3 / 151
第一章 異世界転移、村ごと!
俺、彼女に振られる
しおりを挟むその後、営業部に戻ると先に戻っていた上司から「もう今日は帰っていいよ」と野良犬でも追い払うような仕草で言われ、居た堪れない気持ちで退社した。
落ち込んだ気分のまま、スマホで同じ会社に勤めてる彼女にアプリからメッセージを送った。
元々今日はゴールデンウィークの予定を聞きたかったのもあった。
……本当ならコンペ優勝したぜって堂々と賞金で旅行に誘いたかったんだが……
愚痴を聞いてもらうしかない。
だが、会社のある新橋からの帰り道、いつも使う彼女お気に入りの銀座の洒落たカフェで、更なる試練が俺を襲った。
「コンペの話聞いたよ、ユウキ君。残念だったね」
「あ、ああ。だが聞いて欲しいんだ穂波。あの八十神の野郎が」
俺の企画をパクったんだ、と言おうとしたところで。
「そのことなんだけど。ユウキ君、ごめん。別れてほしいの」
女性向けの高級ブランド風の襟のないツイードのピンクのジャケットスーツを着た彼女、穂波は今日も可愛かった。内巻きにした艶のある焦茶に染めたショートボブのヘアスタイルがよく似合ってる。
何より青森出身の彼女は色白で巨乳だ。そこが良い。
その彼女の口から、まさかの。まさかの別れの言葉が!?
しん、とカフェ店内が静まり返った。流行りのJ-POPだけが流れている。
うぐ。周りの客たちが皆、こちらに聞き耳を立ててるじゃないか。
「実はね。この前、八十神さんから私、告白されて」
「まさか俺とあいつで二股かけてたのか!?」
「違うわ! 私そんなふしだらな女じゃない!」
「だ、だよな」
と胸を撫で下ろすのはまだ早かった。
「でも私、ずっと八十神さんに憧れてて……。あの人仕事もできるしいつも髪も決まってるしメンズブランドのセカンドバッグ持ってるとこお洒落だなって。今回ついにコンペで優勝もしたって聞いて、私……お付き合いしたいと思ったの。だからごめんなさい。私と別れてください」
言って穂波が深々と頭を下げた。
「嘘……だよな?」
「ううん。本当。八十神さんにはユウキ君と別れてからお返事しますって言ってあるの。だからちゃんとあなたとキレイに別れたい。あなたには悪いと思うけど筋を通したいの」
「筋、か……まあ、そうだよな……」
正直、俺の穂波は可愛い。俺の三つ下の二十五歳、ちょっとセレブ生活に憧れすぎなのが玉に瑕なぐらいで、社内でも狙ってた男が多いのは知っていた。
だからめちゃくちゃ男どもを牽制して守ってたのに、よりによってあの八十神か! あのスカしたイケメン野郎か! どこが良かったんだ、やはりあの生意気なブランドスーツか……!
「……わかった。でも八十神は」
「ありがとう! じゃあこの後、八十神さんと待ち合わせしてるのでもう行くね!」
「え、ちょ、穂波!」
呆気に取られる俺に構わず、ブランド物のバッグを持って穂波はそのままカフェを出て行った。
テーブルの上には広げたままのメニューが。――俺たちはまだコーヒーの注文すらしていなかったのだ。
穂波を引き留めようと伸ばした俺の腕も空振りして、行き場を失った。
店内の他の客たちや店員も微妙そうな顔でこちらに注目していた。
銀座の路面店だから店内は客席が詰めてあって、会話は周りに筒抜け。もう、俺は穴があったら入りたい気分だった。
流れていたJ-POPもちょうど曲の切れ目だった。
俺たちカップルの破局を目の当たりにして、しーんと静まり返っていた店内に少しずつ他の客たちの雑談が戻ってきたところで。
次に流れてきたJ-POPがヤバかった。
なんで。
なんで。
『夢オチだったら良かったよね』的な歌詞で始まるメランコリックな曲が流れるかなーーーーー!!
ざわ、と店内が騒然とした。
そうだ、数年前にヒットチャート一位を独占して話題になったドラマの主題歌だ。俺のスマホにだってダウンロードして入っている!
ほんと夢だったら良かったな……現実だよこんちくしょう……!
俺は彼女に振られて青ざめるやら、空気を読んだかのような曲のタイミングの良さに恥ずかしくなるやらでパニックに陥った。
これはダメだ。本当にいかん。
なんかこう男の沽券とかプライドとか自尊心とかそんな感じのものが木っ端微塵だ。
無言で席を立った。お冷やを先に持って来てくれてた店員と目が合う。気の毒そうな顔で小さく頷いてくれた。申し訳ないが店を出よう。
「……えっ?」
とそこへスーツの腕を掴んでくる手があった。
そんなに強い力じゃない。隣の席に座ってた品の良い初老のマダムだ。
「あ、あの?」
「気を落とさないでね。あなた、いい男だからすぐ次が見つかるわよ」
言って、マダムが手の中に何かを握らせてくれた。
恐る恐る手を開いてみると、そこにはこのカフェ――この店はショコラティエ併設のカフェなのだ――のトリュフチョコレートの包みが一つ。
「………………っ。ありがとう、ございます……!」
ここのショコラは無茶苦茶にお高いのだ。このトリュフだって一粒ワンコイン以上する。
俺は銀座マダムの思いやりに涙を滲ませながら、カフェを後にした――。
1,024
お気に入りに追加
2,415
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
クラス転移でハズレ職を押し付けられた『ガチャテイマー』、実は異世界最強 〜俺だけ同じ魔物を合成して超進化できる〜
蒼月浩二
ファンタジー
突然高校のクラス丸ごと異世界に召喚され、一人に一つ職業が与えられた。クラス会議の結果、旭川和也はハズレ職である『ガチャテイマー』を押し付けられてしまう。
当初は皆で協力して困難を乗り越えようとしていたクラスだったが、厳しい現実を目の当たりにすると、最弱の和也は裏切られ、捨てられてしまう。
しかし、実は最弱と思われていた『ガチャテイマー』は使役する魔物を《限界突破》することで際限なく強化することのできる最強職だった!
和也は、最強職を駆使して無限に強くなり、いずれ異世界最強に至る。
カクヨム・なろうで
クラス転移でハズレ職を押し付けられた『ガチャテイマー』、《限界突破》で異世界最強 〜★1魔物しか召喚できない無能だと思われていたが、実は俺だけ同じ魔物を合成して超進化できる〜
というタイトルで連載しているものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる