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現実まであと一段階
国策「クラウディア王女を忘れるな」
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その後はすぐ夢見を解いて未来の神殿に戻ってきて、カーナは改めてアケロニア王国とタイアド王国の関係を聞いた。
「クラウディアの死と境遇を知った後、私は己の在位期間中の戦争行為の停止を宣言しました」
「そんな宣言出したのは円環大陸の歴史でも君だけだったからね。……君に大王の称号を下賜したことは今でも間違ってたと思わないよ」
その後、アケロニア王国のヴァシレウス大王は、国の王族と貴族、平民であっても官僚は例外なく軍属とする法律を新たに制定し、速やかに施行した。
属するのは国の各騎士団か、貴族や領民は領地の騎士団や兵団に属するのでも構わない。
学園ではすべての生徒に軍事訓練を施すようになった。それもクラウディア王女亡き後からだ。
騎士団の士官学校では士官候補生たちは皆、国がなぜこのような国策を取ったのか、アケロニア王国とタイアド王国の歴史からすべて学ぶことになる。
「クラウディア王女を忘れるな」だ。
そして彼らの正装をすべて軍服で統一させた。
一番大きな変化は、女性でも正装は軍服として公式行事でのドレスを廃したことだろう。
もちろん通常の社交パーティーやダンスパーティーではこれまで通りドレス着用可だ。
ただし、その場合でも女性は軍服での参加も可能とした。
マーゴットが到着した留学初日の歓迎パーティーで、グレイシア王女が黒の軍服姿だったのはそういう理由だ。
「戦争をしないわけじゃなくて、戦争対象をタイアド王国限定と定めたってことか。なるほどねえ」
「表向きは同盟国のまま、諜報活動でタイアド王家の評判を如何に落とすか。夜を徹して語り合ったものですなあ」
しみじみと、青銀の髭をいじりながらのメガエリス伯爵だ。
「結局、クラウディア王妃の死因は何だったんだい?」
「カーナ殿、我らは娘をあの国の王妃とは認識していない。王女と呼んでやってくれまいか」
「……うん。じゃあ、クラウディア王女の死因、把握してるんだろう?」
この圧の強い言い方だと、ヴァシレウス大王は心底から娘を死なせたタイアド王家に怒り狂っている。
表面上穏やかに見えるが皮一枚剥いだ下には憤怒が渦巻いていそうだ。
「いわゆる血の道症です。輿入れしたとはいえ、まだ未成年の身体が未成熟なうちに犯され孕まされた無理がずっと後を引いていたそうで」
「血の道症なら気鬱とかじゃなくて?」
「晩年には出血が止まらなかったと後から報告を受けておりまして……」
クラウディア王女には本国から侍女も護衛も側近も付けていたが、王女の生前は誰も父親のヴァシレウス宛に王女の状況を連絡していなかった。
クラウディア王女本人が止めていたのだ。
彼女の不幸は父親が決めた政略結婚が原因だ。それを敬愛する父ヴァシレウスに知られたくなかったらしい。
「心の優しい子でした。私が事実を知って傷つかないよう計らったのでしょうが……」
結局すべて王女の死後に調査させて、何もかもヴァシレウス大王は知ってしまった。
「……夢見の術でなら、クラウディア王女の輿入れ前に行くこともできた。なぜしなかったんだい?」
「既に娘の産んだ息子が結婚して、私には曾孫もおります。彼らに支援して何手も先を読んでいるのですよ。娘ひとり助ければそれで良いわけではない」
過去の出来事に介入して決定的な変化を起こすことは望んでいない。
ただ本当に娘の死に目に会いたかっただけということだ。
「タイアドに攻め入る気かな?」
「戦争は致しませぬ。息子のテオドロスも孫のグレイシアも。ただ戦するだけが戦争ではない」
諜報でアケロニア王国のクラウディア王女がどんな目に遭ったのか。
業腹ではあるが、成人前のまだ13歳の少女を閨に引っ張り込んだ鬼畜なタイアド王国王太子の話を、他国の主だった王族や高位貴族たちに噂として流した。
クラウディア王女が二十代の早いうちに亡くなったことは当然どの国も知っている。噂の信憑性は高いと判断したはずだった。
「結果、その後のタイアド王族の男は他国どころか自国の高位貴族とも婚姻を断られるようになった。良い気味だ」
「そりゃいくら政略でも、性的虐待しかねない王族だと思われたらね。まともな王族や貴族なら娘との顔合わせも避けるだろう」
クラウディア王女の逝去から数十年。
彼女と婚姻を結んだ現国王以降、タイアド王族は他国のどのような王族、高位貴族とも婚約も婚姻も結べていない。
せいぜい自国の伯爵家以下の家格の、王家の命令を断れない家の娘ばかりだ。
するとどうなるか。わかりやすく国力が衰える。
他国の王族の姫や高位貴族の令嬢との婚姻には、本人の資質以外に様々な国や家同士の思惑や背景が絡む。
そういったバックグラウンドを利用できる婚約者や伴侶が得られない王家は、権威を維持できなくなってくる。
「百年後、まだタイアド王国があるか。賭けでもしますかな? カーナ殿」
これは本気で潰すか乗っ取るかする気と見た。
「クラウディアの死と境遇を知った後、私は己の在位期間中の戦争行為の停止を宣言しました」
「そんな宣言出したのは円環大陸の歴史でも君だけだったからね。……君に大王の称号を下賜したことは今でも間違ってたと思わないよ」
その後、アケロニア王国のヴァシレウス大王は、国の王族と貴族、平民であっても官僚は例外なく軍属とする法律を新たに制定し、速やかに施行した。
属するのは国の各騎士団か、貴族や領民は領地の騎士団や兵団に属するのでも構わない。
学園ではすべての生徒に軍事訓練を施すようになった。それもクラウディア王女亡き後からだ。
騎士団の士官学校では士官候補生たちは皆、国がなぜこのような国策を取ったのか、アケロニア王国とタイアド王国の歴史からすべて学ぶことになる。
「クラウディア王女を忘れるな」だ。
そして彼らの正装をすべて軍服で統一させた。
一番大きな変化は、女性でも正装は軍服として公式行事でのドレスを廃したことだろう。
もちろん通常の社交パーティーやダンスパーティーではこれまで通りドレス着用可だ。
ただし、その場合でも女性は軍服での参加も可能とした。
マーゴットが到着した留学初日の歓迎パーティーで、グレイシア王女が黒の軍服姿だったのはそういう理由だ。
「戦争をしないわけじゃなくて、戦争対象をタイアド王国限定と定めたってことか。なるほどねえ」
「表向きは同盟国のまま、諜報活動でタイアド王家の評判を如何に落とすか。夜を徹して語り合ったものですなあ」
しみじみと、青銀の髭をいじりながらのメガエリス伯爵だ。
「結局、クラウディア王妃の死因は何だったんだい?」
「カーナ殿、我らは娘をあの国の王妃とは認識していない。王女と呼んでやってくれまいか」
「……うん。じゃあ、クラウディア王女の死因、把握してるんだろう?」
この圧の強い言い方だと、ヴァシレウス大王は心底から娘を死なせたタイアド王家に怒り狂っている。
表面上穏やかに見えるが皮一枚剥いだ下には憤怒が渦巻いていそうだ。
「いわゆる血の道症です。輿入れしたとはいえ、まだ未成年の身体が未成熟なうちに犯され孕まされた無理がずっと後を引いていたそうで」
「血の道症なら気鬱とかじゃなくて?」
「晩年には出血が止まらなかったと後から報告を受けておりまして……」
クラウディア王女には本国から侍女も護衛も側近も付けていたが、王女の生前は誰も父親のヴァシレウス宛に王女の状況を連絡していなかった。
クラウディア王女本人が止めていたのだ。
彼女の不幸は父親が決めた政略結婚が原因だ。それを敬愛する父ヴァシレウスに知られたくなかったらしい。
「心の優しい子でした。私が事実を知って傷つかないよう計らったのでしょうが……」
結局すべて王女の死後に調査させて、何もかもヴァシレウス大王は知ってしまった。
「……夢見の術でなら、クラウディア王女の輿入れ前に行くこともできた。なぜしなかったんだい?」
「既に娘の産んだ息子が結婚して、私には曾孫もおります。彼らに支援して何手も先を読んでいるのですよ。娘ひとり助ければそれで良いわけではない」
過去の出来事に介入して決定的な変化を起こすことは望んでいない。
ただ本当に娘の死に目に会いたかっただけということだ。
「タイアドに攻め入る気かな?」
「戦争は致しませぬ。息子のテオドロスも孫のグレイシアも。ただ戦するだけが戦争ではない」
諜報でアケロニア王国のクラウディア王女がどんな目に遭ったのか。
業腹ではあるが、成人前のまだ13歳の少女を閨に引っ張り込んだ鬼畜なタイアド王国王太子の話を、他国の主だった王族や高位貴族たちに噂として流した。
クラウディア王女が二十代の早いうちに亡くなったことは当然どの国も知っている。噂の信憑性は高いと判断したはずだった。
「結果、その後のタイアド王族の男は他国どころか自国の高位貴族とも婚姻を断られるようになった。良い気味だ」
「そりゃいくら政略でも、性的虐待しかねない王族だと思われたらね。まともな王族や貴族なら娘との顔合わせも避けるだろう」
クラウディア王女の逝去から数十年。
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せいぜい自国の伯爵家以下の家格の、王家の命令を断れない家の娘ばかりだ。
するとどうなるか。わかりやすく国力が衰える。
他国の王族の姫や高位貴族の令嬢との婚姻には、本人の資質以外に様々な国や家同士の思惑や背景が絡む。
そういったバックグラウンドを利用できる婚約者や伴侶が得られない王家は、権威を維持できなくなってくる。
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