21 / 206
第一章 異世界転移、村ごと!
俺、ばあちゃんちで幼女とチョコ食べる ※おいちい回
しおりを挟むアイスを楽しんだ後は、村役場のカートを借りてピナレラちゃんを乗せてばあちゃんちに向かった。
俺がゴールデンウィークに帰省したときスーツケースを運ぶのに使ったのと同じタイプのアルミ製のやつだ。
「わあ! はやいはやい、おにいちゃはやい! もっと! もっとー!」
ど田舎村にも農産物を運ぶ鉄や合金性のカートはあるようだが、日本で使ってたカゴ型カートにピナレラちゃんはテンション上がりまくりだった。
は、走るよ……お兄ちゃんは走る……!
ばあちゃんちの敷地まではふつうに徒歩で十五分。アスファルトの道路があるのでそこまではスムーズにすいーっと進み。
日頃から運動は欠かさなかったが、さすがにずっと全力疾走でカートを押し続けて息が切れた。ち、ちょっとタイム、タイム……! 足がガクガクしてきた! というところでばあちゃんちが見えてきて安堵する。
敷地に入ると砂利や土があってガタゴト振動がきつくなるので、ピナレラちゃんにカートから降りてもらって家まで歩いた。
「ただいまあ」
「おじゃましますなのだー」
アルミ枠にすりガラスの引き戸を開けて中に入る。
うん、この世界に来る前、俺が村役場に出勤した朝と何も変わっていない。
家の中もやはり電気がついた。ばあちゃんちも村の補助金で太陽光発電の自家発電システムが入っている。アンペア数は低いので電子レンジやエアコン、ドライヤーなどは使えないが、家の中の電球や蛍光灯、冷蔵庫を維持する程度なら問題ない。
5LDKの部屋それぞれと室内の押入れや収納庫もぜんぶ見て回ったが異常なし。
最後に台所で水道を捻ると、――水が出た。透明だ。泥で濁ったりもしていない。
恐る恐るコップに注いで一口、口に含む。……いつも飲んでるもなか村の味ではなかった。しかしうまい。これで緑茶を淹れたら絶品間違いなしだ。ということは、ど田舎村の自然水ということか。
「もなか村の水源と、この土地の水源が繋がったんかな……?」
まだ断定はできないが、そう間違った想像でもなさそうだった。
ピナレラちゃんは借りてきた猫のように静かだ。いや興味深そうに台所の棚の中や壁などを見回して、しげしげと見つめている。
そんなピナレラちゃんを見て、いたずら心が芽生えた。……いや、変な意味じゃなくて。ないからな!?
食器棚の下部分、収納庫になってるところには乾物や買い置きの菓子が入っている。その中に俺が東京の会社を辞めたとき、社内の女性陣がくれた餞別のチョコレートが透明ビニール袋にぎっしり入って二袋入っていた。一袋だけ開けてあったがそれもまだ半分以上残っている。
スイスの有名チョコレートである。
俺とばあちゃんがチョコレート好きだと覚えていた人が社内にいたようで、俺が退職すると知って、餞別のカンパを募って何袋も大袋でプレゼントしてくれたのだ。
退職届を出して有給消化中でアパートを引き払う準備をしていたところに、元上司がどっさり五袋分持ってきてくれて、驚いたの何の。
村役場の人たちに三袋分をお裾分けして、二袋分は自分ち用にストックしてあったものだ。
毎日少しずつ楽しんでいたが俺とばあちゃんだけで食い切るにはまだまだ時間がかかる。
「ピナレラちゃん。これ好きなの一個どうぞ」
食卓の上にチョコレートのカラフルで丸い包みを五個のせた。さっきもアイスを食べたばかりだし、まずはお一つ。
「んーとねえ。……これ!」
ピナレラちゃんが選んだのは自分の髪色と同じキャラメルブラウンの包み。包装紙の開け方を教えてやって、そのまま食べてみてと促す。
大きく口を開けてキャラメル味のチョコレートをもぐもぐするピナレラちゃんは……一瞬固まった後、派手に顔を蕩けさせていた。
「おいちい……おいちいい……」
それを見て満足した俺は赤い包みを取る。これはミルクチョコレートだったかな。……うん、安定の海外の高級チョコレート。あまい。うま!
もう一個ぐらい食べさせてもいいかなと思ったが、まだ小さい子にカロリーの高いチョコばかりは考えものだ。
まだ百個以上残ってるなあ~。
「これ、男爵さんとこ差し入れておくから。あとは明日以降に皆で少しずつ食べよう?」
「ほんと? うれちい!」
あとは倉庫から大型のクーラーボックスを持ってきて、ピナレラちゃんにお手伝いしてもらいながら業務用のゴツい保冷剤と一緒に冷蔵庫の中身を詰め込んでいった。
発電機だっていつ壊れるかわからないから、賞味期限の近いものから男爵家やど田舎村の人たちと一緒に消費してしまおうとばあちゃんに言われていたのだ。
冷蔵庫はスーパーもない田舎の民家だから一般家庭用よりずっとデカい。こりゃあと何回か往復しないとな……数日かかるか。
村長と勉さんも、もう年だ。この距離を車なしの徒歩往復はきついだろう。必然的に運搬役は俺がやらなきゃ。
1,158
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています


醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる