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エピローグ
エピローグ~鎮魂
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「……俺が聞くべきではないのだろうが、……何で神人で守護者のカーナが魔を解決しなかったんだ?」
恋人のポルテと一緒に来ていたバルカスが、呟くように疑問を口にした。
確かに、と他の者たちも頷いた。
特に、ずっと親友としてマーゴット女王を気にかけていたグレイシア王太女などは。
だが、神人ジューアはバルカスを鼻で笑い飛ばした。
「人間が生み出したものは人間が解決しなさいよ」
「だが、ここまで甚大な被害をもたらしてるものを、なぜ円環大陸の支配者が対処しない!? 母上も父上も、……俺もマーゴットも、カーナさえ助けてくれてたならこんな面倒なことにはならなかったはず! こんな人の手に余るようなもの!」
激昂するバルカスをポルテが必死に宥めていると、魔法樹脂に封印されたままのカーナが少女の声で語りかけてきた。
『心の底から魔に詫びて、その身に受け入れ寄り添うならば、時間はかかっても鎮魂は可能だ』
「え? そんな簡単なことなのですか?」
これにはマーゴットも、ヴァシレウス大王すら驚いていた。
多分これまで必死に探してきた破魔や退魔の情報とは根本的に異なる話だった。
『口で言えば簡単だ。だが、とても苦しいし、恨みと悲嘆の塊の魔を受け入れるには、受け入れる側の器も相応に求められる。誰でも良いわけじゃない。覚悟を持てる人としての強さが必要だ。そこに強い魔力が伴えばなお良い』
単純に受け入れるだけだと魔に負けて、自分が魔の依代化して周囲に害悪を及ぼす。先ほど死んだ元王妃が良い例だ。
「人間がやるべき鎮魂の正解はそれだけよ。本当はね。……神人の我らは器も魔力も大きいから関わり方はまた違ってくるけど。でも鎮魂を教えて導こうとしても人間はすぐ楽なほうを選んで我らを頼りたがる」
そしてまた我欲の果てに魔を生み出すの繰り返しだと神人ジューアが嘆息した。
『仕方ないから、試練を与えて物事を素直に許容できるよう鍛えていた』
「普通ならここまではやらない。カーナは縁あってカレイド王国の守護者だったから、面倒を見てやっただけ」
本来なら勇者や英雄に覚醒した人間がやるべきことだが、覚悟を決めた者なら誰でも資格はある。
「カーナは甘い。本当なら鎮魂の極意は関係者が魔と戦う中で見出して掴んでいくべきものなのに」
結局こうして教えてしまった。
本当に必要なのは魔を排斥することでも、戦うことでも、封印や破魔、退魔の術を追求することでもない。
更に、人間が抱く疑問などわかりきっているとばかりに神人ジューアが続けた。
「お前たち人間が思い考えることなどわかってるわよ。知ってるなら何で最初から教えてくれないんだって言うんでしょ?」
『手取り足取り丁寧に説明しても、魔を前にすると人間は圧倒されて逃げるか魔に取り込まれるかだ。情報だけ与えると都合よく利用する者が出るから知識の一般化も許さなかった。情報を得て頭だけでわかった気になっても、人として器が伴わなければ結局魔に負ける。難しいところだ』
「よほど器の大きい者でない限り、人間の考える魔の対応は実態にそぐわない。わかる? この説明を素直に理解できるかどうかでも人としての程度が知れるってものよ」
「それだって納得がいかない。詫びる? 魔に? 俺たちは確かにカレイド王族だが、この厄災の魔はこの国ができる前からあったものじゃないか!」
バルカスの憤りはもっともだが、神人のカーナやジューアの見解は違う。
「お前、自分は無関係だと言うの? いいわよ、それでも。臭い物に蓋をして問題を先送りするのも一つの考えだわ。でも王族がその考えじゃあね」
結局、バルカスの言い分は、自分の手には余るが力のある上位者なら助けて当然だし、助けないなら非難すると言っているも同然だった。
「傲慢な考えだわ。王や王族は国のすべてを背負う者なの。たとえ自分個人とは無関係のことでもね。……大衆なら外野の位置から野次を飛ばしても咎められることはない。お前が平民落ちするのは必然だったわね」
「俺を侮辱するな! 何様のつもりだ!」
「神人様ですけど? お前は敬意をもって扱うに値しない。分身とはいえ神人カーナを傷つけ、大王の試練すらやり通せず、私にまで噛みついている。救いようのない愚か者だわ」
神人ジューアが白い指先をバルカスに向けて翳した。
虹色を帯びた夜空色の魔力が指先に集積してくる。
「少なくともカレイド王国の始祖は、お前のように我ら神人に対して『おんぶに抱っこにぶら下がり』の赤ん坊じゃなかったわ。自分の精一杯の努力をしてそれでも力が足りない分を助けてほしいってハイヒューマンの長カーナに助力を請うた」
「………………」
「何のために? アドローンの聖女の慟哭で穢れた土地は弓聖の彼が浄化したけど、聖女本人を救う余力が残らなかった。じゃあせめて自分の子孫に願いを託すから見守ってくれと言われてカーナはカレイド王国の守護者を引き受けた」
ハイヒューマンの彼女たちにも心がある。
頼られるなら誠実さのある者を助けたいものだ。
「己の愚かさを悟るまで安寧を、」
奪う、と最後まで神人ジューアが宣言して呪詛をかける前に、魔法樹脂の中からカーナが止めた。
『必要ない、ジューア。……バルカス、君はもうカレイド王族の資格を失った。この先は同席を許さない。神殿から出て行くように』
「待て、カーナ! 俺はまだ……!」
パチ、と魔力を引っ込めた神人ジューアが指を鳴らして、バルカスと恋人のポルテを神殿の地下室から建物の外へ空間転移で飛ばした。
「うるさいのがいなくなったわね。……じゃあカーナの封印を解くわよ。覚悟はいい?」
同時にカーナが抑えている魔も出てくることになる。
一同は固唾を飲んで、頷いた。
恋人のポルテと一緒に来ていたバルカスが、呟くように疑問を口にした。
確かに、と他の者たちも頷いた。
特に、ずっと親友としてマーゴット女王を気にかけていたグレイシア王太女などは。
だが、神人ジューアはバルカスを鼻で笑い飛ばした。
「人間が生み出したものは人間が解決しなさいよ」
「だが、ここまで甚大な被害をもたらしてるものを、なぜ円環大陸の支配者が対処しない!? 母上も父上も、……俺もマーゴットも、カーナさえ助けてくれてたならこんな面倒なことにはならなかったはず! こんな人の手に余るようなもの!」
激昂するバルカスをポルテが必死に宥めていると、魔法樹脂に封印されたままのカーナが少女の声で語りかけてきた。
『心の底から魔に詫びて、その身に受け入れ寄り添うならば、時間はかかっても鎮魂は可能だ』
「え? そんな簡単なことなのですか?」
これにはマーゴットも、ヴァシレウス大王すら驚いていた。
多分これまで必死に探してきた破魔や退魔の情報とは根本的に異なる話だった。
『口で言えば簡単だ。だが、とても苦しいし、恨みと悲嘆の塊の魔を受け入れるには、受け入れる側の器も相応に求められる。誰でも良いわけじゃない。覚悟を持てる人としての強さが必要だ。そこに強い魔力が伴えばなお良い』
単純に受け入れるだけだと魔に負けて、自分が魔の依代化して周囲に害悪を及ぼす。先ほど死んだ元王妃が良い例だ。
「人間がやるべき鎮魂の正解はそれだけよ。本当はね。……神人の我らは器も魔力も大きいから関わり方はまた違ってくるけど。でも鎮魂を教えて導こうとしても人間はすぐ楽なほうを選んで我らを頼りたがる」
そしてまた我欲の果てに魔を生み出すの繰り返しだと神人ジューアが嘆息した。
『仕方ないから、試練を与えて物事を素直に許容できるよう鍛えていた』
「普通ならここまではやらない。カーナは縁あってカレイド王国の守護者だったから、面倒を見てやっただけ」
本来なら勇者や英雄に覚醒した人間がやるべきことだが、覚悟を決めた者なら誰でも資格はある。
「カーナは甘い。本当なら鎮魂の極意は関係者が魔と戦う中で見出して掴んでいくべきものなのに」
結局こうして教えてしまった。
本当に必要なのは魔を排斥することでも、戦うことでも、封印や破魔、退魔の術を追求することでもない。
更に、人間が抱く疑問などわかりきっているとばかりに神人ジューアが続けた。
「お前たち人間が思い考えることなどわかってるわよ。知ってるなら何で最初から教えてくれないんだって言うんでしょ?」
『手取り足取り丁寧に説明しても、魔を前にすると人間は圧倒されて逃げるか魔に取り込まれるかだ。情報だけ与えると都合よく利用する者が出るから知識の一般化も許さなかった。情報を得て頭だけでわかった気になっても、人として器が伴わなければ結局魔に負ける。難しいところだ』
「よほど器の大きい者でない限り、人間の考える魔の対応は実態にそぐわない。わかる? この説明を素直に理解できるかどうかでも人としての程度が知れるってものよ」
「それだって納得がいかない。詫びる? 魔に? 俺たちは確かにカレイド王族だが、この厄災の魔はこの国ができる前からあったものじゃないか!」
バルカスの憤りはもっともだが、神人のカーナやジューアの見解は違う。
「お前、自分は無関係だと言うの? いいわよ、それでも。臭い物に蓋をして問題を先送りするのも一つの考えだわ。でも王族がその考えじゃあね」
結局、バルカスの言い分は、自分の手には余るが力のある上位者なら助けて当然だし、助けないなら非難すると言っているも同然だった。
「傲慢な考えだわ。王や王族は国のすべてを背負う者なの。たとえ自分個人とは無関係のことでもね。……大衆なら外野の位置から野次を飛ばしても咎められることはない。お前が平民落ちするのは必然だったわね」
「俺を侮辱するな! 何様のつもりだ!」
「神人様ですけど? お前は敬意をもって扱うに値しない。分身とはいえ神人カーナを傷つけ、大王の試練すらやり通せず、私にまで噛みついている。救いようのない愚か者だわ」
神人ジューアが白い指先をバルカスに向けて翳した。
虹色を帯びた夜空色の魔力が指先に集積してくる。
「少なくともカレイド王国の始祖は、お前のように我ら神人に対して『おんぶに抱っこにぶら下がり』の赤ん坊じゃなかったわ。自分の精一杯の努力をしてそれでも力が足りない分を助けてほしいってハイヒューマンの長カーナに助力を請うた」
「………………」
「何のために? アドローンの聖女の慟哭で穢れた土地は弓聖の彼が浄化したけど、聖女本人を救う余力が残らなかった。じゃあせめて自分の子孫に願いを託すから見守ってくれと言われてカーナはカレイド王国の守護者を引き受けた」
ハイヒューマンの彼女たちにも心がある。
頼られるなら誠実さのある者を助けたいものだ。
「己の愚かさを悟るまで安寧を、」
奪う、と最後まで神人ジューアが宣言して呪詛をかける前に、魔法樹脂の中からカーナが止めた。
『必要ない、ジューア。……バルカス、君はもうカレイド王族の資格を失った。この先は同席を許さない。神殿から出て行くように』
「待て、カーナ! 俺はまだ……!」
パチ、と魔力を引っ込めた神人ジューアが指を鳴らして、バルカスと恋人のポルテを神殿の地下室から建物の外へ空間転移で飛ばした。
「うるさいのがいなくなったわね。……じゃあカーナの封印を解くわよ。覚悟はいい?」
同時にカーナが抑えている魔も出てくることになる。
一同は固唾を飲んで、頷いた。
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