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第一章 異世界転移、村ごと!
その頃、日本では~side元カノ1-2 ※ざまぁフラグ
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「穂波、あのお店のアクセサリー嫌いだったの? よくピアス着けてるじゃん」
ゴールデンウィークも終わってしばらく経った頃、社内で仲の良い女の子たちと会社帰りに東銀座のビストロに寄っていた。
ここはワインの種類が豊富で価格もリーズナブルなので通いやすい。イタリア直輸入のハードチーズはここでしか食べられないものもある。私はここのオリジナルのオリーブの浅漬けが大好きでよく通っていた。
話題の中心はユウキ君と別れて八十神先輩と付き合い始めた私のこと。
「嫌いじゃないわ。初めてアルバイトして最初のお給料で買ったのだってそのお店のだったもの。でもね、でもね……あそこのジュエリーなら自分でも買えるわ! 私、プロポーズは絶対、銀座の高級ブランドの指輪でしてもらうって決めてたのに彼が買ったのは何ランクも下の店だったのよ!」
「「「ああ~……」」」
わかる、と友人たちは呟いた。
「なんか、この人とのみみっちい将来が見えちゃった気がして、冷めちゃったのよね」
「これはユウキ君が悪いかな(笑)」
概ね友人たちは私に同情的だったのでちょっとホッとした。自分勝手に別れた罪悪感がないわけじゃないから。
「ちょっと穂波ぃ。ユウキ君フッたのもったいなくない? 要らないならアタシ欲しかったあ~」
別の友人が言う。おじさん受けのいいコンサバファッションと長いウェーブヘアの同僚だ。
そういえばこの人ユウキ君を狙ってたんだっけ……
少しだけ胸の奥でイラッとした気持ちがモヤっとした。
「いつの間にか会社も辞めてたみたい。故郷に帰ったみたいだけど」
「連絡先教えてよ」
「メッセージアプリのアドレスで良ければ。でもあの人知らない人からのコンタクト受け取らない設定だったはずよ?」
「ダメ元で試してみる!」
そういえば別れ話を切り出したあれ以来、一度もユウキ君からの連絡はなかったな……
それから仕事の愚痴や社内の噂話でひとしきり盛り上がって、お開きになった。
店を出てふわふわとワインで酔って気持ち良い気分のままスマホを見る。……八十神先輩からのメッセージは一通も入っていなかった。美味しいワインとおつまみで上がった気分が一気に下がる。
コンペに優勝して忙しいと聞いてたけど……メッセージには既読も付いていない。
乗り換えた新しい恋人は元カレのユウキ君とは見た目の系統も雰囲気も、性格も行動パターンも何もかも違った。
ユウキ君だったら向こうから朝はおはよう、昼は誘い、おやつの時間はカフェスペースで待ち合わせのお伺い、退勤少し前にはアフターファイブの予定確認。ギリギリうざいと感じない程度のメッセージが必ず入っていたのに。
夜は寝る前に数分でも通話で話していたし……あの人すごいマメだったから。
「私……間違ってなんか、ないよね?」
まだ八十神先輩とは付き合い始めたばかりだけど、私は焦りを感じていた。
実はゴールデンウィーク中、一緒にデートに出かけた先で結婚のことをほんの少しだけ匂わせてみたのだけど、上手くかわされてしまったのだ。
……先輩、私がユウキ君からプロポーズされかけたこと知ってるはずなのに。
それどころか交際を始めたはずなのに、仕事を理由にしてアフターファイブに食事や飲みを断られることが続いていた。だから今日もビストロには同僚たちと来たのだ。
なのに彼の都合のいいときだけ呼び出されて、仕事の取引相手との接待に駆り出されて私はビックリした。見たくもない油ぎった社長さんに、したくもないお酌をさせられたり。
もちろんその後すごく謝られて感謝もされるんだけど、微妙な気分はいつまでも燻っていた。
「……先輩のお部屋に遊びに行きたいって言っても、やんわり断られたし……」
なら自分のマンションにと誘っても、苦笑いで遠慮されてしまった。「君を大切にしたいから」って。
「どういうことなの……?」
私の選択は間違っていないはずだ。
結局、社内コンペだって優勝したのは八十神先輩だったし、彼はこの後、海外支社への栄転が約束されている。いま社内で出世ルートの先頭に立っている人だ。
彼と一、二年恋人関係を楽しんで、程々のところで結婚する。
彼がバンコクに行くなら私も一緒について行ってもいい。東京で世田谷区や港区みたいな富裕層の多い街にも憧れてたけど、向こうで駐在するならメイドのいる楽な生活ができるし。総合商社の支社長の駐妻ならステイタスとして悪くないわ。
そんな人生計画を想像しながら、私はふわふわした気分のままマンションに帰った。
大学進学のとき上京して、青森の両親が買ってくれた荒川区の駅近マンションのワンルームだ。
立地や治安は良かったけど建物が古くて、五階建ての四階にある私の部屋までエレベーターはなく階段を使うしかない。こんなマンションとも早くおさらばしたかった。
このときの私は自分の未来が輝いてるとばかり思ってたけど、先行きが暗いことを思い知らされるのはそれから間もなくのことだった。
まさか、まさかユウキ君があんなことになるだなんて……
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