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現実まであと一段階
魔の詳説
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「そうだわ、言われてみれば確かにカーナはカレイド王国の守護者なのに、これまで魔の問題に積極的に介入してきていない」
カーナはばつが悪そうだ。守護者なのに、と言われてしまうと確かにその通りで、不甲斐ない姿ばかり見せている。
それでもカーナにはカーナなりの言い分がある。
「カレイド王国は、当時の世界最大級の厄災を封印した功績で、弓聖のハイエルフに新興を認めた国だ。封印を守っている限り安泰だったんだが」
およそ500年前、西の小国カーナ王国から魚人の魔物が襲来したとき、その封印に綻びが生じた。
魔物の襲来に先立って綻びたのか、襲来がきっかけで綻びたかは今となってはわからない。
勇者に覚醒した若い主婦メルセデスが、聖剣の魚切り包丁で魚人の魔物を対峙し、当時の国王と女勇者メルセデスが封印をし直した。
それから200年後の300年前に、再び封印が解けかけて、当時の王族たちがまた封印した。
女勇者の末裔の王族ほど力が強かったから、ここで改めて中興の祖の女勇者メルセデスの子孫を調査している。
その上で始祖のハイエルフと女勇者両方の末裔を判別する血筋チェッカーの作成を、守護者カーナを通じて魔導具師の神人ジューアに依頼した。
そして現在。3000年の封印はいよいよ限界に近づいている。
「もう不可能だというところまで来たら、永遠の国に依頼して対処を委ねられるが、国の支配権を返上することになる」
ヴァシレウス大王が補足した。
「そういう国は王家は解体され、共和制の民主主義国家として再編されるが、歴代の国王たちはそれを望まなかったのだろう」
「……ダイアン国王も、ですね」
そして現在はマーゴット自身も。
「オレのように巨大な神獣になれる神人なら丸呑みするし、人型の神人なら力押しだ。どちらにせよ国土は壊れる。だからオレたち永遠の国の住人の介入は最終手段なんだ」
カーナの脳裏に、友人の神人ジューアの、青みがかった長い銀髪と湖面の水色の麗しい容貌が浮かぶ。
あの美しく嫋やかな外見の少女なら、魔導具師としてだったら魔法樹脂なる魔力で創る透明な特殊樹脂で国ごと封印してしまうだろうし、魔法剣士としてなら魔力で編み出した数千、数万の魔法剣を嬉々として降らせるだろう。
どちらにせよ、国に住む国民ごと無事では済まない。
少し風が出てきた。
テラス席から室内のサロンに移動して茶を人数分入れさせ、ヴァシレウス大王が話を続けた。
「魔の問題は非常に厄介だ。邪ならば本人が邪気で過度に感情的になるから、誰の目にも異常がわかる。魔は最初はかすかな違和感だけで、異常と言えるほどの異変が目に見えないことが多い」
ヴァシレウス大王の説明にカーナが頷いている。
マーゴットとグレイシア王女は初めて聞く話なので固唾を飲んで次の説明を待つ。
「魔は人間の運気や可能性を阻害する。また、魔の影響圏では、浄化や祓いの実施や術者の訓練は困難を極める」
(これが、シルヴィスがカレイド王国を出奔した理由ね。亡くなったお父様がシルヴィスを国外に出したって言っていた)
カーナがシルヴィス本人から聞き出した話を、マーゴットも教えられている。
今日はこの後、夜に帰ってくるシルヴィスと食事だ。そのとき本人に直接聞いてみようと思っている。
「公女、カレイド王国の国内で自身や周囲はどうだった?」
「ダイアン国王も宰相も、……私も適切な行動や思考ができず、苦労しておりました。恐らく、私の両親が流行り病で亡くなってしまったのも魔の悪影響だったのでしょう」
王弟の父公爵や、国王の元婚約者で王家の親戚だった母は、当然これら魔にまつわることを知っていた可能性がある。
けれど当時、発症して亡くなるまであっという間で、詳しい事情をマーゴットに残す余裕がなかったものと思われる。
(お父様たちが生きて元気だった頃に夢見の術で飛んでみるって手もあるけど)
だがひとまず、今はヴァシレウス大王の話の先を聞くべきだろう。
「魔に安易な対処は厳禁だ。……魔は祟る。憑依を受けた者を処刑すると、した側やその子孫まで累が及びかねない」
(そう、その通りだわ。王妃様の魔のことがわかっても、幽閉が精々で処刑に関してはずっと抵抗があった。……それだけじゃ終わらない予感があったから)
だから、学園での友人や、文通していたグレイシア王女から断罪を示唆されても容易には動けなかった。
それは女王に即位して、王家に伝わる大厄災封印の伝承を知った後では正しかったのだと、ようやく自分の判断に自信が持てた。
「だが、魔と関わると周囲の人間も影響を受けてくる。特に関係者は極端に運気が落ちて本来の個性が歪められるので、周囲からはこの上なく愚かに見えて責め立てたくなる。それで関係者には味方が減っていくそうだ」
その通りだ。8年後の女王マーゴットには前国王から引き続き宰相がいるが、側近の数は驚くほど少ない。
(信頼できる者が本当に少なくて)
「周りが皆、敵に見えてくるし、実際に敵対者となることも多い。一見、もっともらしい言葉でたしなめてくるように見える者も、実際は善意どころか責めることに快感を感じる異常者と化しやすい」
特に、魔憑きに対して残酷な処罰を望む者ほど要注意だとヴァシレウスが言う。彼らこそが次の邪や魔の予備軍に最も近いのだと。
そういう二次被害、三次被害が広がりやすいのも魔の被害の特徴だという。
「ああすればいいのに」「こうすればいいのに」とたらればを持ち出して強く責め立てる者たちが、あるときを境に大量に出て、関係者を追い詰めていく。
彼らは問題解決のための助言を行なっているようでいて、口だけで行動で解決を示さない特徴がある。
「カレイド王国のメイ王妃に憑依した魔は、恐らく吸魔と思われる」
グレイシア王女やテオドロス国王からの報告書を見てヴァシレウス大王は確信したという。
カーナはばつが悪そうだ。守護者なのに、と言われてしまうと確かにその通りで、不甲斐ない姿ばかり見せている。
それでもカーナにはカーナなりの言い分がある。
「カレイド王国は、当時の世界最大級の厄災を封印した功績で、弓聖のハイエルフに新興を認めた国だ。封印を守っている限り安泰だったんだが」
およそ500年前、西の小国カーナ王国から魚人の魔物が襲来したとき、その封印に綻びが生じた。
魔物の襲来に先立って綻びたのか、襲来がきっかけで綻びたかは今となってはわからない。
勇者に覚醒した若い主婦メルセデスが、聖剣の魚切り包丁で魚人の魔物を対峙し、当時の国王と女勇者メルセデスが封印をし直した。
それから200年後の300年前に、再び封印が解けかけて、当時の王族たちがまた封印した。
女勇者の末裔の王族ほど力が強かったから、ここで改めて中興の祖の女勇者メルセデスの子孫を調査している。
その上で始祖のハイエルフと女勇者両方の末裔を判別する血筋チェッカーの作成を、守護者カーナを通じて魔導具師の神人ジューアに依頼した。
そして現在。3000年の封印はいよいよ限界に近づいている。
「もう不可能だというところまで来たら、永遠の国に依頼して対処を委ねられるが、国の支配権を返上することになる」
ヴァシレウス大王が補足した。
「そういう国は王家は解体され、共和制の民主主義国家として再編されるが、歴代の国王たちはそれを望まなかったのだろう」
「……ダイアン国王も、ですね」
そして現在はマーゴット自身も。
「オレのように巨大な神獣になれる神人なら丸呑みするし、人型の神人なら力押しだ。どちらにせよ国土は壊れる。だからオレたち永遠の国の住人の介入は最終手段なんだ」
カーナの脳裏に、友人の神人ジューアの、青みがかった長い銀髪と湖面の水色の麗しい容貌が浮かぶ。
あの美しく嫋やかな外見の少女なら、魔導具師としてだったら魔法樹脂なる魔力で創る透明な特殊樹脂で国ごと封印してしまうだろうし、魔法剣士としてなら魔力で編み出した数千、数万の魔法剣を嬉々として降らせるだろう。
どちらにせよ、国に住む国民ごと無事では済まない。
少し風が出てきた。
テラス席から室内のサロンに移動して茶を人数分入れさせ、ヴァシレウス大王が話を続けた。
「魔の問題は非常に厄介だ。邪ならば本人が邪気で過度に感情的になるから、誰の目にも異常がわかる。魔は最初はかすかな違和感だけで、異常と言えるほどの異変が目に見えないことが多い」
ヴァシレウス大王の説明にカーナが頷いている。
マーゴットとグレイシア王女は初めて聞く話なので固唾を飲んで次の説明を待つ。
「魔は人間の運気や可能性を阻害する。また、魔の影響圏では、浄化や祓いの実施や術者の訓練は困難を極める」
(これが、シルヴィスがカレイド王国を出奔した理由ね。亡くなったお父様がシルヴィスを国外に出したって言っていた)
カーナがシルヴィス本人から聞き出した話を、マーゴットも教えられている。
今日はこの後、夜に帰ってくるシルヴィスと食事だ。そのとき本人に直接聞いてみようと思っている。
「公女、カレイド王国の国内で自身や周囲はどうだった?」
「ダイアン国王も宰相も、……私も適切な行動や思考ができず、苦労しておりました。恐らく、私の両親が流行り病で亡くなってしまったのも魔の悪影響だったのでしょう」
王弟の父公爵や、国王の元婚約者で王家の親戚だった母は、当然これら魔にまつわることを知っていた可能性がある。
けれど当時、発症して亡くなるまであっという間で、詳しい事情をマーゴットに残す余裕がなかったものと思われる。
(お父様たちが生きて元気だった頃に夢見の術で飛んでみるって手もあるけど)
だがひとまず、今はヴァシレウス大王の話の先を聞くべきだろう。
「魔に安易な対処は厳禁だ。……魔は祟る。憑依を受けた者を処刑すると、した側やその子孫まで累が及びかねない」
(そう、その通りだわ。王妃様の魔のことがわかっても、幽閉が精々で処刑に関してはずっと抵抗があった。……それだけじゃ終わらない予感があったから)
だから、学園での友人や、文通していたグレイシア王女から断罪を示唆されても容易には動けなかった。
それは女王に即位して、王家に伝わる大厄災封印の伝承を知った後では正しかったのだと、ようやく自分の判断に自信が持てた。
「だが、魔と関わると周囲の人間も影響を受けてくる。特に関係者は極端に運気が落ちて本来の個性が歪められるので、周囲からはこの上なく愚かに見えて責め立てたくなる。それで関係者には味方が減っていくそうだ」
その通りだ。8年後の女王マーゴットには前国王から引き続き宰相がいるが、側近の数は驚くほど少ない。
(信頼できる者が本当に少なくて)
「周りが皆、敵に見えてくるし、実際に敵対者となることも多い。一見、もっともらしい言葉でたしなめてくるように見える者も、実際は善意どころか責めることに快感を感じる異常者と化しやすい」
特に、魔憑きに対して残酷な処罰を望む者ほど要注意だとヴァシレウスが言う。彼らこそが次の邪や魔の予備軍に最も近いのだと。
そういう二次被害、三次被害が広がりやすいのも魔の被害の特徴だという。
「ああすればいいのに」「こうすればいいのに」とたらればを持ち出して強く責め立てる者たちが、あるときを境に大量に出て、関係者を追い詰めていく。
彼らは問題解決のための助言を行なっているようでいて、口だけで行動で解決を示さない特徴がある。
「カレイド王国のメイ王妃に憑依した魔は、恐らく吸魔と思われる」
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