上 下
52 / 152
第一章 異世界転移、村ごと!

俺、美少年を洗う ※イラスト有り

しおりを挟む
 おっと、夜も明けて太陽も昇り始めた。
 いつまでも川縁にいるわけにはいかないので、俺は首枷のせいで体力が削られていたユキリーンを背負って、ピナレラちゃん、男爵と一緒に屋敷へ戻った。

 途中、ピナレラちゃんがユキリーンにあれこれ健気に話しかけていて、俺はもう堪らない気持ちになった。
 まだだ……まだ、うちの娘はやらぬ!

 命からがら逃げてきたと思われるユキリーンは、川に浸かってた下半身はともかく上半身は泥だらけだ。背負った俺も泥まみれ。
 それに川に浸かり続けて身体が冷え切っていた。

「ユキりん。温泉があるんだ。硫黄泉だからちょっと臭いが身体はあったまるぞ」
「あ、はい、それは大丈夫ですけど……ユキりん?」

 俺の愛称呼びに首を傾げている。可愛いだろユキりん。俺もユキちゃんだしな。

「ピナレラちゃんは俺と、この子が着れそうな着替えを持ってきてくれるかい?」
「あい!」

 指令を受けて、ピャーッとピナレラちゃんが屋敷の中へ駆けていく。男爵は「元気だねえ」と笑って俺たちに汚れを落として後からゆっくり来るよう言ってくれた。



 もなか村役場の温泉は、異世界転移してきた時点でど田舎村の源泉とつながっていた。
 どちらも硫黄泉だったので効能は変わらない。俺もユキりんも脱衣室に入る前に外で泥のついた服と靴を脱いだ。帰りに男爵の屋敷に持って洗ってもらおう。

 下着いっちょで互いに脱衣所に入ったが、……ヤバいな。ユキりん、肌真っ白……じゃなくて、その白い肌のいたるところに鞭のミミズ腫れがあって痛々しい。

「その身体じゃ熱い湯船にゃ入れないだろ。ぬるめのお湯で頭と身体洗ってな」
「……はい」

 浴場の椅子に座らせて洗うのを手伝ってやったんだが、……酷い状態だ。泥を落とす前は気づかなかったが、これ何ヶ月も風呂に入れてない状態だったろ。
 少し擦ると梳かしてなかった髪はごっそり抜けたし、肌もちょっと擦るだけで垢が出る。鞭の跡が痛そうなのでしっかり肌を磨くのは治ってからだな。

「あとで男爵に話、聞かれると思うけど。大丈夫か?」

 ぱっとユキりんの身体を見た感じ、鞭で痛めつけられた跡と首輪の跡はあっても、それ以外の暴力を受けた形跡はなかった。……良かった。
 ただ肋骨が浮いて見えるほど痩せちまっている。奴隷商から逃げてきたと言ってたか。ろくな待遇じゃなかったことがわかる。

「話せることは、話します」
「そっか。男爵のところ行けば飯も食わせてもらえるから」
「え、いや、そんな」

 ここに至って遠慮を見せたユキりんだが、ご飯と聞いて薄い腹が「くぅ~」と鳴いた。腹の虫は正直だな。

「最後に飯食ったのはいつ?」
「一日ちょっと前です。その前も大して食事は貰えてなくて……」

 ならパンやご飯より、ばあちゃんに頼んでお粥でも作ってもらうか。
 あれこれ話しながら浴場から脱衣所に戻ってくると。

「おきがえ、もってきまちた! ……キャッ」

 ちょうどピナレラちゃんが戻ってきたところだった。
 タオルは持ってたがフルチンの俺とユキりんを見て、……いや俺はスルーされてユキりんだけを見て照れたピナレラちゃんは、そのまま恥ずかしがって外に出て行ってしまった。すまぬ、見苦しいものを見せてしまった……
 この時点で俺はもうピナレラちゃんに男扱いされてない。いやされても困るんだが、つらい。

 と思ったらまた戻ってきて、そそくさと俺に着替えを渡して、チラッチラッとユキりんを見ながら温泉小屋を出て行った。

「……とりあえず着替えようか」
「……そうですね」

 俺はTシャツとジーンズ、ユキりんには白の綿シャツと同じく綿のカーキ色のズボン。ちゃんと下着も入っていた。男爵が手配してくれた物のようだ。



「ユキちゃん、お帰りなさい。ご飯はもうちょっと待ってな?」

 男爵の屋敷に戻るとばあちゃんたちが出迎えてくれた。
 時刻は朝の六時を少し過ぎたところ。屋敷の中には米の炊ける匂いが漂い始めている。朝は新しくまた炊いたようだ。

 俺たちは食堂のテーブルについて、食事ができるまで待つことにした。

「ばあちゃん、こっちは」
「ユキリーンと申します」
「あんら男の子なのにめんこいなあ。私は御米田空。孫のユウキとよろしくねえ」

 飯が炊けるまでの間にユキりんとばあちゃん、村長や勉さん、男爵や屋敷の人たちとも自己紹介し合っていた。
 皆、ユキりんの美少年ぷりに驚いている。
 そう、俺が美少女に間違えたユキりんは、温泉で洗って男物のシャツを着たらちゃんと年頃の男の子に見えるようになった。
 しかし可愛い顔はそのままだ。ばあちゃんは品のいいご婦人に見えてアイドル好きのミーハーなので喜んでいる。

 だが話は後だ。隣国の奴隷商から一晩かけて嵐の中を逃げてきたユキりんは、もう体力が限界だった。飯ができるまで意識が持ちそうにない。
 俺はばあちゃんちから持ってきた荷物の中から粉のスポーツ飲料のもとを取り出して、汲み置きのど田舎村の湧き水に溶かしてユキりんにグラスを渡した。

 むう……やはりスポドリが薄っすら光っている。これは水に秘密があるの確定だな。
 ユキりんにもその光が見えているようで驚いていたが、まずは飲めと促した。

「大丈夫、水分補給のためのジュースだ。それ飲んで一眠りしろ、そんで起きたら飯だ。ちゃんと君の分も残しておくから」
「はい……」

 日本のスポドリは甘さと酸味のバランスが良くて飲みやすい。やっぱり喉も乾いていたようで、一気に飲み干してすぐユキりんは椅子に座ったまま寝落ちした。
 男爵が談話室にソファがあるというので、横抱きして数時間寝かせておくことにした。

 うーん。寝顔も可愛い。
 俺は一ミリも展開しなかったロマンスの名残りを惜しみながら、顔にかかったユキりんのショコラブラウンの前髪を払ってやったのだった。







NEXT→ユキリーンが逃げてきた奴隷商とは?

幼女 > ロマンス













ユキりんもAI作成した

めんこい幼女と訳アリ美少年。……育てなきゃ(御米田謎の使命感)

しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

処理中です...