72 / 129
記憶の断片
カーナが隠し通したかったこと
しおりを挟む
マーゴットが伝えたカーナの最後の言葉に、納得した顔をしたのは魔術師フリーダヤだ。
「なるほど。神人カーナの神話伝承にはいくつか謎があった。本人が健在にも関わらず、何度周りが聞いても教えてくれなかったんだ」
「どういうことです?」
ハイヒューマンの神人カーナは竜人族の王子だったが、母親が一角獣人族だったため雑種と蔑まれて、厄介払いのように魚人族の王子の嫁に出されている。
女性にも男性にもなれる性質のうち、女性の部分を利用される形で。
「当時のハイヒューマンは今の人間みたいな生殖方法は取らないと聞いている。父母それぞれの魔力を掛け合わせて直接“創る”んだ。そして創られた息子が残念ながら、邪道に落ちてしまったわけだけど」
「………………」
「カーナの息子は父親に叛逆して殺害した後で、父の国だった魚人族の国を奪って滅ぼした。その後、カーナの祖国の竜人族の国に魔手を伸ばしたけどカーナの兄王に返り討ちに遭って、今のカーナ王国がある場所に亡骸が埋められた」
ここまでは、円環大陸の神話として比較的知られている。
「カーナの兄王夫婦には子供ができなくて、跡継ぎはカーナの子供になったんだ。まだ赤ん坊だったからカーナが実の親だと知らせないで兄王夫婦の実子扱いの養子にしたと。……でも、その頃にはカーナの夫の魚人族の王族も、カーナの息子もとっくに死んで存在しない時期だろう? じゃあ、その子供は誰との間に創った子供だったんだ? って謎」
「……それは、でも……。カーナがマーゴットに遺した言葉からすると。……ということは、兄王夫婦の養子になった赤ん坊は、最初の息子との間に創った子ということに」
最初の息子が、『息子であり夫』でもあったというならば。
「そういう経歴は高度な人物鑑定スキルがあれば看破できるけど、カーナは隠蔽して他者に自分のステータスを見せなかったからね。……どれ、死んで本人の意識が失われた今なら鑑定できるだろう。遺体は神殿? 行こうか」
何やらとんでもないことを言い出した。
こうなると、マーゴットたちカレイド王国側も言いなりだ。
王宮の国王の執務室から、神殿へと一同は向かった。
カーナの亡骸は、魔法樹脂という透明な魔力の樹脂の中に死亡直後の姿のまま封入され、棺に収められて祭壇前に安置されていた。
「カーナ。私がお揃いのドレスを着てなんて頼んだばかりに、こんな」
せめて男性形のままだったら、バルカスに迫られ襲われることもなかっただろうか。
棺の中のカーナは、女性形でドレスをまとった姿のままだ。
白い肌は青ざめて黒い髪が頬にかかり、琥珀色の瞳は瞼が閉じている。
顔だけみれば優美ないつものカーナの寝顔なのだが、ドレスの胸部から腹部にかけて鮮血に染め上げられている。バルカス王子が魚切り包丁で刺し、斬りつけた跡だった。
そのドレスの胸元は、包丁で斬られたものとは明らかに違う裂け方をしていた。バルカス王子が文字通り襲おうと手にかけた形跡だ。何とも忌々しい限りだった。
「人物鑑定スキル、発動。ランクは上級。……神人カーナのステータス・オープン」
人物鑑定スキルで確認できるステータス項目のテンプレートは、名前、所属(出自)、称号、そして各能力値の体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運が基本となる。
魔術師フリーダヤが皆に見えるようカーナのステータスを空中に表示させた。
名前 カーナ(ハイヒューマン・神人)
所属 竜人族、魚人族、カーナ王国
称号 天空の支配者、円環大陸人類の祖、魔力使いの祖、カレイド王国守護者
「能力値は見えないか。まあハイヒューマンだし数値カンストしてバグるのは仕方がない」
「バッドステータスが……」
ステータス画面に、通常なら存在しないはずのバッドステータス欄が発生している。そこに書かれてあったものは。
「『邪悪なる者の妻(元)』って……」
「詳細があるね。……ああ、そういうことか……」
備考欄にバッドステータスの詳細が記載されている。
『実の息子と結ばれ、子を産んだ近親相姦ペナルティ。本来持っていた聖なる魔力が封じられる』
「ふうん。今の円環大陸の国際法でも親子間や兄弟姉妹間の近親婚は禁じられてるけど、カーナの時代もそうだったのか」
「でも、“元”ってことは今は違うってことですよね?」
シルヴィスの確認に、魔術師フリーダヤは頷いて指先でその“元”の表示の場所に触れた。
「『カレイド王国の女勇者伝来の魚切り包丁(聖剣)によってバッドステータス解除。ただし邪悪なる者の関与のため解除は一部に限定される』」
「つまり聖剣の魚切り包丁で斬られたことで、持っていたバッドステータスが解除された。でも邪悪なバルカスの手によるものだから、中途半端だったということか……」
そのバルカス王子の実の父であるダイアン国王が頭を抱えてしまっている。
「こんなことが判明したから、何だというんだ。もうバルカスは終わりだ。カーナ様が何と言おうと国民と永遠の国が許すまい。カレイド王国は私の代で終わりなのだ……!」
「なるほど。神人カーナの神話伝承にはいくつか謎があった。本人が健在にも関わらず、何度周りが聞いても教えてくれなかったんだ」
「どういうことです?」
ハイヒューマンの神人カーナは竜人族の王子だったが、母親が一角獣人族だったため雑種と蔑まれて、厄介払いのように魚人族の王子の嫁に出されている。
女性にも男性にもなれる性質のうち、女性の部分を利用される形で。
「当時のハイヒューマンは今の人間みたいな生殖方法は取らないと聞いている。父母それぞれの魔力を掛け合わせて直接“創る”んだ。そして創られた息子が残念ながら、邪道に落ちてしまったわけだけど」
「………………」
「カーナの息子は父親に叛逆して殺害した後で、父の国だった魚人族の国を奪って滅ぼした。その後、カーナの祖国の竜人族の国に魔手を伸ばしたけどカーナの兄王に返り討ちに遭って、今のカーナ王国がある場所に亡骸が埋められた」
ここまでは、円環大陸の神話として比較的知られている。
「カーナの兄王夫婦には子供ができなくて、跡継ぎはカーナの子供になったんだ。まだ赤ん坊だったからカーナが実の親だと知らせないで兄王夫婦の実子扱いの養子にしたと。……でも、その頃にはカーナの夫の魚人族の王族も、カーナの息子もとっくに死んで存在しない時期だろう? じゃあ、その子供は誰との間に創った子供だったんだ? って謎」
「……それは、でも……。カーナがマーゴットに遺した言葉からすると。……ということは、兄王夫婦の養子になった赤ん坊は、最初の息子との間に創った子ということに」
最初の息子が、『息子であり夫』でもあったというならば。
「そういう経歴は高度な人物鑑定スキルがあれば看破できるけど、カーナは隠蔽して他者に自分のステータスを見せなかったからね。……どれ、死んで本人の意識が失われた今なら鑑定できるだろう。遺体は神殿? 行こうか」
何やらとんでもないことを言い出した。
こうなると、マーゴットたちカレイド王国側も言いなりだ。
王宮の国王の執務室から、神殿へと一同は向かった。
カーナの亡骸は、魔法樹脂という透明な魔力の樹脂の中に死亡直後の姿のまま封入され、棺に収められて祭壇前に安置されていた。
「カーナ。私がお揃いのドレスを着てなんて頼んだばかりに、こんな」
せめて男性形のままだったら、バルカスに迫られ襲われることもなかっただろうか。
棺の中のカーナは、女性形でドレスをまとった姿のままだ。
白い肌は青ざめて黒い髪が頬にかかり、琥珀色の瞳は瞼が閉じている。
顔だけみれば優美ないつものカーナの寝顔なのだが、ドレスの胸部から腹部にかけて鮮血に染め上げられている。バルカス王子が魚切り包丁で刺し、斬りつけた跡だった。
そのドレスの胸元は、包丁で斬られたものとは明らかに違う裂け方をしていた。バルカス王子が文字通り襲おうと手にかけた形跡だ。何とも忌々しい限りだった。
「人物鑑定スキル、発動。ランクは上級。……神人カーナのステータス・オープン」
人物鑑定スキルで確認できるステータス項目のテンプレートは、名前、所属(出自)、称号、そして各能力値の体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運が基本となる。
魔術師フリーダヤが皆に見えるようカーナのステータスを空中に表示させた。
名前 カーナ(ハイヒューマン・神人)
所属 竜人族、魚人族、カーナ王国
称号 天空の支配者、円環大陸人類の祖、魔力使いの祖、カレイド王国守護者
「能力値は見えないか。まあハイヒューマンだし数値カンストしてバグるのは仕方がない」
「バッドステータスが……」
ステータス画面に、通常なら存在しないはずのバッドステータス欄が発生している。そこに書かれてあったものは。
「『邪悪なる者の妻(元)』って……」
「詳細があるね。……ああ、そういうことか……」
備考欄にバッドステータスの詳細が記載されている。
『実の息子と結ばれ、子を産んだ近親相姦ペナルティ。本来持っていた聖なる魔力が封じられる』
「ふうん。今の円環大陸の国際法でも親子間や兄弟姉妹間の近親婚は禁じられてるけど、カーナの時代もそうだったのか」
「でも、“元”ってことは今は違うってことですよね?」
シルヴィスの確認に、魔術師フリーダヤは頷いて指先でその“元”の表示の場所に触れた。
「『カレイド王国の女勇者伝来の魚切り包丁(聖剣)によってバッドステータス解除。ただし邪悪なる者の関与のため解除は一部に限定される』」
「つまり聖剣の魚切り包丁で斬られたことで、持っていたバッドステータスが解除された。でも邪悪なバルカスの手によるものだから、中途半端だったということか……」
そのバルカス王子の実の父であるダイアン国王が頭を抱えてしまっている。
「こんなことが判明したから、何だというんだ。もうバルカスは終わりだ。カーナ様が何と言おうと国民と永遠の国が許すまい。カレイド王国は私の代で終わりなのだ……!」
14
お気に入りに追加
1,646
あなたにおすすめの小説
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐
仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」
婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。
相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。
この場で異を唱える事など出来ようか。
無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。
「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」
フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。
「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」
とてもとても美しい笑みを浮かべた。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる