《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
88 / 129
第二章 夢と忘れそうなほど充実の日々

国王陛下の執務室

しおりを挟む
 翌日、カレイド王国のオズ公爵令嬢マーゴットがグレイシア王女と学園に向かったと報告を受けた、国王の執務室にて。

 朝から宰相のグロリオーサ侯爵ユーゴスが鬱陶しかった。
 この宰相は昨日、大地震で屋敷が半壊してしまったリースト伯爵メガエリスに、一貴族だけを優遇して支援はできないと突っぱねてしまった男だ。

 六十代を越えた、如何にも仕事できる系の銀髪宰相ユーゴスは、メガエリスと同年、学生時代は彼のファンクラブ会長の過激派だった。
 魔法剣士にして居合い剣士でもあったメガエリスに魅せられた彼は、だが、自分が彼の熱烈なファンであることをメガエリス本人に隠している。つもりだ。
 本人はあくまでも宰相の職掌に忠実なつもりで支援を求めに来たメガエリス伯爵に憎まれ口を叩いてしまったのだが、結果的にメガエリスを苦境に陥れてしまった。

 で、後から国ではなく自分の家から支援を申し出ようとしたが、本人からは当然、突っぱねられた。
 自業自得な目に遭って落ち込んでいる。

「だから父上が口を酸っぱくして言っていただろう。リースト伯爵家の者は観賞用にするのではなく、親しく交わってともに切磋琢磨していくべき相手だと」

 国王のテオドロスは呆れつつも、一応フォローはしてやっていた。
 父上というのは先代国王のことだ。あの麗しの髭ジジ、メガエリス伯爵は先代国王の年下の幼馴染みで、腹心でもあった。

「お前のような奴をツンデレというらしいぞ。グレイシアが言ってた。影から見つめて讃えてないで、共に酒でも飲めば良いのに」
「そう簡単に申されますが、私めに彼を誘う勇気など……勇気など……!」
「いや、私相手にデレてどうする?」

 黒髪黒目のテオドロス国王は嘆息しながら書類に判を捺した。

 リースト伯爵メガエリスはテオドロスが物心ついた頃には既に魔道騎士団の団長で、父の先王の側に必ず護衛を兼ねて侍っていた。

 そんな彼は居合いの達人だ。8本持つ魔法剣の他に細い長剣を腰に持っていて、それで対象を瞬殺する技の持ち主。
 学園の高等部のとき、御前試合で初めてその技を披露したメガエリスを目の当たりにして、グロリオーサ侯爵ユーゴスはその鮮烈な姿に魅せられ、同じファンになった同級生たちと学内ファンクラブを設立して今に至るそうだ。

 王都の学園には人気のある生徒や教員たちのファンクラブを自主的に作る文化があって、現在だとテオドロス国王の娘、グレイシア王女のファンクラブもあるらしい。

 ちなみに、先王にもファンクラブはあったが、現国王のテオドロスはなかった。
 アイドルを作って盛り上がっている生徒たちを笑いながら眺めていた立ち位置だった。



「さ、仕事をせよ、宰相。地震の被害は収束しそうか?」
「はい。倒壊するほどの被害はリースト伯爵家のみで、他は特にございません。死傷者も少ないようですが、部屋の落下物で怪我をした者は若干」
「結局、リースト伯爵家への支援は父上が行うそうだ。宰相、此度のことは減点1だからな」
「……はい」

 あとの采配は文官たちや、各騎士団に任せれば良いだろう。



「さて、マーゴット公女はどうするか。高位貴族の令嬢というだけなら婦人たちの茶会だが、彼女は次期女王だからなあ」

 元々、マーゴットからはアケロニア王国での留学中は、差し障りのない範囲で国の運営に関連する部署の視察や人々との意見交換をしたいとの希望が出されていた。
 ただ、テオドロス国王から見た限り、マーゴットは知識や経験もまだまだ未熟なので、交流メインのほうが良いかもしれない。

「現役の国王として何か公女様にアドバイスをされるので?」
「うむ。優秀な配下を揃えておけば国は回る。彼女は特に女王だからな。妊娠出産や月のものなどで政務に就けぬときもあるだろうし、本人が頑張らずとも回る体制作りを勧めたい」
「……ご自分でお決めになった就業時間以外は趣味に没頭の国王らしいアドバイスですな」
「積極的に国を治めるのは娘の代に期待しよう。私は偉大な先王の後を固めるだけで精一杯」

 テオドロス国王の父はヴァシレウス大王といって、“大王”の称号を永遠の国から賜った偉人だ。
 その息子のテオドロスは何かと偉大な父と比較され続けている。

 とはいえ当の本人はそんな噂を逆手に取った。
 遠慮なく偉大な父王の業績に胡座をかいて、先王の時代の業績の穴や綻びを繕ったり、補強したりに専念している。
 同じ王族の親子でもタイプが違うのだ。

「極論だが、王は玉座に座るだけでよい。玉座の飾りに負けぬ装いと威厳を持ってな。今回の留学で私が公女に伝えたいのはそれだけだな」
「ヴァシレウス大王陛下との謁見は如何致しますか?」

 先王は既に退位した高齢者で、近年は大病で弱って離宮からも滅多に出てこない。

「滞在中、一度は離宮で茶を飲めるよう調整を。若い女子たちが行けば父上なら多少の不調は耐えてでも会うだろうからな」

 あと気にかかる点があるとすれば。

グレイシアむすめみたいなやる気と元気のあるタイプの女王は、公女には向かんだろうなあ」

 マーゴット公女の年齢は18歳。
 公爵令嬢として、王族の一員として一通りの教育は受けているそうだが、テオドロス国王の目から見て、スタンスが固まっているとは言い難かった。

 カレイド王家は彼女の伯父のダイアン国王の代から伴侶選びに失敗して、マーゴットはその尻拭いを周囲から期待されている。
 そういった周囲の思惑は彼女自身の意思を掴みにくくさせているように見えた。


しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...