14 / 206
第一章 異世界転移、村ごと!
俺、異世界初のメシはミネストローネ
しおりを挟む「ここ、本土から離れた飛び地でねえ。人も少ないし、しょっちゅう災害や他国からの侵攻で地名が変わってたんだよね」
俺が転移したアルトレイ第一村はアケロニア王国の北部にあるそうだ。
そんで男爵のモーリスさんから聞いた説明は嘘のような本当だった。
「もう僻地っていうか最果て化してて。そのたびにアルトレイ公領ですって訂正するのが面倒になって、自棄になった何代か前の領主が〝ど田舎領〟や〝ど田舎村〟を別称で国に登録しちゃったんだよね」
「そいつは……起こしちゃいけない自棄っぱちでしたね……」
それ別称じゃなくて蔑称だろ。なんともコメントに困る話だった。言ってる男爵本人も微妙そうな顔をしている。
「一応、元は王族が治める王家の直轄地だったんだよ。でも今はもういないから荒れ放題でねえ」
「え。それ大丈夫なんですか、言いにくいけど国から見捨てられたとかそういう……?」
「それは大丈夫。ちゃんと僻地なりに支援や援助はされてるから。でもやっぱり公領なのに王族が統治してないとね。いろいろと弱いよね」
聞くところによると、百年ほど前までは王様の兄弟姉妹の誰かが大公となって赴任して、問題なく治められていたそうな。
ところがあるとき、大公様の後継ぎが行方不明になった。それ以降、王族の親戚が何人も消息不明となり誰一人として戻ってこなかったのだという。
「それから王族が寄りつかない地域になっちゃって。たまに王都から視察に来るのも官僚ばっかりで」
なるほど、支援はされてるが基本、中央からは距離を置かれてる感じか。
この〝ど田舎村〟で俺が倒れて発見されたのは昨日の早朝だったそうだ。
それから丸一日以上寝てて、今は昼を過ぎた頃だという。確かに腹が減っている……
男爵やばあちゃんたちは昼飯を済ませた後だというので、俺はそのまま屋敷の食堂に案内されてスープを分けてもらった。
玉ねぎやじゃがいも、いんげんやズッキーニなどを細かく切ってオリーブオイルで炒めたトマトベースのスープだ。ショートパスタも少し入ってる。ミネストローネだな。
上には粉チーズが少し。スープボウルもスプーンも温かみのある木製だった。木のさじでまずはスープだけを一口。途端に口の中に広がる野菜のほんのり甘い旨味。い、癒される……!
あれ、この味は。
「んだ。ばあちゃんがお手伝いさせてもらったんだべ。お野菜はここで採れたもんだあ」
普段は和食中心のばあちゃんだが、料理好きなので本や雑誌、最近ではネットからのレシピも難なく作ってしまう。
ミネストローネはイタリアのマンマの料理だという。新鮮な野菜を使って丁寧に野菜を炒めて作ると出汁やベーコンなどの肉も要らないんだと昔言ってた覚えがある。決して冷蔵庫の余り野菜の処理メニューにしてはいけない。やはり素材は大切なのだ。
野菜とパスタだけだから一日寝てた俺の胃にも優しい。
ばあちゃんの思いやりにじーんときていると、同じテーブルでお茶を飲んでいた男爵が説明の続きを話してくれた。
「異世界からの転生や転移はたまにあるんだよ。異世界人が出現したらその土地の領主は最低限の身の安全と生活を保障することって決まりもある」
よ、良かった! 優しいほうの異世界転移パターンだ!
見た感じ、ど田舎村ももなか村と張るレベルの僻村、限界集落ぽいのでスローライフパターンは無理かもと思っていたのだ。
異世界転生や転移への理解がある世界というのは強い。
ところで他の異世界からの来訪者たちはどうなったかと聞いてみると。
「王家の保養地に異世界からの来訪者たちが作った集落があってね。発見されるたびそちらに向かうよう勧めて手配するんだけど、ちょっと遠いんだよね」
「どのくらい遠いんです?」
「まず、飛び地のど田舎村から出るのに三日はかかる。隣のシルドット侯爵領から馬車……はまだこの国の戸籍がない君たちは使えないから徒歩だと何ヶ月かかることやら……」
それに男爵によると俺たちは異世界人というほかに、いくつかの懸念事項があるという。
「ユウキ君。君みたいな黒い髪と目の人間は、この国だと王族しかいないんだ。他国に行けば別々ならいるんだけどね」
「へ?」
「多分君、そのままこの〝ど田舎領〟を出たら大騒ぎになると思う」
「と言われましても」
黒髪黒目は実は日本人の特徴ではない。普通は濃淡様々な茶色の瞳が多いからだ。
もなか村で黒髪黒目は俺たち御米田家の特徴だ。ばあちゃんはもう白髪なので目だけが黒い。俺はまだ三十前で髪も黒々、目はばあちゃんや親父からの遺伝で真っ黒。
あとは従兄弟が一人、黒髪黒目だったが……そいつはもう十年以上前に事故で亡くなったので今はいないのだ。
「まあその辺はゆっくり考えていこう」
男爵がうまいこと話をまとめてくれた。ちょうど俺もスープを食い終えた。
腹もそこそこ膨れて気持ちも落ち着いたところで、あることに気づいた。
「あれ? ばあちゃん、もなか村の他の人たちはどげんしたとね?」
1,129
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる