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現実まであと一段階
ところで制裁は?
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「一国の王として聞いておきたいのだがね。一応いま現在の公女の婚約者はバルカス王子なのだろ? そして王子は別の女性と不貞行為を犯している。カレイド王国では王族の不貞はどういう扱いになるんだい?」
テオドロス国王が素朴な疑問だが、と前置きしてマーゴットたちに訊ねてきた。
「我がアケロニア王国の場合、書類で契約を交わした婚約者の不貞は婚約の破棄や解消はもちろん、慰謝料や、不貞で被った被害の賠償責任が加害者側に生じる」
「被害者の身分に応じて、申請制で個人的制裁も可能になっている、でしたよね? 父上」
「そうそう。まあ仮に、公女と同じ次期女王の立場のグレイシアの婚約者が不貞行為を犯した場合、相手が貴族なら貴族籍の剥奪の可能性がある」
王政国家なら妥当な罰則といえる。
「カレイド王国の王族の婚約者や伴侶の不貞行為への罰則は……」
言い淀むマーゴットの後はカーナが引き継いだ。
「処刑だ。ただし、現状はバルカスは王子だけどマーゴットは王太女ながら身分は公爵令嬢のまま。まだ学園に在籍中だから爵位も継いでない」
「その場合の罰則は?」
「ない。王族の不貞は王家と関係者の話し合いで解決することになっている」
国が変われば法も異なる。にしても随分と王族側に甘い。
「ちなみに今回のマーゴット公女とバルカス王子のようなケースはどうなるのです?」
「本来ならダイアン国王の采配に委ねられるけど、彼は他国の平民を娶って王妃にしたことといい、王の権威が薄い。王太女権限でマーゴット自身が裁くしかない」
国王親子の黒い目の視線がマーゴットに向く。
「良くて幽閉。処刑は最後の手段にしたいわ」
仮にもバルカス王子は現国王の唯一の王子なので、国外追放などはできない。したとしても、断種の処置などが必要になってくる。
「公女を見ていると、厳しい対応ができなかったのは甘かったと思うね。一国の女王となる者として過酷で冷静な判断を下せるよう訓練するのは大事だよ」
言われてしまった。マーゴットは何も言い返せない。
実際、両親が亡くなった後のバルカス王子への対応は悪手ばかりだった。
夢見を繰り返す中でいくつか決定的な出来事だけは回避できているから、あとは二段階残した目覚めまでにどれだけ現象をコントロールできるかだ。
その夜はマーゴットも考えを整理する時間が必要だろうと、サロンでの対話は早めにお開きとなった。
テオドロス国王からは、彼がまとめたマーゴットたちの夢見を簡単にまとめたフローチャートの紙を頂戴して。
「なるほど。まずはもう一段階、夢見を解除して本当の現実がどうなってるか確認する必要があるか」
「夢見の中で、現実だと思って何回も更に夢見を行ってしまってたのね。案外、ループはそれ以上深い夢見に入らないための防御作用だったのかも」
客間に戻った後、テオドロス国王から貰ったフローチャートと、エルフィン学園長から指摘された『最低でも三重に夢見を行っている』情報を加味して今後の行動を検討していく。
夢見やループごとに、王太女マーゴットの婚約者がバルカス王子、伯爵令息のシルヴィスいずれかバリエーションがある。
だが、この国に来た最初の日のシルヴィスの発言からすると、婚約者はまだ確定しておらず、学園の卒業式の後にマーゴット自身の選定が必要になるのかもしれない。
マーゴットの両親、オズ公爵夫妻が流行病で亡くなるのは阻止できていない。
夢見の術は現実を変える効果もあるが、死者を生き返らせるほど劇的な変化はもたらさないという。
その両親の死後から、バルカス王子のマーゴットへの態度がどんどん歪なものになっていった。
王家からオズ公爵家への支援金の横領。
元々のオズ公爵家の財産の窃盗。
ループによっては、王妃による好意という名の無神経での勝手な霊園発注のせいで、大きく公爵家は財産を目減させて、マーゴットを困窮に追い込んでいたこともあった。
そして卒業式の日、マーゴットはバルカス王子から婚約破棄を突きつけられる。
「どの夢見やループでも、『王太子はバルカス王子だと思われてる』は変わらないのか。帰国したらすぐ雑草会と連絡を取って、まずそこから始めるか」
「手紙を書くわ。帰国したら早々に取り掛かるから覚悟を決めておいてくれって、会に」
以前、ルシウス少年から貰った飴のうち、透明な固形魔力ポーションになっているものを口に含んだ。
瞬時に体内に魔力が満ちる。
意識もクリアで明晰になる。
何があっても、どんなときでも、魔力を減らさず保ち続けるか、増やし続けるかで随分と自分の状態が変わるなと思った。
カーナもルシウス少年からのぶどう酒を少しずつ飲んで魔力チャージを行なっている。
この時点でマーゴットもカーナも魔力を回復し、自分自身や意識状態の混乱もほぼ回復している。
一段階、夢見を解除してもその状態は変わらなかった。
「もう一段階、夢見を解除してみようか。今のオレならここまでの出来事を記憶と一緒に一段階上まで持っていけそうだ」
「……明日のシルヴィスとのお食事の約束も?」
「それはやってみないとわからないなあ」
笑ってカーナがマーゴットの手を取った。
テオドロス国王が素朴な疑問だが、と前置きしてマーゴットたちに訊ねてきた。
「我がアケロニア王国の場合、書類で契約を交わした婚約者の不貞は婚約の破棄や解消はもちろん、慰謝料や、不貞で被った被害の賠償責任が加害者側に生じる」
「被害者の身分に応じて、申請制で個人的制裁も可能になっている、でしたよね? 父上」
「そうそう。まあ仮に、公女と同じ次期女王の立場のグレイシアの婚約者が不貞行為を犯した場合、相手が貴族なら貴族籍の剥奪の可能性がある」
王政国家なら妥当な罰則といえる。
「カレイド王国の王族の婚約者や伴侶の不貞行為への罰則は……」
言い淀むマーゴットの後はカーナが引き継いだ。
「処刑だ。ただし、現状はバルカスは王子だけどマーゴットは王太女ながら身分は公爵令嬢のまま。まだ学園に在籍中だから爵位も継いでない」
「その場合の罰則は?」
「ない。王族の不貞は王家と関係者の話し合いで解決することになっている」
国が変われば法も異なる。にしても随分と王族側に甘い。
「ちなみに今回のマーゴット公女とバルカス王子のようなケースはどうなるのです?」
「本来ならダイアン国王の采配に委ねられるけど、彼は他国の平民を娶って王妃にしたことといい、王の権威が薄い。王太女権限でマーゴット自身が裁くしかない」
国王親子の黒い目の視線がマーゴットに向く。
「良くて幽閉。処刑は最後の手段にしたいわ」
仮にもバルカス王子は現国王の唯一の王子なので、国外追放などはできない。したとしても、断種の処置などが必要になってくる。
「公女を見ていると、厳しい対応ができなかったのは甘かったと思うね。一国の女王となる者として過酷で冷静な判断を下せるよう訓練するのは大事だよ」
言われてしまった。マーゴットは何も言い返せない。
実際、両親が亡くなった後のバルカス王子への対応は悪手ばかりだった。
夢見を繰り返す中でいくつか決定的な出来事だけは回避できているから、あとは二段階残した目覚めまでにどれだけ現象をコントロールできるかだ。
その夜はマーゴットも考えを整理する時間が必要だろうと、サロンでの対話は早めにお開きとなった。
テオドロス国王からは、彼がまとめたマーゴットたちの夢見を簡単にまとめたフローチャートの紙を頂戴して。
「なるほど。まずはもう一段階、夢見を解除して本当の現実がどうなってるか確認する必要があるか」
「夢見の中で、現実だと思って何回も更に夢見を行ってしまってたのね。案外、ループはそれ以上深い夢見に入らないための防御作用だったのかも」
客間に戻った後、テオドロス国王から貰ったフローチャートと、エルフィン学園長から指摘された『最低でも三重に夢見を行っている』情報を加味して今後の行動を検討していく。
夢見やループごとに、王太女マーゴットの婚約者がバルカス王子、伯爵令息のシルヴィスいずれかバリエーションがある。
だが、この国に来た最初の日のシルヴィスの発言からすると、婚約者はまだ確定しておらず、学園の卒業式の後にマーゴット自身の選定が必要になるのかもしれない。
マーゴットの両親、オズ公爵夫妻が流行病で亡くなるのは阻止できていない。
夢見の術は現実を変える効果もあるが、死者を生き返らせるほど劇的な変化はもたらさないという。
その両親の死後から、バルカス王子のマーゴットへの態度がどんどん歪なものになっていった。
王家からオズ公爵家への支援金の横領。
元々のオズ公爵家の財産の窃盗。
ループによっては、王妃による好意という名の無神経での勝手な霊園発注のせいで、大きく公爵家は財産を目減させて、マーゴットを困窮に追い込んでいたこともあった。
そして卒業式の日、マーゴットはバルカス王子から婚約破棄を突きつけられる。
「どの夢見やループでも、『王太子はバルカス王子だと思われてる』は変わらないのか。帰国したらすぐ雑草会と連絡を取って、まずそこから始めるか」
「手紙を書くわ。帰国したら早々に取り掛かるから覚悟を決めておいてくれって、会に」
以前、ルシウス少年から貰った飴のうち、透明な固形魔力ポーションになっているものを口に含んだ。
瞬時に体内に魔力が満ちる。
意識もクリアで明晰になる。
何があっても、どんなときでも、魔力を減らさず保ち続けるか、増やし続けるかで随分と自分の状態が変わるなと思った。
カーナもルシウス少年からのぶどう酒を少しずつ飲んで魔力チャージを行なっている。
この時点でマーゴットもカーナも魔力を回復し、自分自身や意識状態の混乱もほぼ回復している。
一段階、夢見を解除してもその状態は変わらなかった。
「もう一段階、夢見を解除してみようか。今のオレならここまでの出来事を記憶と一緒に一段階上まで持っていけそうだ」
「……明日のシルヴィスとのお食事の約束も?」
「それはやってみないとわからないなあ」
笑ってカーナがマーゴットの手を取った。
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