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現実まであと一段階
シルヴィスの足跡
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マーゴットがアケロニア王国に到着した初日に年上の幼馴染みで婚約者候補のひとり、シルヴィスと歓迎会で再会して、まだ数日。
この国で冒険者活動をしていた彼はすぐダンジョン探索の任務に出てしまっていた。
戻ってきたらすぐ連絡をくれると聞いていたが、ようやく今日帰還する。
そして夜、シルヴィスが誘ってくれた王都のレストランは素晴らしかった。
王都を見渡せる高台のホテルにあるレストランだ。
出迎えてくれた正装のシルヴィスはまさに物語の王子様のよう。
カレイド王国にいたときは控えめな性格で目立たない『年上のお兄さん』だったが、こうして見るとなかなか美しい青年だなと思う。
「ディアーズ伯爵家の礼装、持ってたのね」
歓迎会のときは冒険者ギルドの職員用の礼服だったシルヴィスだが、今はカレイド王国の実家の礼装だ。
白地に聖銀とも呼ばれるミスラル銀の装飾の礼装は、彼の銀色にも見える灰色の清潔に短く整えられた髪や目によく似合っていた。
「何年も着てなかったから慌てて仕立て屋に手入れと調整を頼んだよ。公女様とのデートだからね」
「歓迎パーティーのときの冒険者ギルドの制服も似合ってたわよ?」
「あれはあれで便利だよね」
再会はシルヴィスがカレイド王国を出奔して8年になる。
マーゴットが彼に最後に会ったのはまだ10歳頃の子供のときだ。
この間の出来事を言葉少なに語り合った。
マーゴットは両親を流行り病で亡くして困難な立場に置かれたこと。
幸い、親戚集団の雑草会とはそこそこ関係良好を保っていて、今では何とか公爵令嬢としての品格をギリギリ維持できている。
バルカス王子を婚約者だと思っていたが関係は悪い。
シルヴィスはマーゴットの父公爵ラズリスの指示で魔から逃れるため、カレイド王国を出た。
当時既に神殿に入って司祭の資格持ちであり、弓祓いの術士でもあったシルヴィスの保護のためだ。
出奔後はすぐ冒険者登録して円環大陸中を聖女や聖者を訪ね回った。
王妃の魔への対処法の教えを乞い、可能ならカレイド王国で浄化を頼んだが断られるばかりだったという。
以降も大陸の聖なる魔力持ちを訪ね歩き、破魔や退魔の情報収集に努めていたそうだ。
そして夢見の術の話もマーゴットはすべてシルヴィスに伝えた。
今この瞬間も夢の中だ。現実では自分はシルヴィスではなくバルカス王子を選んで、結果として周囲に信頼できる者もおらず孤独に戦っている。
食事も終え、ホテル内のサロンに移動して食後のお茶を飲みながら話を聞き終わったシルヴィスは、その静謐な水を湛えたような落ち着いた眼差しでマーゴットを見た。
「多分君は、夢見の術にたくさんの目的を設定していたんだと思う。カーナ様を助けたい。王家の混乱を収めたい。王妃やバルカスたちの問題を処理したい。……僕とやり直したい、とか」
すべての夢はいつか覚める。
そのときマーゴットの現実はどう変わっているか。
いずれにせよ魔の影響があると判断も何もかも狂ってしまう。
魔を祓い浄化できるのは破魔スキルの持ち主だけと言われている。ここまで深刻な魔になってしまうと弓祓いだけでは祓いきれない。
現在、円環大陸ではちょうど破魔スキル持ちの聖女が亡くなってしまって、対応できる者がいないのが痛かった。
「円環大陸は広い。探せば一人ぐらい、破魔の術者がいるかもしれない。そう思ってたんだけど、なかなか上手くいかなくて……」
そこでシルヴィスが目をつけたのが冒険者ギルドだ。
一冒険者として関わるだけでなく、途中からスタッフ登録してギルドマスターを目指すようになった。
現在では冒険者ランクを上げながら幹部候補生として試験を定期的に受けているという。
「そろそろサブギルドマスターへの就任資格を得るんだ。そうしたらもっと詳しい情報にアクセスできるようになる。……もう少しだけ待っててほしい」
魔を抱える国は他にもあるようだが、秘匿していることが多い。
冒険者ギルドは漏れた魔の影響に引き寄せられる魔物や魔獣退治を行なってきた歴史があるから、本来ならより詳しい情報があるはずなのだ。
冒険者ギルドのサブマスターとなれば、ある程度なら赴任地の希望が出せる。
できるだけ、聖なる魔力持ちのいる国や地域を中心に赴任する計画を立てている。
「今狙ってるのは大剣持ちの英雄カラドンの補佐でね。彼がそろそろ現役引退して冒険者ギルドのギルドマスターになるって噂があって」
英雄と言われる豪傑だけあって、彼の周りには人が集まりやすい。
同じ剣持ちの剣聖数人とも縁のある人物だった。
この国で冒険者活動をしていた彼はすぐダンジョン探索の任務に出てしまっていた。
戻ってきたらすぐ連絡をくれると聞いていたが、ようやく今日帰還する。
そして夜、シルヴィスが誘ってくれた王都のレストランは素晴らしかった。
王都を見渡せる高台のホテルにあるレストランだ。
出迎えてくれた正装のシルヴィスはまさに物語の王子様のよう。
カレイド王国にいたときは控えめな性格で目立たない『年上のお兄さん』だったが、こうして見るとなかなか美しい青年だなと思う。
「ディアーズ伯爵家の礼装、持ってたのね」
歓迎会のときは冒険者ギルドの職員用の礼服だったシルヴィスだが、今はカレイド王国の実家の礼装だ。
白地に聖銀とも呼ばれるミスラル銀の装飾の礼装は、彼の銀色にも見える灰色の清潔に短く整えられた髪や目によく似合っていた。
「何年も着てなかったから慌てて仕立て屋に手入れと調整を頼んだよ。公女様とのデートだからね」
「歓迎パーティーのときの冒険者ギルドの制服も似合ってたわよ?」
「あれはあれで便利だよね」
再会はシルヴィスがカレイド王国を出奔して8年になる。
マーゴットが彼に最後に会ったのはまだ10歳頃の子供のときだ。
この間の出来事を言葉少なに語り合った。
マーゴットは両親を流行り病で亡くして困難な立場に置かれたこと。
幸い、親戚集団の雑草会とはそこそこ関係良好を保っていて、今では何とか公爵令嬢としての品格をギリギリ維持できている。
バルカス王子を婚約者だと思っていたが関係は悪い。
シルヴィスはマーゴットの父公爵ラズリスの指示で魔から逃れるため、カレイド王国を出た。
当時既に神殿に入って司祭の資格持ちであり、弓祓いの術士でもあったシルヴィスの保護のためだ。
出奔後はすぐ冒険者登録して円環大陸中を聖女や聖者を訪ね回った。
王妃の魔への対処法の教えを乞い、可能ならカレイド王国で浄化を頼んだが断られるばかりだったという。
以降も大陸の聖なる魔力持ちを訪ね歩き、破魔や退魔の情報収集に努めていたそうだ。
そして夢見の術の話もマーゴットはすべてシルヴィスに伝えた。
今この瞬間も夢の中だ。現実では自分はシルヴィスではなくバルカス王子を選んで、結果として周囲に信頼できる者もおらず孤独に戦っている。
食事も終え、ホテル内のサロンに移動して食後のお茶を飲みながら話を聞き終わったシルヴィスは、その静謐な水を湛えたような落ち着いた眼差しでマーゴットを見た。
「多分君は、夢見の術にたくさんの目的を設定していたんだと思う。カーナ様を助けたい。王家の混乱を収めたい。王妃やバルカスたちの問題を処理したい。……僕とやり直したい、とか」
すべての夢はいつか覚める。
そのときマーゴットの現実はどう変わっているか。
いずれにせよ魔の影響があると判断も何もかも狂ってしまう。
魔を祓い浄化できるのは破魔スキルの持ち主だけと言われている。ここまで深刻な魔になってしまうと弓祓いだけでは祓いきれない。
現在、円環大陸ではちょうど破魔スキル持ちの聖女が亡くなってしまって、対応できる者がいないのが痛かった。
「円環大陸は広い。探せば一人ぐらい、破魔の術者がいるかもしれない。そう思ってたんだけど、なかなか上手くいかなくて……」
そこでシルヴィスが目をつけたのが冒険者ギルドだ。
一冒険者として関わるだけでなく、途中からスタッフ登録してギルドマスターを目指すようになった。
現在では冒険者ランクを上げながら幹部候補生として試験を定期的に受けているという。
「そろそろサブギルドマスターへの就任資格を得るんだ。そうしたらもっと詳しい情報にアクセスできるようになる。……もう少しだけ待っててほしい」
魔を抱える国は他にもあるようだが、秘匿していることが多い。
冒険者ギルドは漏れた魔の影響に引き寄せられる魔物や魔獣退治を行なってきた歴史があるから、本来ならより詳しい情報があるはずなのだ。
冒険者ギルドのサブマスターとなれば、ある程度なら赴任地の希望が出せる。
できるだけ、聖なる魔力持ちのいる国や地域を中心に赴任する計画を立てている。
「今狙ってるのは大剣持ちの英雄カラドンの補佐でね。彼がそろそろ現役引退して冒険者ギルドのギルドマスターになるって噂があって」
英雄と言われる豪傑だけあって、彼の周りには人が集まりやすい。
同じ剣持ちの剣聖数人とも縁のある人物だった。
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