだ。男相手ならやはり若い女や下ネタを振るのが良いだろう。

 自己紹介と名刺交換の後で、日本料理の前菜が運ばれてきた。じゅんさいか……嫌いだが口に出す愚は犯さない。
 乾杯はまず七福神ビールで。あとは各々好きな酒を。オッサン社長は東北の銘酒『最中もなか』の普通酒を注文していた。なんで普通酒? こう金回りの良い社長族はバカの一つ覚えみたいに大吟醸だと思ってたが。
 しかも『最中もなか』なんて日本酒は聞いたこともない。

「これはあちしのご先祖様の土地で作られた銘酒なんよ。代々皇室にも献上されて一般人は絶対飲めんがった。酒蔵が廃業しだがらもう飲めねっで思っでだげんど。ここさ来たらまだ一本だげ残っでる言うがら」
「………………」

 一応、何を言ってるかはわかる。だがズーズー弁ともいう東北訛りがきつい。

 オッサン社長はその『最中もなか』を、僕や同席した我が社の上司の酌を断り、手酌でぎやまんの片口から猪口に注いで、ぐびぐび飲み始めた。
 一杯くらいくれるのかと思ったら、自分一人で飲むものだから僕も上司も呆気に取られていた。社長の秘書らしき銀縁眼鏡の仕事できそうな男性秘書は「またか」と呟いていた。どうもこれがオッサン社長のいつもの態度デフォルトらしい。

「米俵社長。タイの女の子ってやっぱり可愛いですか」

 あえて軽めのテンションで聞いてみると、社長はゲハハハと笑い出した。時代劇の山賊より山賊らしい笑いだ。

「可愛いでえ~。あちしのとこの子たちなんて、片手で掴めそうなほど細腰!日本に来だらその辺で買っだシャツがみーんなブカブカだべ!」
「へえ~! そうなんですか」

 腰の細い女は僕も好みだ。御米田から奪ったあの女は着痩せタイプで中身は補正下着で加工してたから正直好みから外れている。



 そこからは懐石コースをいただきながら下ネタを振り、どうせならとタイの可愛い女の子やニューハーフの話題をいろいろ振ってみた。

 ただ、そこそこ盛り上がるが、時折オッサン社長の笑いが止まる。数秒、個室内の空気が静まるとまたゲハゲハと笑い出す。
 ……このオッサンみたいなタイプ、あまり好きじゃないな。場を自分のペースに引き摺り込むためにわざと会話のリズムを崩そうとする。
 こういう客はホスト時代、男でも女でも何人か見たことがある。癖の強い要注意人物に多かったが……

 接待は二時間ほどの予定を組んである。だが一時間過ぎたところで僕は気疲れしてしまって、それから三十分耐えたところでオッサン社長が予定があると言ってお開きになったときは正直ホッとした。


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