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第二章 夢と忘れそうなほど充実の日々
祝福の大盤振る舞い
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今回のマーゴットのアケロニア王国への留学の目的のひとつは、この国の偉大な先王、ヴァシレウス大王への謁見があった。
ところが、テオドロス国王が何度も調整しようとしてくれたものの、ここ数年の間に大病で弱っていて起き上がれない日々が続いているそうだ。
その日の夕食時、直接国王からその旨の謝罪を受けた。
「公女、申し訳ない。思ったより父の加減が良くなくてね」
「今年で大王陛下は73歳でいらっしゃいますもの。無理は申せませんわ」
この世界、人々の平均寿命は60年から65年ほど。73歳の先王は長生きの部類だ。
代わりにマーゴットはネオングリーンの瞳でカーナを見た。
「ヴァシレウス大王か。前に見たときは、まだ命数が残ってたと思ったけど」
彼に“大王”の名誉称号を授与したのは、カーナの本拠地、永遠の国だ。授与式に招いた先王ヴァシレウスにはカーナも会っていたと聞いていた。
「よし、ルシウス君方式でいこうか」
マーゴットたちは留学に際してカレイド王国の物産品をアケロニア王家への土産として持参している。
大王は酒好きらしいので、持参品の発泡白ぶどう酒にカーナの神気を込めて服用してもらうことにした。
テオドロス国王が首を傾げている。
「直接、カーナ殿のご神気を注入いただくことはできないのですか?」
「ふふ。なら君たちは、同じハイヒューマンのルシウス少年を大王の背中に括り付けて魔力チャージできると思うかい?」
「あっハイ、納得しました!」
そう、あの元気いっぱいのハイヒューマンの子供は歩く魔力製造機で、普通にその場にいるだけでも大量の魔力を放出している。
あの子供を衰えた老人の側に置けるかといえば、刺激が強すぎるだろう。カーナが直接大王に魔力を使わないと判断したのも同じことだ。
夕食後、サロンに移動すると侍従たちが既に木箱に入った酒瓶を持ってきていた。
開栓はマーゴットたちが帰国する前の送別会を予定していたので、まだ一本も欠けることなく残っていたそうだ。
カーナはぶどう酒の瓶を一本一本持って、祝福と魔力を込めていった。
すると瓶全体がカーナの魔力と同じ、虹色を帯びた真珠色に光り出す。
「うん、上手くできた。一本、味見してみようか」
アケロニア側も偉大な先王に飲ませる酒を事前に確認しておきたいだろう。
フルートグラスを用意させて乾杯。
なお、マーゴットもグレイシア王女も自国の成人年齢は18歳なので飲酒可能年齢である。
「芳醇にして至福。それ以上の言葉がない……」
テオドロス国王とグレイシア王女親子は感涙に咽んでいた。元々味の良いカレイド王国産のぶどう酒が、神気を注入されてさながら神の酒のよう。
カーナは自分の魔力なので特に感慨もない。
マーゴットは子供の頃から親しんでいる慣れた魔力なので耐性がある。
「カーナ殿、こちらの酒にも是非、御慈悲を」
と黒い目を子供のようにキラキラさせながらテオドロス国王が差し出してきたのは、サロン内の棚に陳列してあったウイスキーだ。
特に手間でもないので、請われるまま魔力を込めていった。
カーナの魔力入りウイスキーを返されたテオドロス国王は嬉しそうに瓶を額に押し当てていた。
まずは2本、速攻で離宮で静養するヴァシレウス大王に届けさせることにした。
使者には、発泡白ぶどう酒の説明と、大王が起きていればその場で飲ませて反応を確認してから戻ってくるよう命じて。
「病人なら、酒より水や薬草茶が良かったかな。この国は医聖はいなかったっけ?」
「残念ながら……。聖なる魔力持ちは聖剣使いのリースト伯爵家のルシウスだけですね」
「あの子に頼んで、同じように飲食物に定期的に魔力を込めて王家に献上してもらったらいいんじゃないかい?」
それはマーゴットも思っていた。
だが、国王と王女親子は顔を見合わせた後、笑ってカーナの言葉を否定した。
「王家はあの子の父親メガエリスと話し合って、ルシウスを利用しないと早くから決めております。そもそも、聖なる魔力持ちを国家権力が私欲で利用することは、円環大陸の国際法で厳しく禁じられているはず」
「建前はね。真面目に遵守してくれていて、嬉しい限りだよ」
ただし、聖なる魔力の持ち主本人が望む場合を除く。
例外中の例外は、あのカーナ王国だ。
あそこは国民の中に必ず聖女や聖者が生まれるので、王家と教会で囲い込んで、国を護る結界を張らせ、魔物や魔獣を退治させている。
本来ならそのような扱いは国際法違反なのだが、カーナ王家は法の抜け道を利用している。
聖女や聖者がまだ幼いうちに王家で囲い込んで、王族や王族の血を引く高位貴族と婚姻を結ばせることで、彼女たち自身がカーナ王国に望んで帰属しているとの建前を作り上げ、公表していた。
「次にオレがこの国に来るのはいつかわからない。何かオレの証を残しておこうか」
とカーナが言い出して、どういうことかといえば飲食して無くなる飲み物や食品ではなく、カーナの魔力を留めておける宝物や魔石があれば祝福を授けるとのこと。
まだ残っていたカーナの魔力入りの発泡酒を飲み飲み、テオドロス国王が真剣に考え込んでいる。
「一角獣と黄金龍、どちらの祝福を賜れるのでしょうか?」
「どちらでも。何なら両方でもいいけど」
しばらくテオドロス国王は考えていたが、侍従に命じて私室から小さな宝石箱を持って来させた。
開けると中には黄金のメダルが3枚並んでいる。
「現王家の初代国王由来の金貨です。前王家の邪法で黄金に換えられた初代国王の息子から作られたものと伝わっております」
「えっ!?」
それは国宝中の国宝だ。
アケロニア王国は2000年ほどの歴史のある国だが、およそ800年前に前王家が堕落して、テオドロス国王やグレイシア王女の祖先に倒され、王朝が変わっている。
その前王家というのが、邪悪な錬金術で国民を黄金に換えて贅の限りを尽くした者たちだった。
グレイシア王女たちの祖先は、自分の家族がその被害に遭ったことをきっかけに、前王家の実態を暴いて討ち倒し、新王朝を興している。
「これには龍の祝福と加護がいいだろう」
カーナは金貨を一枚ずつ手に取って、自分の魔力と念を込めていった。
莫大な魔力が金貨に吸い込まれていく。
同時に室内には、カーナ自身の放つ新鮮な桃のような芳香が溢れた。
「よし。これは護符になるから、王族は身につけておくといい」
「ありがとうございます。まずはさっそく病床の父に届けさせることに致します」
その後、お開きになって客間まで戻ってきたマーゴットたち。
「あら。カーナ、神殿に戻らなくていいの?」
もう人の形に戻れたのだから、小龍になってバスケットの中で眠らなくても良いはず。
「ルシウス少年のお陰で魔力が充填できたからね。今のうちに夢見から戻ろうと思って」
「えっ?」
カーナが言うには、夢の中で何重にも夢を見てしまっている現状は早く正したほうが良いという。
「まずは一段階、夢から覚めよう」
「でも。覚めたら今の出来事はどこまで覚めた世界に反映されるのかしら」
カレイド王国から脱出して、婚約者のバルカス王子から離れることができた。
アケロニア王国ではルシウス少年という稀有な存在と出会って、国宝の魚切り包丁の浄化と、マーゴット自身の異常も回復しつつある。
「今ならオレも君も魔力が満ちてて状態がいい。やるなら今だ」
「きゃっ!?」
そのまま手を取られて窓へと導かれた。
客間の大きな窓を開けて、あっという間に横抱きにされて外へと飛び出す。
瞬時に巨大な黄金龍となったカーナの両手に包まれて、そのまま大空に勢いよく昇り始めた。
「さあ、行くよマーゴット。『夢の世界から抜ける』!」
ところが、テオドロス国王が何度も調整しようとしてくれたものの、ここ数年の間に大病で弱っていて起き上がれない日々が続いているそうだ。
その日の夕食時、直接国王からその旨の謝罪を受けた。
「公女、申し訳ない。思ったより父の加減が良くなくてね」
「今年で大王陛下は73歳でいらっしゃいますもの。無理は申せませんわ」
この世界、人々の平均寿命は60年から65年ほど。73歳の先王は長生きの部類だ。
代わりにマーゴットはネオングリーンの瞳でカーナを見た。
「ヴァシレウス大王か。前に見たときは、まだ命数が残ってたと思ったけど」
彼に“大王”の名誉称号を授与したのは、カーナの本拠地、永遠の国だ。授与式に招いた先王ヴァシレウスにはカーナも会っていたと聞いていた。
「よし、ルシウス君方式でいこうか」
マーゴットたちは留学に際してカレイド王国の物産品をアケロニア王家への土産として持参している。
大王は酒好きらしいので、持参品の発泡白ぶどう酒にカーナの神気を込めて服用してもらうことにした。
テオドロス国王が首を傾げている。
「直接、カーナ殿のご神気を注入いただくことはできないのですか?」
「ふふ。なら君たちは、同じハイヒューマンのルシウス少年を大王の背中に括り付けて魔力チャージできると思うかい?」
「あっハイ、納得しました!」
そう、あの元気いっぱいのハイヒューマンの子供は歩く魔力製造機で、普通にその場にいるだけでも大量の魔力を放出している。
あの子供を衰えた老人の側に置けるかといえば、刺激が強すぎるだろう。カーナが直接大王に魔力を使わないと判断したのも同じことだ。
夕食後、サロンに移動すると侍従たちが既に木箱に入った酒瓶を持ってきていた。
開栓はマーゴットたちが帰国する前の送別会を予定していたので、まだ一本も欠けることなく残っていたそうだ。
カーナはぶどう酒の瓶を一本一本持って、祝福と魔力を込めていった。
すると瓶全体がカーナの魔力と同じ、虹色を帯びた真珠色に光り出す。
「うん、上手くできた。一本、味見してみようか」
アケロニア側も偉大な先王に飲ませる酒を事前に確認しておきたいだろう。
フルートグラスを用意させて乾杯。
なお、マーゴットもグレイシア王女も自国の成人年齢は18歳なので飲酒可能年齢である。
「芳醇にして至福。それ以上の言葉がない……」
テオドロス国王とグレイシア王女親子は感涙に咽んでいた。元々味の良いカレイド王国産のぶどう酒が、神気を注入されてさながら神の酒のよう。
カーナは自分の魔力なので特に感慨もない。
マーゴットは子供の頃から親しんでいる慣れた魔力なので耐性がある。
「カーナ殿、こちらの酒にも是非、御慈悲を」
と黒い目を子供のようにキラキラさせながらテオドロス国王が差し出してきたのは、サロン内の棚に陳列してあったウイスキーだ。
特に手間でもないので、請われるまま魔力を込めていった。
カーナの魔力入りウイスキーを返されたテオドロス国王は嬉しそうに瓶を額に押し当てていた。
まずは2本、速攻で離宮で静養するヴァシレウス大王に届けさせることにした。
使者には、発泡白ぶどう酒の説明と、大王が起きていればその場で飲ませて反応を確認してから戻ってくるよう命じて。
「病人なら、酒より水や薬草茶が良かったかな。この国は医聖はいなかったっけ?」
「残念ながら……。聖なる魔力持ちは聖剣使いのリースト伯爵家のルシウスだけですね」
「あの子に頼んで、同じように飲食物に定期的に魔力を込めて王家に献上してもらったらいいんじゃないかい?」
それはマーゴットも思っていた。
だが、国王と王女親子は顔を見合わせた後、笑ってカーナの言葉を否定した。
「王家はあの子の父親メガエリスと話し合って、ルシウスを利用しないと早くから決めております。そもそも、聖なる魔力持ちを国家権力が私欲で利用することは、円環大陸の国際法で厳しく禁じられているはず」
「建前はね。真面目に遵守してくれていて、嬉しい限りだよ」
ただし、聖なる魔力の持ち主本人が望む場合を除く。
例外中の例外は、あのカーナ王国だ。
あそこは国民の中に必ず聖女や聖者が生まれるので、王家と教会で囲い込んで、国を護る結界を張らせ、魔物や魔獣を退治させている。
本来ならそのような扱いは国際法違反なのだが、カーナ王家は法の抜け道を利用している。
聖女や聖者がまだ幼いうちに王家で囲い込んで、王族や王族の血を引く高位貴族と婚姻を結ばせることで、彼女たち自身がカーナ王国に望んで帰属しているとの建前を作り上げ、公表していた。
「次にオレがこの国に来るのはいつかわからない。何かオレの証を残しておこうか」
とカーナが言い出して、どういうことかといえば飲食して無くなる飲み物や食品ではなく、カーナの魔力を留めておける宝物や魔石があれば祝福を授けるとのこと。
まだ残っていたカーナの魔力入りの発泡酒を飲み飲み、テオドロス国王が真剣に考え込んでいる。
「一角獣と黄金龍、どちらの祝福を賜れるのでしょうか?」
「どちらでも。何なら両方でもいいけど」
しばらくテオドロス国王は考えていたが、侍従に命じて私室から小さな宝石箱を持って来させた。
開けると中には黄金のメダルが3枚並んでいる。
「現王家の初代国王由来の金貨です。前王家の邪法で黄金に換えられた初代国王の息子から作られたものと伝わっております」
「えっ!?」
それは国宝中の国宝だ。
アケロニア王国は2000年ほどの歴史のある国だが、およそ800年前に前王家が堕落して、テオドロス国王やグレイシア王女の祖先に倒され、王朝が変わっている。
その前王家というのが、邪悪な錬金術で国民を黄金に換えて贅の限りを尽くした者たちだった。
グレイシア王女たちの祖先は、自分の家族がその被害に遭ったことをきっかけに、前王家の実態を暴いて討ち倒し、新王朝を興している。
「これには龍の祝福と加護がいいだろう」
カーナは金貨を一枚ずつ手に取って、自分の魔力と念を込めていった。
莫大な魔力が金貨に吸い込まれていく。
同時に室内には、カーナ自身の放つ新鮮な桃のような芳香が溢れた。
「よし。これは護符になるから、王族は身につけておくといい」
「ありがとうございます。まずはさっそく病床の父に届けさせることに致します」
その後、お開きになって客間まで戻ってきたマーゴットたち。
「あら。カーナ、神殿に戻らなくていいの?」
もう人の形に戻れたのだから、小龍になってバスケットの中で眠らなくても良いはず。
「ルシウス少年のお陰で魔力が充填できたからね。今のうちに夢見から戻ろうと思って」
「えっ?」
カーナが言うには、夢の中で何重にも夢を見てしまっている現状は早く正したほうが良いという。
「まずは一段階、夢から覚めよう」
「でも。覚めたら今の出来事はどこまで覚めた世界に反映されるのかしら」
カレイド王国から脱出して、婚約者のバルカス王子から離れることができた。
アケロニア王国ではルシウス少年という稀有な存在と出会って、国宝の魚切り包丁の浄化と、マーゴット自身の異常も回復しつつある。
「今ならオレも君も魔力が満ちてて状態がいい。やるなら今だ」
「きゃっ!?」
そのまま手を取られて窓へと導かれた。
客間の大きな窓を開けて、あっという間に横抱きにされて外へと飛び出す。
瞬時に巨大な黄金龍となったカーナの両手に包まれて、そのまま大空に勢いよく昇り始めた。
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