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現実まであと一段階
本当の現実のこと1
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「朝だわ……」
客間の寝室のカーテンの隙間から陽光が部屋に差し込んでいる。
ベッドの下では一角獣のカーナがすやすやと眠っていた。
「記憶を確認しないと」
夢見から戻ってくると、夢の中もとい並行世界で経験した出来事が現実に融合され変化していく。
ここはまだ最後の夢の中のはず。
本当の現実世界のことはこれまでの夢の中ではまだ朧げだったのだが。
「……そうか……そうだったわね……」
今まではまさに、良い“夢”を見ていた。
次に夢見を解いたら、今度こそ本当に本当の現実世界の、最初に夢見の術を行った時点に戻る。
マーゴットは現実がどうなっているかを“ほぼ”思い出した。
ただ、思い出したのは出来事のみで、出来事と関連する自分の気持ちはどこか雲を掴むようで曖昧な感じがある。
「カーナ。カーナ、起きて。全部思い出したわ。この後の対策を考えないと」
本来なら今の夢見の世界ではカーナはバルカス王子に魚切り包丁で斬られて、一命を取り留めたが意識不明のままのはず。
そして何度も夢見を繰り返したが好結果を得られず、仕方なくカーナ自身を巻き込んで更に深い夢見を行ったのだ。
ただし、その出来事が発生するのは未来においてだ。
今は留学先のアケロニア王国にいる。この後帰国するまでに、可能な限りカーナを守る対策を立てておきたい。
マーゴットは客間の侍女を読んで、今朝の朝食はサンドイッチなど簡単に食べられるものを部屋まで運んでもらうよう頼んだ。
話しながらでも食事できるように。
加えて、グレイシア王女には朝食に欠席することを伝えてもらった。
午前中のうちにチョコレートが届いたら、ルシウス少年に渡しに騎士団寮まで訪ねる予定は変わらない。
「確認するわ。カーナは今の夢見から覚めた後の現実のことはわからないのよね?」
「今の時点で記憶がないからね。その様子だと君は思い出したみたいだけど」
「そう。そうよ。現実であなたはバルカスに殺されかけて、何とか命だけは助かったんだけど」
王家や神殿秘蔵の完全回復薬エリクサーを使い、怪我も治したはずだった。
だがまだ目を覚ましていない。
「オレはどんな状態になっていた?」
「光の繭に包まれてそのままなの。あなたの魔力の色の繭よ」
「……なら時間が経てば元に戻るよ」
「ということは」
「うん。オレに関してはもう問題ない」
「よ、良かった……」
安堵のあまりマーゴットは客間のソファの背もたれにもたれかかった。お行儀は悪いが力が抜けてしまったのだ。
「夢見を繰り返して、現実の記憶がそこまで変化したんだ。夢見の術は成功したのだろう」
それからマーゴットは、今現在の様々な夢見を経て変化した『現実の世界』のことをカーナに説明していった。
そもそも、マーゴットは最初のボタンを掛け間違えてしまったのだ。
元々、マーゴットは周囲の空気を読んでしまう典型的な良い子タイプだった。
王弟の公爵の娘に生まれて、血筋順位はまさかの一位。生まれたときから次世代の女王に即位する可能性が高かった。
婚約者候補として顔合わせさせられた、複数の少年たちや雑草会の会員の男性たちのうち、父親からは「好きな相手を選んで良い」と言われていた。
だけど本当は、最初に近い親戚としてごく幼い頃に出会ったシルヴィスが好きだった。
けれどシルヴィスは8歳も年上の男の人。恥ずかしかったから、同い年のバルカスとばかり仲良くしていた。
けれどそんなマーゴットの行動も、今思えば王妃の悪意なき悪意の一言に唆されてのものだったように思う。
マーゴットがシルヴィスと親しく交流していると、
「あら、何歳も年上の男と仲良しなんて。あなたも幼くても女なのねえ」
こういった言葉に、もう恥ずかしくていられなくなってしまったのだ。年上の少年に媚びる女だと笑われたようで。
これまでの夢見の中での出来事と、マーゴットが思い出した現実との一番の違いは、マーゴットは血筋順位一位ではあったが、次期女王確定ではなかったことだろう。
一位のマーゴット、七位のシルヴィス、そして現国王の嫡子バルカス、三人が王太子候補だった。
同い年のマーゴットとバルカス王子が成人年齢の18歳を迎えるまでに、各自の適性をカレイド王国の首脳部が見極めるという話になっていた。
マーゴットは始祖のハイエルフと同じネオングリーンの瞳と、中興の祖の女勇者の燃える炎の赤毛持ち。
彼女が女王になれば国民の熱烈な支持を得るだろう。
シルヴィスは始祖と同じ無色の魔力持ち。カレイド王族のお家芸の弓祓いの優れた術者だ。
護国を考えるならば彼が王でも良い。
バルカス王子は血筋順位こそ欄外だが現国王の唯一の息子。
シルヴィスは王位継承争いを嫌って、マーゴットたちが10歳の頃に出奔したと聞かされていた。
だが夢見の中で出会ったシルヴィスの言葉からすると、実際は王妃の魔対策の調査のため、マーゴットの父公爵の指示で冒険者活動に身を投じていたと。
それでもシルヴィスの出奔当時、残されたマーゴットは自分の選択肢がバルカスしかないと諦めて、バルカスを好きになるよう自分に言い聞かせていた。
客間の寝室のカーテンの隙間から陽光が部屋に差し込んでいる。
ベッドの下では一角獣のカーナがすやすやと眠っていた。
「記憶を確認しないと」
夢見から戻ってくると、夢の中もとい並行世界で経験した出来事が現実に融合され変化していく。
ここはまだ最後の夢の中のはず。
本当の現実世界のことはこれまでの夢の中ではまだ朧げだったのだが。
「……そうか……そうだったわね……」
今まではまさに、良い“夢”を見ていた。
次に夢見を解いたら、今度こそ本当に本当の現実世界の、最初に夢見の術を行った時点に戻る。
マーゴットは現実がどうなっているかを“ほぼ”思い出した。
ただ、思い出したのは出来事のみで、出来事と関連する自分の気持ちはどこか雲を掴むようで曖昧な感じがある。
「カーナ。カーナ、起きて。全部思い出したわ。この後の対策を考えないと」
本来なら今の夢見の世界ではカーナはバルカス王子に魚切り包丁で斬られて、一命を取り留めたが意識不明のままのはず。
そして何度も夢見を繰り返したが好結果を得られず、仕方なくカーナ自身を巻き込んで更に深い夢見を行ったのだ。
ただし、その出来事が発生するのは未来においてだ。
今は留学先のアケロニア王国にいる。この後帰国するまでに、可能な限りカーナを守る対策を立てておきたい。
マーゴットは客間の侍女を読んで、今朝の朝食はサンドイッチなど簡単に食べられるものを部屋まで運んでもらうよう頼んだ。
話しながらでも食事できるように。
加えて、グレイシア王女には朝食に欠席することを伝えてもらった。
午前中のうちにチョコレートが届いたら、ルシウス少年に渡しに騎士団寮まで訪ねる予定は変わらない。
「確認するわ。カーナは今の夢見から覚めた後の現実のことはわからないのよね?」
「今の時点で記憶がないからね。その様子だと君は思い出したみたいだけど」
「そう。そうよ。現実であなたはバルカスに殺されかけて、何とか命だけは助かったんだけど」
王家や神殿秘蔵の完全回復薬エリクサーを使い、怪我も治したはずだった。
だがまだ目を覚ましていない。
「オレはどんな状態になっていた?」
「光の繭に包まれてそのままなの。あなたの魔力の色の繭よ」
「……なら時間が経てば元に戻るよ」
「ということは」
「うん。オレに関してはもう問題ない」
「よ、良かった……」
安堵のあまりマーゴットは客間のソファの背もたれにもたれかかった。お行儀は悪いが力が抜けてしまったのだ。
「夢見を繰り返して、現実の記憶がそこまで変化したんだ。夢見の術は成功したのだろう」
それからマーゴットは、今現在の様々な夢見を経て変化した『現実の世界』のことをカーナに説明していった。
そもそも、マーゴットは最初のボタンを掛け間違えてしまったのだ。
元々、マーゴットは周囲の空気を読んでしまう典型的な良い子タイプだった。
王弟の公爵の娘に生まれて、血筋順位はまさかの一位。生まれたときから次世代の女王に即位する可能性が高かった。
婚約者候補として顔合わせさせられた、複数の少年たちや雑草会の会員の男性たちのうち、父親からは「好きな相手を選んで良い」と言われていた。
だけど本当は、最初に近い親戚としてごく幼い頃に出会ったシルヴィスが好きだった。
けれどシルヴィスは8歳も年上の男の人。恥ずかしかったから、同い年のバルカスとばかり仲良くしていた。
けれどそんなマーゴットの行動も、今思えば王妃の悪意なき悪意の一言に唆されてのものだったように思う。
マーゴットがシルヴィスと親しく交流していると、
「あら、何歳も年上の男と仲良しなんて。あなたも幼くても女なのねえ」
こういった言葉に、もう恥ずかしくていられなくなってしまったのだ。年上の少年に媚びる女だと笑われたようで。
これまでの夢見の中での出来事と、マーゴットが思い出した現実との一番の違いは、マーゴットは血筋順位一位ではあったが、次期女王確定ではなかったことだろう。
一位のマーゴット、七位のシルヴィス、そして現国王の嫡子バルカス、三人が王太子候補だった。
同い年のマーゴットとバルカス王子が成人年齢の18歳を迎えるまでに、各自の適性をカレイド王国の首脳部が見極めるという話になっていた。
マーゴットは始祖のハイエルフと同じネオングリーンの瞳と、中興の祖の女勇者の燃える炎の赤毛持ち。
彼女が女王になれば国民の熱烈な支持を得るだろう。
シルヴィスは始祖と同じ無色の魔力持ち。カレイド王族のお家芸の弓祓いの優れた術者だ。
護国を考えるならば彼が王でも良い。
バルカス王子は血筋順位こそ欄外だが現国王の唯一の息子。
シルヴィスは王位継承争いを嫌って、マーゴットたちが10歳の頃に出奔したと聞かされていた。
だが夢見の中で出会ったシルヴィスの言葉からすると、実際は王妃の魔対策の調査のため、マーゴットの父公爵の指示で冒険者活動に身を投じていたと。
それでもシルヴィスの出奔当時、残されたマーゴットは自分の選択肢がバルカスしかないと諦めて、バルカスを好きになるよう自分に言い聞かせていた。
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