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記憶の断片
プリンより甘いもの
しおりを挟むいよいよ、夢見の術に使える魔力の弾切れが見えてきてしまった。
夢見の術を発動して夢の世界に入っても、『カーナを救う』目的を果たせないと、基点の現実に戻るのも苦労する。
夢見に使う魔力を得るために、マーゴットたちは自分のステータスを生贄として代償に使った。
各能力値は固定されておらず、消耗しても後から訓練すれば回復できるものが大半だった。後々回復させることを見越した上で、犠牲を払うと決めた。
まずはダイアン国王が。
次にはマーゴットが。
弓祓いができるシルヴィスはいざというときのため、犠牲を抑えるために温存することを決めた。
マーゴットの能力はどんどん低下してくる。辛うじてどの能力値も平均値はキープしたが、元から高かった魔力値や知性が落ちると思考や行動力も低下していくことになった。
だが、身を削る犠牲を払った甲斐はあった。
少しずつ、夢見の世界に変化が生まれてきたのだ。
バルカス王子がカーナを殺害することは無くなっていき、代わりにマーゴットが被害を受ける方向に変わって、その展開で安定するようになった。
だが、カーナを殺さないよう誘導してもマーゴットが死亡するのでは本末転倒だ。
だからマーゴットたちはカーナが助かった夢見の世界を作れても、現実と統合はさせずに結果の記憶だけを持ち帰った。
やがて夢見の世界の中では、バルカスがカーナの“代用品”として、カーナに雰囲気の似た平民の女生徒ポルテを見つけて寵愛するようになる。
あとはマーゴット自身が身を守り通せば、カーナも無事、マーゴットも無事。
その状態で夢見を解いて、夢の中の仮想現実を現実と統合すれば当初の目的は果たせて終わりになる。
次第に夢の中で現実の記憶も曖昧になってきて、夢見の世界に入り続けていた三人は目的を見失い、夢の中で迷うことも増えてきた。
夢の中で夢だと思い出せないと、抜け出せずにループしてしまう。
「もう、夢見の術の限界ね。あと数回もできないんじゃないかしら。早く切り上げて、ステータス値も回復させないと」
もうマーゴットの各能力値は、すべて平均値の5まで削って魔力に変換してしまっている。
「能力値以外で、代償にできるもの……何があるかしら」
最後にマーゴットが魔力獲得のため捧げた生贄は、シルヴィスへの愛情だった。
魔女メルセデスの「強い感情も代償に使えるけど……」そんな呟きを耳がしっかり拾ってしまったせいで。
「待ちなさい、さすがにそれはいけない! あなたたち、婚約者同士なんでしょう? 愛を捨ててはいけません!」
慌てて魔女メルセデスはマーゴットを止めたが、その愛情の受け取り手であるシルヴィス本人はといえば。
「マーゴットが代償に捧げるほど僕への愛を持ってくれていたことが、とても嬉しい」
「ちょっと、そこは『僕への愛を捨てないでくれ』とか言うべきところでは!?」
全然予想と違う答えが返ってきた。
そして不安と恐れが混ざった顔で見つめてくるマーゴットを抱き締めて、安心させるように笑いかけた。
「人の気持ちはそう簡単に切り売りできるものじゃないと思うよ。……また君が僕を好きになってくれるまで頑張るまでさ」
惚気と自信有りげな発言に、周りは苦笑させられることになる。
「プリンより甘いわ。この男」
神人ジューアは呆れたように麗しの顔で笑った。
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