120 / 129
夢は終わり現実が始まる
夢見の結果と王妃の最後
しおりを挟む
マーゴットは目を開けた。
ほんの僅かな間だけ眠りに落ちていたようだ。
短時間とはいえ深い眠りが取れたようで、驚くほど疲れが取れて頭がスッキリしている。
場所は王宮内のサロンのようだ。
(そうだ、サミット最終日。会議で私は参加者たちに我が国の状況を明かした。私とバルカスが魔の対応で対立していることを、ヴァシレウス大王が夢見で決着をつけよと仰って……)
彼の国も過去に魔に翻弄された歴史がある。
夢見の中で正しい選択ができたならアケロニア王国の彼の元へ行き、裁定を受ける。そういう設定で夢見の術を行った。
サロン内には子供のままの守護者カーナが。
アケロニア王国のグレイシア王太女、大王の伴侶セシリア。
サミットの議長だった神人ジューア。
そしてカレイド王国の前国王ダイアンと王妃メイ。
夢見の世界から戻ってきたマーゴット女王、バルカス王配、そしてヴァシレウス大王の三名。
「その様子だと結論は出たようだな」
「はい。夢見の世界で大王陛下から、魔のことを教えられました。私がカレイド王国の女王として魔を引き受けます」
バルカス王配の傍らには、学生時代からの恋人ポルテがいる。
栗色の髪と澄んだオレンジ色の瞳を持った華奢な女性だ。初めて会った頃、彼女はどこか女性形のカーナに似ていると思ったことがある。その印象は今も変わらなかった。
「待てマーゴット、ポルテだ、ポルテが聖女なんだ! 俺は夢見で彼女を聖なる魔力持ちにした!」
バルカスは夢見の世界に入ってすぐ王宮の宝物庫を漁り、聖なるアミュレットを片っ端からポルテに持たせて聖なる魔力を帯びさせたという。
そしてマーゴットと同じように、夢見の中で何度も夢見を繰り返して、強化し続けた。
「ポルテさん。もしかして本当に最初からあなた、聖女だったの?」
「……いいえ。聖女と言えるほど力は強くないんです。確かに聖なる魔力は持ってましたけど、本当にちょっとだけで……」
彼らは結局、夢見の中でヴァシレウス大王の元には辿り着かなかった。それが答えだろう。
「で、でも、バルカスの中の良くない因子は抑えられるようになったんです! バルカスのお母様の魔も少しなら害を減らせるかも!」
「無駄よ。お前が逆に魔に取り込まれるわ。やめなさい」
必死で言い募るポルテをばっさり斬ったのは神人ジューアだ。
そしてサロン内で並んで座りながらも所在なさげなダイアン元国王と、事態を理解しているかも定かでない笑顔の元王妃メイを見やり、呆れたように両肩をすくめた。
「よくもまあ、こんなもの長々と放置してたわね。漏れた魔なんてごく一部なんだから、この女にきっちり押し込めておきなさいよ」
「ま、待て! お待ちください、神人ジューア!」
ダイアン前国王が止める間もなかった。
ジューアは虹色にきらめく夜空色の魔力で、透明な魔法樹脂の細い首輪を作った。
魔の影響を抑え、装着した人間の中に封じる魔導具だった。
首輪に継ぎ目はなかったが、ジューアがメイ元王妃の首に近づけると何事もなく首に嵌まった。
「この女に取り憑いた魔は吸魔だったわね。これで、これまでこの女が他者から奪ってきた力が本人たちに戻るはずよ。一番奪われてきたのはそこの女王と伴侶? かしら」
透明な首輪を嵌められた元王妃の容貌が、見る見るうちに衰えていく。
成人した子持ちの女とは思えない若々しさを誇っていた肌が潤いを失っていく。
やがて、輝かんばかりの美しさを誇っていた金髪は色褪せて白髪になり、青目は白く濁って、まだ四十代にも関わらず倍の年齢に見えるほど老いた。
「メイ」
だが前国王が彼女の両手を握り締めると、容色の劣化はピタリと止まった。
こういった現象は互いの魔力の相性が良いと稀に起こる。
少なくとも彼らの『真実の愛』に妥当性はあったわけだ。
それからマーゴットとバルカスは自分たちの変化にすぐ気がついた。
「……魔力が満ちるのを感じるわ。バルカスは?」
「俺もだ。頭にモヤがかかってたような感覚が晴れた」
それから間もなくメイ元王妃は亡くなった。
他者から力を奪えなくなって、生存に必要な魔力が枯渇したためだと神人ジューアが教えてくれた。
「魔に憑かれた時点でこの女はとっくに死んでたも同然だったのよ。憑依されてすぐに殺してやってたら、こんな醜い死に様を晒すこともなかったのに。お前、女の敵ね」
亡骸を抱えて泣くダイアン元国王に神人ジューアが追い討ちをかけた。
誰も慰める者はおらず、間もなくやってきた王宮医師によって元王妃の死亡が確認され、元国王は亡骸とともに力のない足取りで退場していくのだった。
ほんの僅かな間だけ眠りに落ちていたようだ。
短時間とはいえ深い眠りが取れたようで、驚くほど疲れが取れて頭がスッキリしている。
場所は王宮内のサロンのようだ。
(そうだ、サミット最終日。会議で私は参加者たちに我が国の状況を明かした。私とバルカスが魔の対応で対立していることを、ヴァシレウス大王が夢見で決着をつけよと仰って……)
彼の国も過去に魔に翻弄された歴史がある。
夢見の中で正しい選択ができたならアケロニア王国の彼の元へ行き、裁定を受ける。そういう設定で夢見の術を行った。
サロン内には子供のままの守護者カーナが。
アケロニア王国のグレイシア王太女、大王の伴侶セシリア。
サミットの議長だった神人ジューア。
そしてカレイド王国の前国王ダイアンと王妃メイ。
夢見の世界から戻ってきたマーゴット女王、バルカス王配、そしてヴァシレウス大王の三名。
「その様子だと結論は出たようだな」
「はい。夢見の世界で大王陛下から、魔のことを教えられました。私がカレイド王国の女王として魔を引き受けます」
バルカス王配の傍らには、学生時代からの恋人ポルテがいる。
栗色の髪と澄んだオレンジ色の瞳を持った華奢な女性だ。初めて会った頃、彼女はどこか女性形のカーナに似ていると思ったことがある。その印象は今も変わらなかった。
「待てマーゴット、ポルテだ、ポルテが聖女なんだ! 俺は夢見で彼女を聖なる魔力持ちにした!」
バルカスは夢見の世界に入ってすぐ王宮の宝物庫を漁り、聖なるアミュレットを片っ端からポルテに持たせて聖なる魔力を帯びさせたという。
そしてマーゴットと同じように、夢見の中で何度も夢見を繰り返して、強化し続けた。
「ポルテさん。もしかして本当に最初からあなた、聖女だったの?」
「……いいえ。聖女と言えるほど力は強くないんです。確かに聖なる魔力は持ってましたけど、本当にちょっとだけで……」
彼らは結局、夢見の中でヴァシレウス大王の元には辿り着かなかった。それが答えだろう。
「で、でも、バルカスの中の良くない因子は抑えられるようになったんです! バルカスのお母様の魔も少しなら害を減らせるかも!」
「無駄よ。お前が逆に魔に取り込まれるわ。やめなさい」
必死で言い募るポルテをばっさり斬ったのは神人ジューアだ。
そしてサロン内で並んで座りながらも所在なさげなダイアン元国王と、事態を理解しているかも定かでない笑顔の元王妃メイを見やり、呆れたように両肩をすくめた。
「よくもまあ、こんなもの長々と放置してたわね。漏れた魔なんてごく一部なんだから、この女にきっちり押し込めておきなさいよ」
「ま、待て! お待ちください、神人ジューア!」
ダイアン前国王が止める間もなかった。
ジューアは虹色にきらめく夜空色の魔力で、透明な魔法樹脂の細い首輪を作った。
魔の影響を抑え、装着した人間の中に封じる魔導具だった。
首輪に継ぎ目はなかったが、ジューアがメイ元王妃の首に近づけると何事もなく首に嵌まった。
「この女に取り憑いた魔は吸魔だったわね。これで、これまでこの女が他者から奪ってきた力が本人たちに戻るはずよ。一番奪われてきたのはそこの女王と伴侶? かしら」
透明な首輪を嵌められた元王妃の容貌が、見る見るうちに衰えていく。
成人した子持ちの女とは思えない若々しさを誇っていた肌が潤いを失っていく。
やがて、輝かんばかりの美しさを誇っていた金髪は色褪せて白髪になり、青目は白く濁って、まだ四十代にも関わらず倍の年齢に見えるほど老いた。
「メイ」
だが前国王が彼女の両手を握り締めると、容色の劣化はピタリと止まった。
こういった現象は互いの魔力の相性が良いと稀に起こる。
少なくとも彼らの『真実の愛』に妥当性はあったわけだ。
それからマーゴットとバルカスは自分たちの変化にすぐ気がついた。
「……魔力が満ちるのを感じるわ。バルカスは?」
「俺もだ。頭にモヤがかかってたような感覚が晴れた」
それから間もなくメイ元王妃は亡くなった。
他者から力を奪えなくなって、生存に必要な魔力が枯渇したためだと神人ジューアが教えてくれた。
「魔に憑かれた時点でこの女はとっくに死んでたも同然だったのよ。憑依されてすぐに殺してやってたら、こんな醜い死に様を晒すこともなかったのに。お前、女の敵ね」
亡骸を抱えて泣くダイアン元国王に神人ジューアが追い討ちをかけた。
誰も慰める者はおらず、間もなくやってきた王宮医師によって元王妃の死亡が確認され、元国王は亡骸とともに力のない足取りで退場していくのだった。
14
お気に入りに追加
1,648
あなたにおすすめの小説
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
三月叶姫
恋愛
私はこの世界から嫌われている。
みんな、私が死ぬ事を望んでいる――。
とある悪役令嬢は、婚約者の王太子から婚約破棄を宣言された後、聖女暗殺未遂の罪で処刑された。だが、彼女は一年前に時を遡り、目を覚ました。
同じ時を繰り返し始めた彼女の結末はいつも同じ。
それでも、彼女は最期の瞬間は必ず笑顔を貫き通した。
十回目となった処刑台の上で、ついに貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
涙を流し、助けを求める彼女に向けて、誰かが彼女の名前を呼んだ。
今、私の名前を呼んだのは、誰だったの?
※こちらの作品は他サイトにも掲載しております
婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む
めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。
彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。
婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を――
※終わりは読者の想像にお任せする形です
※頭からっぽで
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
【完結】「ループ三回目の悪役令嬢は過去世の恨みを込めて王太子をぶん殴る!」
まほりろ
恋愛
※「小説家になろう」異世界転生転移(恋愛)ランキング日間2位!2022年7月1日
公爵令嬢ベルティーナ・ルンゲは過去三回の人生で三回とも冤罪をかけられ、王太子に殺されていた。
四度目の人生……
「どうせ今回も冤罪をかけられて王太子に殺されるんでしょ?
今回の人生では王太子に何もされてないけど、王子様の顔を見てるだけで過去世で殺された事を思い出して腹が立つのよね!
殺される前に王太子の顔を一発ぶん殴ってやらないと気がすまないわ!」
何度もタイムリープを繰り返しやさぐれてしまったベルティーナは、目の前にいる十歳の王太子の横っ面を思いっきりぶん殴った。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる