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夢は終わり現実が始まる

夢見の結果と王妃の最後

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 マーゴットは目を開けた。

 ほんの僅かな間だけ眠りに落ちていたようだ。
 短時間とはいえ深い眠りが取れたようで、驚くほど疲れが取れて頭がスッキリしている。

 場所は王宮内のサロンのようだ。

(そうだ、サミット最終日。会議で私は参加者たちに我が国の状況を明かした。私とバルカスが魔の対応で対立していることを、ヴァシレウス大王が夢見で決着をつけよと仰って……)

 彼の国も過去に魔に翻弄された歴史がある。
 夢見の中で正しい選択ができたならアケロニア王国の彼の元へ行き、裁定を受ける。そういう設定で夢見の術を行った。

 サロン内には子供のままの守護者カーナが。
 アケロニア王国のグレイシア王太女、大王の伴侶セシリア。
 サミットの議長だった神人ジューア。
 そしてカレイド王国の前国王ダイアンと王妃メイ。

 夢見の世界から戻ってきたマーゴット女王、バルカス王配、そしてヴァシレウス大王の三名。

「その様子だと結論は出たようだな」
「はい。夢見の世界で大王陛下から、魔のことを教えられました。私がカレイド王国の女王として魔を引き受けます」

 バルカス王配の傍らには、学生時代からの恋人ポルテがいる。
 栗色の髪と澄んだオレンジ色の瞳を持った華奢な女性だ。初めて会った頃、彼女はどこか女性形のカーナに似ていると思ったことがある。その印象は今も変わらなかった。

「待てマーゴット、ポルテだ、ポルテが聖女なんだ! 俺は夢見で彼女を聖なる魔力持ちにした!」

 バルカスは夢見の世界に入ってすぐ王宮の宝物庫を漁り、聖なるアミュレットを片っ端からポルテに持たせて聖なる魔力を帯びさせたという。
 そしてマーゴットと同じように、夢見の中で何度も夢見を繰り返して、強化し続けた。

「ポルテさん。もしかして本当に最初からあなた、聖女だったの?」
「……いいえ。聖女と言えるほど力は強くないんです。確かに聖なる魔力は持ってましたけど、本当にちょっとだけで……」

 彼らは結局、夢見の中でヴァシレウス大王の元には辿り着かなかった。それが答えだろう。

「で、でも、バルカスの中の良くない因子は抑えられるようになったんです! バルカスのお母様の魔も少しなら害を減らせるかも!」
「無駄よ。お前が逆に魔に取り込まれるわ。やめなさい」

 必死で言い募るポルテをばっさり斬ったのは神人ジューアだ。
 そしてサロン内で並んで座りながらも所在なさげなダイアン元国王と、事態を理解しているかも定かでない笑顔の元王妃メイを見やり、呆れたように両肩をすくめた。

「よくもまあ、こんなもの長々と放置してたわね。漏れた魔なんてごく一部なんだから、この女にきっちり押し込めておきなさいよ」
「ま、待て! お待ちください、神人ジューア!」

 ダイアン前国王が止める間もなかった。
 ジューアは虹色にきらめく夜空色の魔力で、透明な魔法樹脂の細い首輪を作った。

 魔の影響を抑え、装着した人間の中に封じる魔導具だった。

 首輪に継ぎ目はなかったが、ジューアがメイ元王妃の首に近づけると何事もなく首に嵌まった。

「この女に取り憑いた魔は吸魔だったわね。これで、これまでこの女が他者から奪ってきた力が本人たちに戻るはずよ。一番奪われてきたのはそこの女王と伴侶? かしら」

 透明な首輪を嵌められた元王妃の容貌が、見る見るうちに衰えていく。
 成人した子持ちの女とは思えない若々しさを誇っていた肌が潤いを失っていく。
 やがて、輝かんばかりの美しさを誇っていた金髪は色褪せて白髪になり、青目は白く濁って、まだ四十代にも関わらず倍の年齢に見えるほど老いた。

「メイ」

 だが前国王が彼女の両手を握り締めると、容色の劣化はピタリと止まった。
 こういった現象は互いの魔力の相性が良いと稀に起こる。
 少なくとも彼らの『真実の愛』に妥当性はあったわけだ。

 それからマーゴットとバルカスは自分たちの変化にすぐ気がついた。

「……魔力が満ちるのを感じるわ。バルカスは?」
「俺もだ。頭にモヤがかかってたような感覚が晴れた」

 それから間もなくメイ元王妃は亡くなった。
 他者から力を奪えなくなって、生存に必要な魔力が枯渇したためだと神人ジューアが教えてくれた。

「魔に憑かれた時点でこの女はとっくに死んでたも同然だったのよ。憑依されてすぐに殺してやってたら、こんな醜い死に様を晒すこともなかったのに。お前、女の敵ね」

 亡骸を抱えて泣くダイアン元国王に神人ジューアが追い討ちをかけた。

 誰も慰める者はおらず、間もなくやってきた王宮医師によって元王妃の死亡が確認され、元国王は亡骸とともに力のない足取りで退場していくのだった。



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