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第一章 異世界転移、村ごと!
俺、美少年から事情を聞く
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それから結局昼近くまでユキりんは爆睡していた。起きてきたのは四時間ちょっと後だ。
よし、今度こそ飯だ。
だが、出されたおにぎりと味噌汁、簡単な野菜の炒め物を前にユキりんは固まっていた。腹が減ってるだろうにしげしげとおにぎりを凝視して警戒している。
「このライスボール、光ってますけど……」
だ、だよな。どうもユキりんは魔力が高い体質らしく、俺と同じで食べ物の光が見えてるようだ。
男爵に聞いてみたら、平均以上の魔力値を持ってると見えやすいんだそうだ。
「お代わりもある。たんと召し上がれ」
にこにこ笑顔のばあちゃんに促され、ユキりんは「いただきます」と小声で言って恐る恐る焼き海苔で軽く包んだおにぎりに手を伸ばした。
そのまま、がぶっと形のいい白い歯でかぶりついた。途端、アメジストの目が大きく見開かれる。
……ふ。異世界美少年もばあちゃんのおにぎりに驚いておるわ。
内心で鼻高々だった俺だが、どうも美味いことだけが理由じゃなかったらしい。おにぎりの中身を見て驚いたようだ。
「これ……鮭、ですか」
「んだ。ユキリーンちゃん、好きかと思っで焼いといたんだあ」
「なんで……」
おにぎりを一口かじったままユキりんがぽろぽろと涙をこぼし始めた。なんだ? どうした? まだ子供だし鮭よりツナマヨのほうが良かったか?
しかし美少年は泣き顔も麗しい。
その後はぐいっと手の甲で涙を拭い、勢いよく食べ始めた。おお、その食いっぷりはやっぱり育ち盛りの男の子だな!
だが痩せっぽちで何ヶ月もろくな食事をもらえてなかったユキりんは、あまり量を食えなかった。
それでも鮭おにぎり二個と、用意された食事はしっかり完食していた。よかった、これなら少しずつ肋の浮いた身体も肥えてくるだろう。
ど田舎村の飯は美味い。ばあちゃんも料理人さんも飯ウマだ、期待してていいぞ。
飯を食ってユキりんが落ち着いてから、俺たちは男爵の執務室に呼ばれて話をすることになった。
部屋には男爵と薬師の部下の人。俺とユキりん、それにばあちゃん、村長、ベンさんの日本から来たもなか村民。
俺たちはまだ異世界転移してきたばかりで、この土地の事情を説明するためにもと集められたのだ。
「じゃあユキリーン君、話してもらえるかな?」
「はい。僕は元々、アケロニア王国の者です。まだ学生でしたが誘拐されて……気づいたらミルズ王国の奴隷商、ギルガモス商会に囚われていたんです」
ここで異世界の地理のかんたんな説明をしておこう。
この世界には円環大陸という、名前の通りドーナツ型の巨大大陸だけがある。
ここ、アケロニア王国は北西部を代表する国の一つだそうだ。
ど田舎村のあるど田舎領は国内の最北端にあり、かつ本土からは山と川に囲まれて飛び地になった最果てだ。本土に行くには山を越えなきゃならない。
ユキりんがいたミルズ王国は、円環大陸の西南部にある小国だった。
「アケロニアに帰還する隙を狙ってました。商品として売られることがわかってたので、できるだけアケロニアに近い国での奴隷オークションで買われる機会を伺ってたんです」
ちょうど数日前、ど田舎村の山一つ向こうの隣国に奴隷商の商団が移動したとき、好機と見て暴れまくって逃げ出してきたんだそうだ。
身体中にある鞭の跡はそのとき振るわれたものだ。だからまだほとんど新しい傷だったんだな。
「奴隷って。ふつうにあるものなんですか」
「まさか! もう何百年も前に国際法で奴隷制度は禁止されてるよ!」
やはり奴隷制度有りのハードモードな異世界かと内心嘆いた俺だったが、男爵が慌てて否定してきた。
「僕が囚われていたギルガモス商会は、闇商人でした。ミルズ王国も国際サミットへの参加拒否する無法国家なんです」
「だから奴隷商がのさばってられる国ってことか」
転移した国がそっちのミルズ王国だったらハードモード不可避だったのか……俺たち優しいアケロニア王国で良かったべ。きっと前世で良い徳を積んでたんだろう。
「呪詛のかかった魔導具の首枷のせいで、魔力を封じられてしまって。でもタイミングよくオークション前に助け出してくれた人がいて」
「……ん? どうした」
ユキりんが鮮やかなアメジストの瞳で俺を見る。
な、なんだべ? もしや過ぎ去ったロマンス復活の兆しか?
挙動不審になった俺だったが、残念ながら違うようだった。そもそもロマンスなど始まりもしてなかったっけ……
「光の剣を持った魔術師が逃げる手助けをしてくれたんです。逃げるのに必死だったからあまり覚えてないけど……黒髪と黒目で、あなたに似ていた気がする」
「そうなのか」
俺みたいないい男が他にも!?
……などと冗談を言える空気ではなく、俺は口をつぐんだ。
まあ他国なら黒髪も黒目もいるって前に男爵も言ってたしな。
にしても『光の剣を持った魔術師』と言ったか。
この世界、魔法がある異世界なんだよな。魔術師なら杖や魔道書のイメージだが。
よし、今度こそ飯だ。
だが、出されたおにぎりと味噌汁、簡単な野菜の炒め物を前にユキりんは固まっていた。腹が減ってるだろうにしげしげとおにぎりを凝視して警戒している。
「このライスボール、光ってますけど……」
だ、だよな。どうもユキりんは魔力が高い体質らしく、俺と同じで食べ物の光が見えてるようだ。
男爵に聞いてみたら、平均以上の魔力値を持ってると見えやすいんだそうだ。
「お代わりもある。たんと召し上がれ」
にこにこ笑顔のばあちゃんに促され、ユキりんは「いただきます」と小声で言って恐る恐る焼き海苔で軽く包んだおにぎりに手を伸ばした。
そのまま、がぶっと形のいい白い歯でかぶりついた。途端、アメジストの目が大きく見開かれる。
……ふ。異世界美少年もばあちゃんのおにぎりに驚いておるわ。
内心で鼻高々だった俺だが、どうも美味いことだけが理由じゃなかったらしい。おにぎりの中身を見て驚いたようだ。
「これ……鮭、ですか」
「んだ。ユキリーンちゃん、好きかと思っで焼いといたんだあ」
「なんで……」
おにぎりを一口かじったままユキりんがぽろぽろと涙をこぼし始めた。なんだ? どうした? まだ子供だし鮭よりツナマヨのほうが良かったか?
しかし美少年は泣き顔も麗しい。
その後はぐいっと手の甲で涙を拭い、勢いよく食べ始めた。おお、その食いっぷりはやっぱり育ち盛りの男の子だな!
だが痩せっぽちで何ヶ月もろくな食事をもらえてなかったユキりんは、あまり量を食えなかった。
それでも鮭おにぎり二個と、用意された食事はしっかり完食していた。よかった、これなら少しずつ肋の浮いた身体も肥えてくるだろう。
ど田舎村の飯は美味い。ばあちゃんも料理人さんも飯ウマだ、期待してていいぞ。
飯を食ってユキりんが落ち着いてから、俺たちは男爵の執務室に呼ばれて話をすることになった。
部屋には男爵と薬師の部下の人。俺とユキりん、それにばあちゃん、村長、ベンさんの日本から来たもなか村民。
俺たちはまだ異世界転移してきたばかりで、この土地の事情を説明するためにもと集められたのだ。
「じゃあユキリーン君、話してもらえるかな?」
「はい。僕は元々、アケロニア王国の者です。まだ学生でしたが誘拐されて……気づいたらミルズ王国の奴隷商、ギルガモス商会に囚われていたんです」
ここで異世界の地理のかんたんな説明をしておこう。
この世界には円環大陸という、名前の通りドーナツ型の巨大大陸だけがある。
ここ、アケロニア王国は北西部を代表する国の一つだそうだ。
ど田舎村のあるど田舎領は国内の最北端にあり、かつ本土からは山と川に囲まれて飛び地になった最果てだ。本土に行くには山を越えなきゃならない。
ユキりんがいたミルズ王国は、円環大陸の西南部にある小国だった。
「アケロニアに帰還する隙を狙ってました。商品として売られることがわかってたので、できるだけアケロニアに近い国での奴隷オークションで買われる機会を伺ってたんです」
ちょうど数日前、ど田舎村の山一つ向こうの隣国に奴隷商の商団が移動したとき、好機と見て暴れまくって逃げ出してきたんだそうだ。
身体中にある鞭の跡はそのとき振るわれたものだ。だからまだほとんど新しい傷だったんだな。
「奴隷って。ふつうにあるものなんですか」
「まさか! もう何百年も前に国際法で奴隷制度は禁止されてるよ!」
やはり奴隷制度有りのハードモードな異世界かと内心嘆いた俺だったが、男爵が慌てて否定してきた。
「僕が囚われていたギルガモス商会は、闇商人でした。ミルズ王国も国際サミットへの参加拒否する無法国家なんです」
「だから奴隷商がのさばってられる国ってことか」
転移した国がそっちのミルズ王国だったらハードモード不可避だったのか……俺たち優しいアケロニア王国で良かったべ。きっと前世で良い徳を積んでたんだろう。
「呪詛のかかった魔導具の首枷のせいで、魔力を封じられてしまって。でもタイミングよくオークション前に助け出してくれた人がいて」
「……ん? どうした」
ユキりんが鮮やかなアメジストの瞳で俺を見る。
な、なんだべ? もしや過ぎ去ったロマンス復活の兆しか?
挙動不審になった俺だったが、残念ながら違うようだった。そもそもロマンスなど始まりもしてなかったっけ……
「光の剣を持った魔術師が逃げる手助けをしてくれたんです。逃げるのに必死だったからあまり覚えてないけど……黒髪と黒目で、あなたに似ていた気がする」
「そうなのか」
俺みたいないい男が他にも!?
……などと冗談を言える空気ではなく、俺は口をつぐんだ。
まあ他国なら黒髪も黒目もいるって前に男爵も言ってたしな。
にしても『光の剣を持った魔術師』と言ったか。
この世界、魔法がある異世界なんだよな。魔術師なら杖や魔道書のイメージだが。
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