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現実まであと一段階

ヴァシレウス大王、夢見の試練

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「ご、合格とは? それに試練とはいったい?」

 混乱するマーゴットに、まあまあと言ってヴァシレウス大王は茶菓子のチョコレートを勧めてきた。グレイシア王女やルシウス少年も大好物のガスター菓子店の高級ショコラだ。
 言われるままトリュフチョコレートをひとつ摘んで口に含むと、とろりと中からキャラメル味の滑らかで濃厚なソースが溢れてくる。

「一言で言うとだ、私も君と同じ夢見の中に入った人間なのだよ」
「!?」

 一瞬、芳醇なショコラの味を忘れるほどの衝撃だった。

「その様子ではまだ思い出してないか? 今から8年後、カレイド王国でのサミットに私は孫のグレイシアらを連れて訪れた」

 そこで、女王マーゴットは王配バルカスがいながら、守護者とはいえカーナとの間に不義の子供を作ったことを、親友のはずのグレイシア王太女に糾弾された。

「すると君は『自分はもう疲れてしまった』と言ってサミット参加者の各国首脳たちに真実を話したのだ」

 カレイド王国の守護者がバルカス王配に害された後で子供になってしまったことや、様々な現象の改善に、夢見の術という秘密の魔法を使ったことなどだ。

 その頃には、なぜ前国王の王妃メイが魔に取り憑かれたかなども含めて、すべて実態が判明していたという。

「そう、その通りです。もう我が国の手には余る事態となっていて。私がこの始祖から受け継いだハイエルフの瞳の魔力で封印すると決めて、それで」
「いや、まだ別の夢見の中の出来事と混同しているぞ。君はバルカス王配との間で、魔に憑依された前王妃の処遇で対立していた。バルカス王配は処刑派。君は処刑回避派だった」

 この頃には王妃が問題というより、彼女に取り憑いた魔がすべての元凶だととっくに判明していたから、その取り扱い方法で揉めていた。

 自分勝手なバルカスは自分のこれまでの凶行の原因が実の母の元王妃にあったと知って何年もショックを受けていた。
 結果、自分が元王妃を処刑して責任を取ると短絡的なことを言い出したが、いくら何でも彼に母親殺しをさせるわけにはいかない。



「そこで私が提案した。最終結論を出す前に、その夢見の術とやらで双方それぞれの主張通りの選択の結果どうなるか、試したらどうかと」
「それが“試練”ですか?」
「そうだ。そして私のアケロニア王族は邪道に落ちて魔そのものになった前王家を打ち倒した勇者の子孫だ。……この試練に合格できたなら、私が知る限りの魔の情報を教えると言った」

 ヴァシレウス大王が言うには、魔への関わり方には困難だが正解があるという。

 マーゴットとバルカス王配がその正解を掴むか、正解に向かった時点で、夢の中でアケロニア王国の彼の元にやってくる設定を行なった。
 その上でマーゴット、バルカス王配、ヴァシレウス大王の三人が夢見の世界に入ったのだそうだ。

「なぜ、わざわざ陛下まで夢見に関わったのです? 情報をお持ちならその場で私たちに教えてくだされば良かったのに」
「それができない事情があった。魔の詳細は、対処方法であると同時に、魔を生み出す方法を含む。この提案をした場には他国の首脳たちもいたから、不用意なことはいえなかったのだ」
「そういう、ことでしたか……」

 マーゴットの中で欠けていたパズルのピースが埋まった瞬間だった。
 なるほど、何重にもなった夢見やループの世界で、マーゴットはこれまでヴァシレウス大王とこのような話をしたことはない。
 ということは、ここに来るまでのマーゴットの思考や行動に、彼の言う『正解』や正解に近いものが含まれていたことになる。

「陛下は私に合格と仰いましたね。ではバルカスのほうは」
「君とバルカス王配はそれぞれ違う夢見の世界で己の選択を実行するシミュレーションを行なっている。どちらかが合格したら全員の夢見を解除して現実に戻る設定になっているが、まだ私たちがここにいるということは」
「……バルカスはまだ正解に辿り着いていないのですね」

 マーゴットのネオングリーンの瞳に見つめられて、ヴァシレウス大王は黒い瞳で頷いた。

「我が国は国内に既に魔はなく、穢れや邪気、退魔の対策も万全と考えて、もう息子のテオドロスや孫のグレイシアにも魔の詳細は伝えていなかった。現実に戻ったら私が生きている間に伝えねばなるまいな」

 そう言って、ヴァシレウス大王はここから先は口伝であると前置きしてから、マーゴットが喉から手が出るほど欲しかった魔の情報を教えてくれた。


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