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第一章 異世界転移、村ごと!

その頃、日本では~side八十神1-2 ※ざまぁフラグ

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 そこから僕の行動は早かった。慎重に御米田の周囲を探り始めたのだ。

 あいつは営業マンだから留守にすることが多いし、営業部は雑然として人の出入りの多い場所だから僕が入っても不審に思われることがないのが幸いだった。

 あるとき、御米田のデスク上にファイルフォルダを見つけた。パソコン内のではない、リアルのフォルダだ。
 表面に大小様々なカラフルな付箋が貼ってあって、あいつが考えたコンペ用の企画アイデアがびっしり書き込んであった。
 それをざっと眺めて、素早く覚えられるだけ覚えてから、そのときはすぐに営業部を出た。
 後で内容を思い出してまた打ちのめされた。そのアイデアは僕が考えていた企画よりはるかに優れていたから。

 それからコンペ開催まで何度も盗み見しに行った。
 いやこいつ、いい加減ファイルフォルダを鍵付き引き出しの中にしまえよ! と突っ込みたくなるぐらい普通にデスク上に置いてあるのが悪い。
 付箋やメモの走り書きはどんどん内容が良くなっていた。あいつはこういうブレーンストーミングをやるタイプらしい。

 恐らく今回のコンペは御米田が勝つだろう。
 僕は自分のその予測に恐怖を感じた。
 社内コンペで優勝すると、賞金と栄転だ。御米田が優勝してバンコク支社長になる? 同い年の二十八のあいつが?
 そうなったら残された僕はどうなる? 我が社で〝支社長〟は部長より上の職位だ。僕は企画部では係長だったが支社長になるにはまだ上には課長、次長、部長がいる。時短のために今回のコンペ優勝の昇進ショートカットは絶対に外せなかった。



 だから魔がさしたのだ。

 コンペ前日。
 御米田が退社し、営業部からも人がいなくなったことを確認した僕は、あいつのデスクのノートパソコンを立ち上げてあいつのIDとパスワードでログインした。
 というかあの男、IDもパスワードもメモしてデスクの透明マットの間にふつうに入れてあった。僕が言えたことじゃないがセキュリティの危機管理意識なさすぎだろう!?
 ともあれ僕は御米田が作成し終わっていた企画書データを自分のスマホにコピーし、

 ――元データは削除した。

 赤羽の自宅に戻ってノートパソコンで御米田の企画書データを確認した。
 ……御米田は表計算ソフトの使い手だった。表計算サムライとでも言おうか。テキスト主体の書類作成ソフトやプレゼンテーション用のソフトで作るような書類でも平気で楽々、表計算ソフトで作り込む人間のことだ。

「チッ。何でもかんでも表計算ソフトで作りやがる。これだから融通のきかない理系野郎は!」

 僕の企画部では書類は指定の書類作成ソフトで作るよう部署の規格が決まっていた。
 さてこの企画書をどうするか?
 このまま僕の企画に転用したら盗用がすぐバレる。かといってコンペはもう明日に迫っている。時間がない。

 僕はその表計算ソフトで作られた企画書をPDFに変換して、最近話題のAIサービスに読み込ませた。
 サブスク利用をし始めたばかりで慣れていなかったが、AIサービスは書類データを読み込んだり、イラストを作成したりもできる。
 そしてAIにつたない作成指示を出した。このAIへの指示文章をプロンプトという。


《ここから》

#作成指示
あなたは日本の総合商社の優秀な企画部社員です。
読み込んだPDFを元にして、昇進のかかった重要な社内コンペで優勝できる最高の企画を作ってください。
PDF内の文章量を三倍に増やしてください。
企画はわかりやすい章立てにしてください。
1セクションごとに200文字でまとめてください。
200文字ごとに各セクションを表すビジネスシーンの写真イラストを作ってください。

#注意事項
文章は小学生でもわかるシンプルな言い回しにしてください。

《ここまで》


 そして最後に一番重要な指示を書いた。

『PDF内の文章はすべて言い回しを変更してください。』

 これで、御米田が書いた企画は別人が書いた別物になる。

 後から思えば僕も余裕がなかった。本当なら一度英語に翻訳してから指示すれば良かったとか、もっと洗練されたプロンプトが書けただろうにとか。
 だがAIが出力してくれた『僕の企画書』はそれなりによくできていた。修正もほとんど要らなかったぐらいで。

 そこからは、元々プレゼンで使う予定だったタブレット端末用に出力されたテキストと画像、表などをプレゼン用のスライドファイルに作り込んでいった。
 途中、必要と思われる追加の参考資料もAI任せだ。
 そうして水増ししまくっていくと、予想通り御米田が作った元データよりはるかに立派なものに仕上がった。

 翌日、コンペは御米田がプレゼン辞退で僕の優秀となった。
 その日のうちにあいつと別れてきた女と銀座のステーキ屋で開けた祝杯のシャンパンの美味かったことと言ったら!



 その後はすぐゴールデンウィークに突入して、御米田の元カノ穂波と東京近郊を連日デートしていた。あえて御米田のことは意識しないようにして。

 大型連休が終わると、御米田は噂によれば田舎への帰省から戻ってきてすぐ退職手続きを出し、そのまま有給消化で退職したという話だった。
 コンペで僕に負けたダメージを引きずってるのは明らかだ。

「ははっ、ザマァないなあ御米田!」

 社内のカフェスペースでコーヒーの紙コップ片手に、高笑いを堪えるので必死だった。

 さて、新しい彼女と次はどこに行くか。ファミレスやチェーンのカフェは嫌だと言って高くつく女だが、見映えするからどこに出かけても気分がいい。
 自由が丘のパンケーキ屋か、原宿に世界一の朝食も有りか……




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