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第一章 異世界転移、村ごと!
俺、もなか村を語る
しおりを挟むもなか村は東北某県にある僻地の村だ。
奥の細道で有名な松尾芭蕉が通ったか通らなかったかという微妙な位置にある。通ってくれてたら俳句の一句ぐらい残って観光の目玉になってただろうに。『さみだれを 集めて深し もなか川』とかさ。
山もあり、川もあり、田んぼも畑もありと、世間様が想像する〝のどかな田舎〟を八割り増し寂れさせた感じだ。
数年に一回は、テレビの僻地のおうち紹介番組の取材の打診が来るといえばおわかりだろうか。
住民のルーツは古く、源平合戦より前から続く家がいくつもあると言われていて、俺の亡くなったじいちゃん側の祖先もそっち系だ。
古事記や日本書紀ほど古い家系との噂もある。村の図書館の閉架図書を探せば古文書もあるらしい。
神隠し伝説の小さな祠があって、年に何回か祭をやるため住人たちが集まる。文化的にはそのぐらい。
東北だけあって米どころだ。
古くから米作りと酒造りで有名で、酒は戦後しばらくまでは皇室や全国の有名神社や寺院に献上していたほどの銘品だったそうだ。
ところが昭和の高度経済成長期のとき、村を囲む山々の一つを、持ち主だった村民が外資に売却しゴルフ場ができる。
ゴルフ場から垂れ流される芝用の除草剤で、酒造りの水源だった湧水が汚染され、もなか村の産業は大打撃を受けた。
以来、もなか村は細々と米を始めとした農業だけが生き残っている。俺のばあちゃんもそのひとりだ。
バブルが弾けてしばらくは持ち堪えていたものの、俺が生まれて従兄弟たちが夏休みや冬休みの親の帰省の里帰りで遊びに来てた子供の頃まではマシだったのだが……
住民の数は年々減少してついに十数年前、限界集落の認定を受けてしまった。
その後の平成不況でゴルフ場は潰れ、山は村が管理することになり湧水汚染も改善された。
しかし流出した住民たちが戻ってくることはなかったのである。……辛いな。
もなか村の役場では、ランチは近所の農家のおばちゃんが職員用に売りに来る。手作り弁当、一食二百円。
俺はばあちゃんに弁当を持たせてもらっても良かったのだが、弁当代に村から補助金が出てるそうであえて毎日弁当を買うことにしている。
「東京なら八百円ぐらいしそうな弁当だよなあ」
プラスチックの弁当容器の半分に米。その上に日替わりで梅干しとごま塩、昆布煮、おかかと海苔など。
残り半分のおかずスペースには地元で採れた野菜の煮付けや、肉や魚の主菜。
揚げ物はさすがに冷凍ものが多いが不満を感じたことはない。あと必ず何かしら漬物が入って完璧。今日は大根の甘辛いやつ。
まあとにかく米が旨い。もなか村の〝ささみやび〟だ。米をおかずに米が食えるレベルの米。
若者の特権で毎日必ず大盛り指定させてもらって、もりもり食っている。たまにはパンが食いたいなとか思いもしないほど旨い。
「ユウキ君。お茶どう?」
「あっ、いただきます!」
俺は村長の口利きで雇われたバイトで、もなか村役場では総務課の所属となっている。
年配の女性総務課長とあと一人しかいなかったところに若い俺が入って主戦力の何でも屋となった。
これだけ人数が少ないと、公務員とバイト、ご年配と若輩者といった差別もないに等しい。人柄の良い総務課長からお茶の湯のみを受け取り、歓談しながら弁当を楽しんだ。
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